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いやんエッチ!『しずちゃんとスイートホーム』/のび・しず・出木杉の三角関係③

野比のび太は、なぜしずちゃんと結婚できることになったのだろうか。のび太がしずちゃんが好きなことは痛いほどわかるが、「ドラえもん」を通読しても、その疑問の回答を得ることはできない。

しずちゃんサイドに立った時に、のび太を選ぶ理由がないのである。

確かに、タイムマシンで未来の世界に行けば、しずちゃんと結婚して子供も生まれているし、婚約(78年)や結婚前夜(81年)の二人を見ることができる。(結婚式の模様はこの時点では描かれないが)

しかし現実世界では、のび太としずちゃんの間に割って入ってきた出木杉君が、恋の障害となってのび太の行く手(未来)を遮る。果たして、のび太はしずちゃんの気持ちをしっかりと掴むことができるのだろうか?


「のび・しず・出木杉の三角関係」と題したシリーズ記事を立上げ、ここまで2回に渡って、恋のライバル出木杉と出現と、あっという間にしずちゃんを心を捉えてしまった出木杉に嫉妬の炎を燃やすのび太の様子を描いた作品を見てきた。


本稿では、しずちゃんの手編みのマフラーを巡って、またしても嫉妬に狂うのび太が、ドラえもんの道具を使ってしずちゃんの心を掴もうとするお話を紹介したい。しずちゃんが、実際のところ出木杉君をどのように見ているのか、その一端が明らかとなる点にもご注目いただきたい。


『しずちゃんとスイートホーム』
「小学六年生」1983年2月号/大全集10巻

本作では冒頭一コマ目からのび太をどん底に突き落とすシーンが描かれる。何としずちゃんが手編みのマフラーを出木杉にプレゼントしているのである。

「暖かそうだなあ」と出木杉、「気に入ってもらえて嬉しいわ」としずちゃん。その様子を衝撃を持って目撃するのび太。三人の関係性が一瞬で分かってしまう恐ろしい一コマである。

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のび太は「この世の終わりだ!!」と深く絶望し、肩を落として帰宅する。そして怒りをドラえもんにぶちまける。

「嘘つき!! もう君の言うことなんか信用しないぞ!! しずちゃんは将来僕のお嫁さんになるって「タイムマシン」で未来を見せて・・・。しかし! 現実の動きを見ているととても信じられない!! で、で、出木杉が、しずちゃんを編んでマフラーに・・・

と、最後の方は言っていることが滅茶苦茶になっている。

「つまりはヤキモチね」

と、あっさり状況を一言でまとめたドラえもんは、のび太に空き地に付いてくるように言う。愛を育てる家、「即席スイートホーム」を建てようというのである。


「即席スイートホーム」は、好きな人をこの家に誘うと、相手もこっちを好きになってくれるというもの。ただし、効果は家の中にいる間だけである。

また、この家の効果が抜群なのはわかるが、これでどうやって愛が育つかは不明である。スイートホームごっこを楽しみたい道具なのか、この家に居続ければ実際に好き合うことができるようになるのか。そのあたりの効用が大いなる謎に包まれている。


家の中は、外見以上に広くて、バス・トイレ・台所が完備している。またポイントとしては、後から家に入った人が先に入った方を激しく愛するというルールとなっている点が挙げられる。

のび太、ドラえもんの順でこの家に入り、スイッチを入れると、ドラえもんがウットリしてきてのび太に抱きついてくる。男女や人間かロボットかなどを超越した、凄い力を持っているようである。

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さっそくしずちゃんを誘いにいくのび太。「今宿題やってるのよ」と明らかに不満の表情のしずちゃん。のび太が「一緒にやろう」と話を合わせると、

「勉強相手としてはのび太さんは適当じゃないのよね」

不平不満をはっきりと口にするしずちゃん。のび太はこれを聞いて、当然気分は悪い。

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しずちゃんは家を見ると、「きれいなおうち」と喜んでくれて、少し機嫌を直してくれたご様子。きちんとのび太→しずちゃんの順番で家に入っていく。

しばらくすると、スイートホームの効き目が現われ、しずちゃんの胸が高まり、のび太に「好きよ」と口にする。のび太はそれを聞いてそっけなく返す。

「出木杉の方が好きなんだろ。マフラーなんかやったりして!!」

と出木杉との仲を疑うのび太。するとしずちゃんは、

「あれはお礼よ。いつも勉強教えてもらうから」

と答える。


この回答がなかなか意味深で、「即席スイートホーム」の効果でのび太好きになっているしずちゃんが、その場逃れでこのように答えたのか、それとも本音として本当にお礼の気持ちだけだったのか。両方考えられるところである。

個人的には、このシーンから、しずちゃんは出木杉を恋愛対象ではなく、家庭教師のような感じで見ているのだと受け止めている。普段、出木杉は「しずかくん」という教授と生徒みたいな関係性で呼びかけているし、交換日記でも勉強の話題ばかりであった。その辺の流れと繋がっているように思える。(前回の記事参照)

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「好きなのはのび太さんだけ」という、最高の告白を引きだした後は、二人でスイートホームをじっくりと堪能する。

浴室にはライオンの口からお湯が注がれる大浴場を備えており、お風呂好きのしずちゃんは「素敵!!」と大喜び。すかさずのび太は、「一緒に入ろうか」とアダルトな誘いをかけて、しずちゃんからは

「いやんエッチ!」

満更でもないご返答を頂戴するのであった。

ちなみにこの風呂に入る入らないのくだりは、のび太は結構本気だったようで、お話の後半でしずちゃんに再びお風呂に誘っている。のび太がエッチなのは、まあ間違いない。

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しばらく二人で背中合わせに座って、愛を感じるひと時を過ごす。居間の中央にはハート型の明かりが下がっているが、しずちゃんはこれをみて「私、ハートって大好き」とロマンチックなことを言うと、デリカシーのないのび太は

「あの形を見るとおしりを思い出すんだ」

と妙な合いの手を入れてくる。スイートホームの効果絶大のしずちゃんは、怒るでもなく頬赤らめて照れてしまう。


そして照れ隠しもあって、台所があるのでホットケーキを焼くことを思いつく。そして材料を取ってくると言って家を出ると、これまでのスイート効果はあっさり失われ、「こんなことをしている暇はない」と、足早に帰って行ってしまう。

そんなことを露知らずののび太は、ホットケーキが楽しみだと思いつつ寝転がってしずちゃんの帰りを待つ。そんなのび太を訪ねてくるもう一人の女の子が現れる。それは、かつてののび太の結婚相手、ジャイ子である。

ジャイ子はのび太を新作ギャグマンガの主人公にしようと考えて、のび太を探していたのだが、しずちゃんに居場所を教えてもらったのである。ジャイ子が家にやってくると、すぐにスイート効果を吸収し、のび太を追いかけ回してくる。

ジャイ子は初登場時にはかなり性悪な様子だったが、漫画家の卵となってからは、傷つきやすくも前向きな性格のいい子に成長している。しかしながら、やはりのび太はジャイ子が好きではなく、逃げ回ってそのまま家から飛び出してしまう。

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ジャイ子も家の外に出て我に返る。再びのび太を探して周囲を見回すと、兄・ジャイアンがスネ夫と共に近づいてくる。のび太をモデルにしたいという話を聞いたジャイアンとスネ夫は、のび太を捕まえようと動き出す。

すると空き地の即席スイートホームを見つけ、二人で家の中へと入っていく。順番は、スネ夫→ジャイアンの順である。


のび太はしずちゃんの家まで押しかけて、スイートホームに戻るようお願いする。するとしずちゃんは、

「やーよ。あそこへ入るとおかしくなるもの」

とのび太を拒否。「あの素敵なお風呂に入りたくない?」と妙な食い下がり方をするのび太だが、しずちゃんは「宿題やらなきゃ」と聞く耳を持たない。

するとしずちゃんは、カバンをスイートホームの中に置き忘れたことに気付き、空き地へと戻る。追いかけるのび太。すると、スイートホームの中では、ジャイアンがスネ夫に掴みかかっており、スネ夫が必死に逃れようとしている。

「ギャー助けてえ」
「俺がこんなにも愛しているのに!!」

ジャイアンは好きになった相手に対しても、リターンがないと暴力を振るうやっかいなDV男なのであった。

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本作では、永続的に関係性が変化しない「即席スイートホーム」でのドタバタ劇が描かれた。道具の効果とはいえ、のび太にとっては出木杉にも勝てた幸せなひと時であっただろう。

もちろん、こうした道具に頼っている日々においても、しずちゃんと出木杉の結びつきはどんどんと強まっていく。次稿では、そうした三角関係の決定版とも言える作品を取り上げて、シリーズの一区切りとしたい。


「ドラえもん」の傑作エピソードを絶賛考察中です。


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