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ぼく、ほんとはデンカが好きなんだよ『ナラ子もやっぱり女の子』/ウメ星デンカとナラ子の場合③

藤子作品に登場する人物たちは、ほとんど恋をしている。そういう観点から「藤子恋愛物語」という連載記事をこれまでに15本書いているが、本稿はそこに加えるつもりだった作品を取り上げる。

藤子作品の中では、知名度の割に実際に読んでいる人が少ないランキング一位(藤子Fノート調べ)の「ウメ星デンカ」だが、この中では二大モンスターキャラが登場している。それがナラ子とゴンスケである。

この二人はひたすら我が道を行く、周囲からすれば迷惑極まりない人たちだが、二人とも実は恋愛キャラでもある。


ゴンスケは、ロボットのくせに太郎のガールフレンドのみよちゃんのことを大好きになり、自分も好きになってもらおうと、実直に迫っていく。迷惑でしかないが、その思いは純情そのもので、時にみよちゃんが優しくしてくれたりするものだから、そこで勘違いしたりしてしまう。

ゴンスケとみよちゃんの話題についても、どこかで記事にしなくては、と思う次第である。

そして、ひたすら暴れん坊のナラ子なのだが、登場3話目にちて、急にデンカのことが好きだったということが明らかとなる。しかも、その気持ちがデンカにもバレてしまい、大騒ぎに発展することになる・・・。そんなお話をここから語っていきたい。

と、その前に、余裕のある方はこれまでの記事も是非ご覧ください。


『ナラ子もやっぱり女の子』
「週刊少年サンデー」1969年16号/大全集3巻

本作のタイトルとなっている『ナラ子もやっぱり女の子』は、ナラ子初登場回の『シンデレラのゲタ』のラストシーンでデンカが発する「これ女の子?」という疑問に対してのアンサーとなっている。

世間一般に言われる「女の子らしさ」から大きく乖離したナラ子は、人の迷惑を省みないし、何よりひねくれている。天邪鬼という言葉があるが、まさにそのど真ん中の性格である。

しかし、本作を読むと良くわかるが、最終的にはどこか憎めない純情さを垣間見ることができる。嫌な性格なの嫌いになれないという、藤子先生の独特のバランス感覚が発揮されたキャラクターだと言えよう。


普段は父親のベニショーガから離れて、プロキシマ星で母親と暮らしている。ワープで30分の距離だが、ベニショーガの「自分たちだけ家族一緒になって幸せに暮らすことはできない」という真面目な官僚魂によって、別居生活を余儀なくなれている。

そんなある日、ベニショーガにナラ子の母親(つまり妻)から宇宙電話がかかってきて、ナラ子が家出して地球に向かったと連絡を受ける。

前回地球に来た時には、ナラ子のいたずらによって、デンカたちは酷い目に遭っている。ベニショーガはそれを踏まえて、ナラ子を言い聞かせようと待ち構える。


ナラ子が来ると知ったデンカは、「僕あの子苦手だ」と言って、「留守にするからね」とツボの中に潜り込んでしまう。太郎も作ったばかりの船のプラモを隠すことに。

ベニショーガは、王様と王妃に「しばらくどこかへ避難を」と勧めるが、二人は「ナラ子なら歓迎してあげようぞ」とウェルカムの姿勢。ベニショーガは王族に対して尊敬の念がある忠臣なので、ナラ子が無礼を働くのを恐れているのである。

すると、いつ間にか地球に到着していたナラ子は、透明になって、父親であるベニショーガを王様の上に乗せるといういたずらをして、ベニショーガをさっそく怒らせる。


ベニショーガはナラ子を追って外に出ていってしまうが、ナラ子は実は家の中に留まっている。ナラ子はお目当てのデンカを探すのだが、姿がない。デンカはナラ子から逃れて、ツボの中に身を隠しているのだ。

デンカが、王様の声真似で「太郎と遊ぶといいぞよ」と忠言したことで、ナラ子が太郎と遊んでやると言い出し、太郎が隠していた船を見つけ出して、これを壊そうとする。


太郎はここで早くもギブアップ。ツボに隠れているデンカに抗議し、デンカはナラ子に見つかってしまう。ここから、ナラ子とデンカの遊び(バトル)が始まることに・・。

その内容は以下。

・ナラ子にニコニコするデンカに対して、すかさずアカンベーをする
・「いい天気だから散歩しようか」と提案すると、速攻で「つまんない」と断ってくる
・「でも行きたいなら付いて行ってやるよ」と上から目線
・通りかかった車を「スッパッパ」とひっくり返してしまう
・ナラ子は花を摘んで花輪を作っているが、これはデンカを馬代わりにするための手綱であった

次から次へとデンカの気分を損ねる言動を繰り返すナラ子。デンカもここでギブアップとなって、ツボに乗って逃げだしてしまう。

なおデンカがいたずらされている間、前回の作品(『おそるべきナラ子』)で痛い目に遭ったフグ田と三角が、ナラ子を見て逃げ出す描写も挟まれている。誰もがナラ子には近寄りたくはないのである。


デンカの「付き合いきれない」という叫びに対して、王妃が「私が少ししつけてみまする」と立ち上がる。王様は「きっとそなたのように美しくしとやかな子になるぞよ」と大歓迎。

さっそくデンカを追ってきたナラ子に、王妃は「二人きりで話がしたい」と誘う。襖を足で開けたり、机にどっかと腰を落とすナラ子に、「女の子は優しくしとやかであらねばありません」とお説教するのだが、ナラ子は「誰が決めたの」と鋭く切り返す。

「誰かと言われても」と答えに窮する王妃に、ナラ子は「そんなあやふやなことじゃ困る」と指摘、さらに「問題を白紙に戻して徹底的に検討してみようではありませんか」と逆提案するのであった。

ここのやり取りを見ていると、ナラ子は単なるひねくれ者ではなくて、世の中の決まり事に唯々諾々と従うのが嫌なんだということがわかる。

そんなわけで、女の子らしくさせようとした王妃だったが、逆にナラ子の影響を受けて、襖を足で開けてしまうようなガサツな女性へと生まれ変わってしまうのであった。


続けて王様が説得に乗り出すことになる。王様はいくつかのやり取りの中で、ナラ子に対しては何でもアベコベに言えば言うことを聞くという操縦法を発見する。ところが「滅茶苦茶に暴れていいぞよ」とナラ子に言うと、「王様のご命令なら」と容赦なく部屋を滅茶苦茶にしてしまう。

ナラ子は、全く操縦不能な天邪鬼なのであった。


ナラ子がデンカたちを追い駆けて出掛けてしまうと、入れ替わるようにナラ子を探していたベニショーガが帰宅。散らかった部屋がナラ子の仕業と知ると、強くショックを受けてしまう。

娘の扱いに苦労しているベニショーガを慮って、王様は「あれじゃベニショーガも大変」と心中を察し、王妃は「心から同情する」と同情し、太郎のママからは「お嫁の貰い手があるか心配ですわね」と心配される。

するとこれらの慰めを娘への悪口と受け取ったベニショーガは、「うちの娘はそれほど酷くはありませんぞ!!」とキレてしまう。娘も扱いずらいが、父親も一筋縄ではいかない性格なのである。


ベニショーガは娘に手を焼いているが、こうなってしまったのも自分が甘やかしたせいだと自覚しているようで、「あの子もかわいそうな奴だ」と考えている。

ベニショーガが歩いているとナラ子が一人で立っているのを見つける。何をしているか尋ねると「デンカがどこかへ隠れちゃった」と少し落ち込んだ表情を浮かべる。

ナラ子は純粋な目で、「デンカはぼくが嫌いなのかしら」と父親に聞くと、「あれだけ意地悪されれば、誰だって逃げ出すだろうな」とベニショーガは答える。

するとナラ子は急にワーンと泣き出して、重要な心の内を吐露する。

「ぼく、ほんとはデンカが好きなんだよ。だけど顔見るとついいたずらしたくなっちゃうんだよ」

この何ともひねくれた愛情表現。好きな子のスカートをめくる小学生男子のようなものだろうか。ただ、ここではっきりとナラ子がデンカにちょっかいを出し続けているのは、好きだからということが判明するのである。


ところが、こうしたツンデレなナラ子の行動が理解できるデンカ(10才)ではない。ナラ子の告白を陰で聞いてしまったデンカは、「そんなのあるかい」と声に出してしまう。

するとナラ子は「今の聞いてたの?」と衝撃を受けて、キャーッと悲鳴を上げてツボに乗って空高く飛んで行ってしまう。

あまりの恥ずかしさから、雲の中で暴れ回るナラ子によって、辺りに強い雷雨が降りかかり、デンカもベニショーガもびしょ濡れ。家では「もーれつ!!」と驚く太郎であった。

この「もーれつ」というセリフは、本作が発表された1969年当時からテレビで流れ始めた丸善ガソリン(現コスモ石油)のCMから取られたものである。「オー・モーレツ」というレースクイーンに扮した小川ローザのセリフは、たちまち流行語となり、やがて定着していくのである。



さて、ナラ子はこの後「小学一年生」に一度顔を出して(『ナラ子のおみやげ』)、しばらく姿を消す。そしてナラ子不在の間は、もう一人のトンデモ言動キャラのゴンスケがデンカたちを翻弄することになる。

ゴンスケに手を焼いたデンカは、ナラ子を呼び出し、毒には毒の精神でゴンスケと対峙させるのだが、二人は戦わずして互いを認め合い、意気投合してしまう。(『ゴンスケ対ナラ子』

そして、本作でデンカが好きだということが知られてしまったナラ子は、開き直るようにデンカに接近していく。そこではゴンスケも絡み、奇しくも二大キャラにデンカは更なる被害を受けることになるのだが、それについては次稿で詳しく取り上げることにしたい。



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