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ベニショーガの娘への複雑な思いとは?『おそるべきナラ子』/ウメ星デンカとナラ子の場合②

何はともあれ、以下の記事にまず目を通してもらいたい。(読まなくても大丈夫ですが・・)


上記の記事では、藤子作品で最も過小評価されている(タイトル知名度の割に読まれていない)作品は、「ウメ星デンカ」なのではないかと指摘した上で、作品の魅力について語っている。

特に個性が溢れ出まくっているキャラクターたちが魅力的で、「オバQ」とも一味違う、キャラの濃さが前面に出ているように思う。

そんな「ウメ星デンカ」の中で、たった7話しか登場していないが、抜群の存在感を発揮した多面的な魅力を持つキャラクターである「ナラ子」に着目して、記事にすることにした。

ナラ子は典型的なおてんば娘で、ウメ星の皇太子であるデンカのことを雑に扱いつつ、しかし本当は好きだったりもする。このツンデレ的な二面性が魅力的なのである。デンカとは「恋」のエピソードも描かれおり、ある種のラブコメキャラにもなっている。

ほーら、そう聞くと、興味湧いてきませんかね・・。

ということで、数本の記事を使って、ナラ子の魅力とデンカとの関係性についてたっぷりとご紹介していきたい。本稿はその二本目。前稿ではお話の最後にようやく登場したナラ子について簡単な紹介に留まったが、本稿では真なる魅力が開花する二度目の登場となったエピソードを取り上げる。


『おそるべきナラ子』
「週刊少年サンデー」1969年11号/大全集3巻

前稿を読んでもらえればわかるが、ナラ子の初登場回『シンデレタのゲタ』のラストにおいて、ナラ子の言葉使いや行動の粗雑さが露わとなり、デンカに「これ女の子?」と疑問を呈されてしまう。

二度目の登場となった『おそるべきナラ子』では、とても小さな女の子とは思えない、暴れん坊ぶりや、ひねくれ具合を次々と披露していく。


本作は、扉絵からナラ子のキャラ紹介が始まっていく。扉では移動用のツボに入ったナラ子がでかでかと描かれ、「父をたずねて4.3光年。はるばる地球へ来たんだよ」と自己紹介している。

これは「母をたずねて三千里」をもじったセリフだが、本作が描かれたのは「世界名作劇場」枠で「母をたずねて三千里」がアニメ化された7年も前のこと。本作執筆当時でも、「母をたずねて三千里」は著名なタイトルだったのだろうか?

また、4.3光年の旅程だったとしているが、この4.3光年という距離は地球から最も近い場所に位置する恒星プロキシマ星と同距離。ウメ星デンカでは、これをプロシキマ星としている。

ちなみに「パーマン」ではプロキシマ星がスーパー星だと語られており、プロキシマ星とプロシキマ星が同一の星とするならば、ナラ子は通常スーパー星に身を寄せているということになりそうだ。


ナラ子の話を聞いていたデンカと太郎は、たった一人で小さなツボに乗って旅をしてきたことを想像して、「色々辛いことがあっただろうな」と感動する。それはまるで「母をたずねて三千里」のアニメを見た感想のようである。

しかしナラ子は「でもないわよ」と顔色一つ変えない。ウォーブ航法を使えばせいぜい30分で地球についてしまうというのである。

なお、ウォーブ航法というのは、おそらく宇宙でのワープ航法のことだろうが、これは同時期に描かれた『21エモン』でも同名のワープ技術が登場している。ちなみに「スタートレック」などでは「ウェーブ航法」という名称が使われているようだが、これを参考にしたのだろうか?


ナラ子が「なんてことない」と言い出すので、デンカたちは「でも女の子の一人旅は大変だよ、お父さんに会いたい一心でさ」と、何とか泣ける話に持っていきたいのだが、対するナラ子は「お母さまが勉強勉強とうるさくて、気晴らしに地球に来てみたんだよ」とあっけらかんとしている。

デンカたちは思わず「せっかく感動していたのに」と、すっかり興醒めしてしまう。


するとナラ子がうろついていることが許せない父親のベニショーガは、ナラ子に「すぐ母さんの所へ帰りなさい」と命じるのだが、いわゆる天邪鬼な性格のナラ子は、「そんなにうるさく言うなら帰るのよそう」と反発してしまう。

そしてここからは、なんとかしてナラ子を大人しくさせたいベニショーガといちいち反発するナラ子とのやりとりに、周囲が巻き込まれていく。

ナラ子を追い返そうとしていると聞いた王様は「それは可哀そうだぞよ」とベニショーガを諭す。このまま放っておくとデンカたちに迷惑がかかると確信しているベニショーガは食い下がるのだが、それに対して王様は「不人情だぞよ、それでも親か!」と叱りつける。

すると、せっかくナラ子の意向を汲んであげていた王様だったのに、ナラ子は今度は父親の肩を持ち、「お父さまをイジメると承知しないぞ!」と怒って、「スッパッパ」と王様を窓の外へとすっ飛ばしてしまう。

王様はそのまま電柱の上の方に引っ掛かり、忠臣であるベニショーガは「娘のお詫びにに切腹いたしまする」とハラキリを始めようとしてしまう。


「子供のしたことだぞよ」と王様の恩赦を得たベニショーガ。何としてもプロシキマへ追い返すといきり立つが、一人では自信がないということで、デンカや太郎たちにも協力を求める。

「脅し、嫌がらせ、意地悪、どんな手段でもいいから帰らせて下さい」

と、言葉だけはやけに厳しいベニショーガである。

デンカはナラ子に対して、「地球にいてもいいことない」という説得を試みる。ところが、「ろくな友だちもいない、食べ物はまずいし、おばさんはいる・・・」と中村家を思いっきりディスる発言となってしまい、太郎とママの怒りを買ってしまう。

なお、ナラ子は「食べ物のことならご心配なく」といって、ツボから大量の豪華料理を取り出して見せる。お弁当をたっぷり用意してきたとのことだが、このお弁当は、この後の展開に繋がる伏線にもなっている。


ベニショーガはこっそりと太郎のママに、「ナラ子を召使のようにこき使ってくれ」とお願いする。地球での暮らしをウンザリさせる作戦なのだという。そこで、言われた通りにナラ子に「洗濯・皿洗い・掃除・お使い」を指示するが、ナラ子は、速攻で「いやあよーだ!!」と舌を出して拒否。

「じゃいいわ」とすぐに引き下がるママだったが、天邪鬼のナラ子は、「いいのならやる」と急に家事を手伝う方向に舵を切る。

家事を引き受けてくれて助かるとベニショーガに結果をフィードバックすると、「あんな小さい子にそんなたくさん?!かわいそうに・・」と、思いがけない反応。つい「あなたが言ったんですよ」と突っ込むママなのであった。


結局は娘思いのベニショーガは、「少し手伝ってやらにゃ」と飛び出していくが、一枚上手のナラ子は、持ってきた豪華弁当をエサにして、洗濯・掃除の類いを太郎やデンカや王様に振ってしまっている。それを見て、再度怒り出すベニショーガ。

逃げていってしまうナラ子。後を追っていくとガキ大将のフグ田や子分の三角に、「見慣れないチビだ」などと絡まれている。おもちゃのピストルでコルク栓をぶつけられ、ナラ子は仕返しに二人を蹴り飛ばす。そのまま、三人は喧嘩へと発展してしまう。

距離を取って様子を伺っていたベニショーガ。当然娘に手を出そうとしている輩をみて激怒するのだが、「少しは懲りた方がいいかも」と後追いするのを止めてしまう。


娘を守るのか、突き放すのか。悩めるベニショーガの表情は、すっかり親の顔である。これもクスリだと思い込むようにしていたのだが、フグ田の乱暴ぶりの噂を耳にしたベニショーガは、「クスリが強すぎた!」と方針転換し、「わしが助けに行くぞ!」とナラ子の元へと走り出す。

ところが、ベニショーガの想像を上回るやんちゃ娘のナラ子は、フグ田と三角を空中に浮かべ、おもちゃのピストルの標的にして泣かせている。町内の乱暴者も、ナラ子の手にかかれば赤子の手をひねるようなものだったのである。


ベニショーガは、怒ったり注意しても帰ってくれないと考えて、今度は本音ベースで説得しようと試みる。二人きりになろうと言って空の上へと飛んでいき、まずはナラ子への愛情を表現する。

「良く会いに来てくれた」と抱きしめて、「お前たちのことを片時も忘れなかった」と告げる。ナラ子は、「だったらお母さんも呼んで一緒に暮らそう」と逆提案するのだが、そこでベニショーガは、ウメ星王への忠臣の顔を見せて、その案を却下する。

「ウメ星国を建て直す大事な仕事が先だ。全ウメ星人が住む国もなく散り散りになっているのに、わしらだけ幸せに暮らすことはできないよ」

と、ベニショーガの仕事にかける強い思いを吐露するのであった。

考えてみれば、ベニショーガは王族を支える官僚トップであるのだが、こうまで倫理的な人物であり続けようと考えているとは知らなかった。彼の国民への思いを感じさせる貴重なセリフである。


この真正面からの説得に、さすがのナラ子も意気消沈して、帰宅を受け入れる。そしてベニショーガはお土産を用意して、かあさんにもよろしくなと言って送り出そうとする。

するとデンカたちが姿を見せて、「みんなで相談した、ナラ子は帰らなくてもいいよ」と声をかけてくる。太郎のママにも了解してもらい、一緒にこの家に住もうと言うのである。

ママも「もうこうなったらやけくそ」とつい本音を漏らしつつも、優しくナラ子を受け入れようとする。ベニショーガは「ありがたきお言葉」と言って泣き出す。

ところが、特に感慨の表情など浮かべず立って話を聞いていたナラ子。ベニショーガは「そうさせていただくか」と、先ほどの説得を翻すのだが、当のナラ子は、

「みんながいてもいいと言うなら、ぼく帰る」

などと、天邪鬼全開の受け答え

みんなの好意を無下にして、「また遊びに来るねーっ」と元気よく、ツボに乗ってプロキシマへと帰還していく。すっかり娘に翻弄されたベニショーガは、「へそ曲がりめ、クックク・・」と泣き出すのであった。


本作ではナラ子が、相手が王族だろうとガキ大将だろうと父親であろうと、まるで自分を曲げない強烈なキャラクターであることが描かれている。

本作では主に父親との関係性について描かれていたが、次に登場する回では、ナラ子のおてんばキャラを前提として、今度はデンカとの関係性が描かれることになる。

個人的には、今回の「ウメ星デンカとナラ子の場合」シリーズで最高の作品なので、どうぞお楽しみに。



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