ドラえもん異色の恋愛篇『あの窓にさようなら』/藤子恋愛物語④
藤子Fキャラクターたちは、実は恋愛体質の持ち主ばかり。
恋をしては、フラれたり、成就したり、片思いのままだったりと、悲喜こもごもが繰り返されている。
そこで、恋するFキャラクターの恋愛模様を考察していく大型企画「藤子恋愛物語」シリーズを始動!
第四弾は、「ドラえもん」から、遠くのどこかの窓で繋がった若い二人の恋物語をご紹介。
「ドラえもん」は恋の物語とも言える。
ジャイ子と結婚する運命だったのび太が、その運命を動かしてしずちゃんと結婚するまでのお話であった。途中、出木杉という強力なライバルが現れ、嫉妬に狂ったり、一度は諦めたりしながら、無事にしずちゃんのハートを奪うのである。
またドラえもんやジャイアンやスネ夫が恋をする物語もあったし、パパとママの恋愛も描かれている。
そんな恋愛マンガの側面を持つ「ドラえもん」だが、その中で異色のラブストーリーがあるので、本稿ではこちらをご紹介したい。
『あの窓にさようなら』(初出:まどけしききりかえ機)
「小学四年生」1978年11月号/大全集8巻
本作は冒頭から既に少しいつもと違う。
のび太が退屈そうに窓を眺めて、「窓からの眺めはいつも同じ」と独り言を言っている。そこにドラえもんがやってきて、
「まただらけてる! ボヤーッと窓なんか眺めて。こんなにいい天気なんだから外で遊んだらどう?」
と注意する。
するとのび太は包帯でぐるぐる巻きの足を見せる。のび太は足をくじいて三日間学校を休んでいたのである。
「どうせ僕はいつもだらけているから」と言ってふて寝&落涙するのび太。口を滑らせたドラえもんは、お詫びに良い物を貸そうと言って「窓けしききりかえ機」を取り出す。
この機械を操作すると、よその家の窓から見た景色を見ることができるようになる。絶妙にプライバシーを侵害しそうなひみつ道具である。
ドラえもんが方角と距離を合わせると、どこか見覚えのある窓からの風景が写る。しずちゃんの家の窓だとのび太は気付く。窓の外を見てみると、しずちゃんが満足そうな顔をしてイモを焼いている。
しずちゃんの焼きイモ好きは有名で、後に一番の大好物であることも判明する(『しずちゃん心の秘密』)。
のび太はよせばいいのに、挫いた足を引きづってまでもしずちゃんの家に電話して、「焼き芋美味しいかい」と尋ねて驚かせている。
続けてジャイアンの窓を見る。のび太はひと言、「狭苦しくて、汚い眺めだなあ」とかなり口汚い。すると、窓が開いてジャイアンがヌウと入ってくる。
「あれえ? 俺の部屋に忍び込んだつもりだったのに。母ちゃんに見つからないように窓から・・・」
と大混乱に陥り、すごすごと帰っていく。
どうやら「窓けしききりかえ機」を使うと、景色だけ変えるだけでなく、窓自体が移ってくる仕組みであるらしい。ということは、「どこでもドア」のような働きをするということなのだろうか??
もっといい窓を探そうということで、でたらめにスイッチを入れていく。どこかの物干し、きれいな日本庭園、高層ビルのてっぺん、そして飛行機の窓と、色々な風景を楽しむのび太。
と、ここで冷静に考えると、この道具の使い道はあまりはっきりしない。人の家の窓の風景を見て、ちょっとは楽しいが、それだけである。単なる暇つぶしの道具という気もする。
ジャイアンが入ってきたことから、「どこでもドア」みたいな働きをするのかもしれないが、それなら最初から「どこでもドア」を使った方が効率は良さそうである。
さてここまで一切恋愛要素が出てこないが、本番はここから。
どこか遠くの窓を見ようと言って機械を操作すると、どこかの農家の庭先の風景が映る。そこに男性の若者が窓に近づいてきて、ジロジロと窓の中を覗き込んでくる。そしてがっかりしたような表情を見せる。
若者はどこかの窓に向かって語り出す。
「桃枝さん、お別れに来たんだけど留守で残念だ。叔父の工場を手伝うことになって、これからすぐ東京へ行くんだよ」
思わぬ告白が始まり、驚くのび太とドラえもん。
男は一人語りを続ける。
「当分君とも会えなくなる。今まで黙ってたけど、俺、君のことが好きだった。遠く離れても、俺は君を忘れないよ。君も・・・・、時々でいいから、俺のこと思い出して欲しいんだ」
この若者は、急に上京することになり、桃枝という女性に「好きだった」という告白をしにやってきたのだ。アポなしできたので仕方がないが、そのお相手の姿が見えずにがっかりした表情を浮かべたのである。
残念ながらこの告白は、のび太たちに届いても、桃枝には伝わらない。
男は「元気で、さようなら」と言って窓を背に歩いて行ってしまう。
ドラえもんとのび太は、何とか先ほどの告白を桃枝さんに伝えてあげたいと考える。方角と距離は「窓けしききりかえ機」のダイヤルから方角と距離を割り出して、「どこでもドア」を使って窓のある場所へと向かう。
どこでもドアをくぐり、先ほどの窓の場所を確認する。すると桃枝さんと思しきセーラー服の女学生が家に帰ってくる。タッチの差で男性と会えなかったのだ。
のび太は先ほどの若者の告白を桃枝に直接伝えようとするが、ドラえもんはそれを止めて、「まどビデオ」機能で録画していた男性の告白を窓に再生することする。
いつの間にドラえもんが録画していたのか不明だが、直近の映像は自動的に録画できる機能が装備されているのかも知れない。
男性の告白が流される。女学生は男性を見て「ひできさん」と声を出す。
桃枝とひでき。・・・モデルは山口百恵と西城秀樹だろうか。
桃枝は窓を開けずにひできの告白を聞く。そしてひできは背を向けて去っていく。ようやく桃枝が窓を開けるが、当然ひできの姿はない。
伝えることはできたと、どこでもドアでのび太の部屋に戻る二人。けれどひできは、自分の思いが伝わったとは知らずに、一人寂しく電車に揺られているはず・・。
ドラえもんは「自動ついせきアダプター」に「窓けしききりかえ機」を取りつける。するとひできが乗車する汽車の窓の風景が写し出される。カタン、コトンとゆっくり汽車は動き出している。
すると窓の外に、桃枝が走っている姿が見える。桃枝は汽車に向かって叫ぶ。
「ひできさあん。お手紙ちょうだいね~。私も出すからね~。」
ひできがどのような表情で桃枝を見ているかは描かれていないが、きっと大きく手を振って笑顔をこぼしているに違いない。あえてひできの表情を描写せずに想像させるという、余韻を残す名シーンではないだろうか。
「窓けしききりかえ機」で偶然出会った男女二人。互いに好きなはずなのに、あやうくすれ違ってしまうところを、ドラえもんたちの行動によって思いを伝えあうことができたのであった。
「ドラえもん」の短編においてゲストキャラが登場する話は少なくないが、本作のようにきちっとロマンスが描かれるパターンはかなり珍しい。
また、ラストの汽車の窓を挟んだ感動的なシーンは、後年の森田芳光監督作「ハル」に影響を与えたのではないかと勝手に勘ぐっている。(森田監督は藤子先生原作の「未来の思い出」を撮影しているので、さもありなん)
また、本作を異色と感じるのは、のび太が怪我をして学校を休んでいるというあまり例のない設定であるからだ。「ドラえもん」ワールドでは例えばジャイアンにボコボコにされても、その怪我は数コマで無くなってしまう。怪我が作品一本通じて残ることがあまりないのである。
もっとも、のび太は学校を休む程の怪我の割に、わざわざ一階まで降りてしずちゃんの家に電話をしたり、桃枝の家へと出向いたりしている。どうやら明日から登校できそうである。
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