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初期ドラならでは魅力多数!『ケーキを育てよう』/単行本未収録幼児向けドラえもん④

藤子F先生の生誕90周年を記念して、誕生日である12月1日に数冊の新刊が発売された。新刊と言っても、当然新作が生まれてくるはずもないので、再編集版というところが正確だろう。

その新刊の一冊が「ドラえもんプラス」の第7巻である。ん?「プラス」とは何ぞやと、思う方もいるかも知れない。

「ドラえもん」の単行本と言えば、皆さんご存じのてんとう虫コミックスから全45巻が刊行されている。このシリーズは全て藤子F先生がご存命中に編まれたもので、収録に際して先生の加筆修正が行われるなど、いわば傑作選のような位置付けにある。

ところが、1300本以上存在する「ドラえもん」の短編の内、てんとう虫コミックスには800本ほどしか収録されていない。

残りの500本を読むには、初出の雑誌を買うか、再収録された「コロコロコミック」を入手するしかない状況であったのだ。(今は「大全集」で読むことができる。良い世の中になったものである)

そこで、ある種の禁じ手な気もするが、傑作選である「ドラえもん」シリーズとは別に、「ドラえもんプラス」というシリーズを立ち上げて、てんコミから漏れてしまった読むべき作品を収録することになったのだ。


しかしながら、「プラス」からも漏れている作品というものがまだまだ存在している。特にドラえもんの連載開始直後の幼児向け雑誌に掲載された作品は、ページ数も少ないことから多くの作品の収録が見送られている。

けれど、その後の短編で使われる元ネタのようなお話も多いので、これを無視しておくわけにはいかない。

そこで、初期ドラの中から「よいこ」「幼稚園」に掲載された作品で、かつ、単行本に未収録のままとなっている作品をできる限りピックアップしていく。


本稿は「単行本未収録幼児向けドラえもん」第四弾として、「幼稚園」の連載3話目の作品『ケーキを育てよう』を取り上げる。たった5ページの作品ではあるが、できる限り掘り下げた記事をご用意したい。

『ケーキを育てよう』
「幼稚園」1970年3月号/大全集18巻

「初期ドラ」におけるドラえもんは、まだどこか「オバQ」を引きずったキャラクターで、あくまでのび太くんの遊び友だちとして描かれている。

のび太の面倒を見る目的で未来から送り込まれたロボットだが、のび太のことよりも自分のしたいことが勝ってしまう傾向が見受けられる。

幼児向け作品だとその特徴はより顕著となり、のび太よりもドラえもん中心にお話が進んだりもしている。

思えば、「ドラえもん」以前の居候型キャラの登場する作品では、あくまで主人公は居候する方であって、受け入れる人間の子供は居候のパートナーとして描かれるパターンばかりであった。「オバQ」や「ウメ星デンカ」がその典型である。

「ドラえもん」も同じ考え方でスタートしたように思うが、藤子先生がダメ人間ののび太に感情移入を強めた結果、のび太を主人公にしてドラえもんに助けられるエピソードが増えていったのではないだろうか。


さて、本作の『ケーキを育てよう』は、「幼稚園」の掲載第3話目の作品だが、見事に子供の気持ちを汲み取ったエピソードとなっている。欲しいものがたくさん手に入るという喜びが詰まった作品なのである。

そして、後半ではジャイアンとスネ夫に道具を盗られてしまうのだが、彼らはそのしっぺ返しを食らうことになる。強欲者が不正を働いて痛い目を遭うというパターンは、「花咲か爺」に代表される日本昔話の構造を拝借しているものと思われる。


もう少し詳しく見てみよう。

冒頭で一個の小さなケーキを、のび太とドラえもんで分けなくてはならないシーンが描かれる。

ドラえもんを受け入れた野比家としては、のび太の子守としては重宝するものの、食い扶持がいきなり一人増えたということになる。そこで、おやつは一人分を分割させたのかも知れない。

連載開始間もなくは、ドラえもんのどら焼き好きの設定は定まっていないが、食べ物が好きということは初回から描かれている(『未来の国からはるばると』のお餅)。本作でもケーキを見て、「足りないなあ」と呟いており、ロボットのくせに食い地が張っているのである。

なので、ドラえもんの方から「増やそう」と言い出して、のび太に説明もないまま庭に掘った穴にケーキをぽいと埋めてしまう。「勿体ない」と叫ぶのび太に、「まあ見てな」と言って、ケーキを埋めた穴に水を掛けると、むくむくと木が生えてくる。

すると、なんと育った木の枝には、多数のケーキが生っているではありませんか! 

ここでドラえもんが使った道具(水)の名前は明かされなかったが、何の木でも作れる水であるという。ちなみに、初期ドラでは道具の名前が明示されないケースは非常に多い。


その後、ボールの木、おもちゃの木が育って、のび太は大喜び。すると、その様子を垣根の向こうから邪悪な目つきで見ているジャイアンとスネ夫の姿がある。

初期ドラでは、スネ夫がまるで同情の余地のない悪面をしていて、ジャイアンはその子分のようなキャラクター配置となっている。

本作でも水を盗んだ後、スネ夫が「お金の木を作ろう」と主導して、スネ夫の自宅へと向かう。幼稚園生でお金の木を作ろうというスネ夫の性悪さが際立つばかりだが、この時ジャイアンは水を持ってスネ夫に従うのみである。


ラストでは、ジャイアンが転んでしまって水が撒かれてしまい、そこから木が育ち始める。「まだ何も埋めてないのに」と思っていると、そこにはゴミが埋まっていたらしく、むくむくと大量のゴミが木に生い茂ってしまうのであった。

「花咲か爺」の「ここ掘れワン」を彷彿とさせる、勧善懲悪のラストシーンだと言えるだろう。


さて、ここでオマケ情報を一つ。

本作は単行本未収録作品ということで、雑誌掲載時から藤子先生の加筆修正は行われていない。そのせいもあるのだが、ドラえもんのポケットが少し小さめに描かれている印象があるのと、複数のカットではポケットの書き忘れも見受けられる。

5ページ中に4カ所のポケットなしドラえもんが確認できる。本作も含んだ初期ドラでは、タケコプター無しで空を飛んだり、タイムマシンなしで時空を泳いだりするドラえもんが描かれたりしているが、こうしたバグを大らかに楽しむのが初期ドラの正しい読み方なのである。




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