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予知は邪道の超能力?『大予言者あらわる』/大予言のウソ③

エスパーを主人公とした「エスパー魔美」の魔美は、まずテレポートの能力が開花し、続けてテレキネシス、伝導テレパシー、困っている人の念波を捉える、念写と超能力のレパートリーを増やしていく。

そんな中、予知能力については最後まで身に付かない。虫の知らせという話はあったが、未来の予測ではなかった。

下記の記事でも触れたが、藤子F先生は超能力のうち、予知については否定的な考えを持っていたようである。

今回取り上げるのは、そうしたF先生の考えが前面に出されたお話である。題して『大予言者あらわる』。高畑君のセリフを通じてF先生の予言者への否定的見解が述べられる部分に、是非とも注目いただきたい。


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「エスパー魔美」『大予言者あらわる』
「マンガくん」1978年5号/大全集3巻

魔美がテレポートを繰り返し、高畑の元へビックニュースを持ってくる。いち早く知らせたいということで、二階から上がり込んで風呂場に突入し、入浴中の高畑を慌てさせる始末。のび太がしずちゃんのお風呂場に入っていく逆の構図となっている。

魔美が持ってきた大ニュースとは、自分のほかに超能力者が見つかったというものだった。それを聞いて、高畑は「どこの誰??」と身を乗り出す。超能力者のこととなると、我を忘れる性格なのだ。

魔美は回りくどく、第二のエスパーとの出会いについて説明を始める。長いが、箇条書きで経緯を記しておく。

・白石さん宅でラジカセを聞いて、自分も欲しくなる
・パパにモデル料を要求しに帰宅するとお客(大寺主)が来ている
・大寺主はパパの絵を買いたいと要望し、パパは検討すると返答する
・大寺主は絵の良しあしはわからないが10枚程度欲しいという
・パパは最初ムッとしたが絵は飾られることが大事なので売ることにする
・魔美は大寺主の家へ出向いてアルバムを見せることになる
・大寺主は先祖の土地を30億で売って財を成した土地成金だった
・大寺主宅の庭に昨日の地震を予知した一昨日の消印の葉書が落ちている
・大寺主の言うには、葉書は銀河王のお告げである
・銀河王は選ばれし会員にしか予言せず、予言を外したことがない
・銀河王は来るべき大災厄に備えて予知のトレーニングをしている

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実に長い経緯だが、一言でいえば魔美の見つけたエスパーとは予言者のことであった。高畑はこの話を聞いてがっかりした様子。そして、いかに予言というものが残念な超能力かを語り出す。これも抜粋してみよう。

「予知能力なんてのはね、色んな超能力の中でも、特にあいまいなんだ。ニセ者も多い。世界中には何万人もの予言者がいて、しょっちゅう色んな予言をしてるわけよ。だから、時には偶然当たったって不思議はないんだ」

本作のテーマは、この台詞で全てが語られていると言っても差し支えないだろう。この後は、高畑がどのように銀河王の予知のトリックを見破るかに焦点が当たっていく。


魔美は高畑が信じないことに腹を立てる。二年間もの間、百発百中で、全て消印のある葉書に証拠が残されている。魔美は葉書の束を借りてきて高畑に見せるのだが、消しゴムの跡を見つけて怪しいと呟く高畑。何かわかったのだろうか・・?

その晩、魔美が寝ていると大きめの地震が起きて、慌てた魔美はテレポートでおとなり(陰木家?)の池に落ちてしまう。その翌日、コンポコが葉書を加えてやってくる。消印は昨日、葉書の内容は今朝起きた地震の詳細が書かれている。差出人の名前は、銀河王(!)である。

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魔美は銀河王に直接会って、同じエスパーとして色々聞かなくてはと思い立つ。大寺主宅から住所を聞き出し、銀河王の住むマンションへと向かおうとすると、高畑が家の前に現われ「僕も銀河王に会いにいく」と言い出す。なぜ高畑は、魔美が銀河王の所へいくつもりと知っていたのだろうか?

ところが銀河王に会って葉書を見せると、急に顔色が変わり「変ないたずらはよせ」と叱られて、追い返されてしまう。銀河王の反応に不思議がる魔美に対して、高畑は「これを出したのは僕だ」と驚きの告白をする。

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高畑が見抜いた予知の葉書のトリックは、以下の仕組みである。

・毎日自分宛に葉書を出す。ただし宛名は鉛筆で、裏は白地のまま
・いつも手元に1、2日前の葉書があることになる
・何か事件があると、そのニュースを葉書に書く
・鉛筆で書いた宛名を消し、本当の宛名を書き込む
・宛名のポストに直接投函する

この流れによって、あたかも予知能力があるかのように見せつけていたというわけである。


銀河王の部屋の中から大寺主の驚いた声が聞こえてくる。これを聞いて高畑は思う。「ついに刈入れを始めたな」と。高畑曰く、この二年間、銀河王は「信用」を金持ちたちに植え付けてきた。このタイミングで一斉に収穫して、姿を消すつもりなのである。

銀河王の部屋のテーブルの下にテレポートする魔美と高畑。室内では銀河王が大寺主に語っている。「日本列島が全滅する大災厄が半年後に迫っている。ほぼ打つ手はなく、あるとしても莫大な金がかかる」と、おどしているようだ。

銀河王の予知能力をすっかり信じ切っている大寺主は「金なら土地を売れば20億は用意できる」と申し出る。銀河王は「廃坑を買ってコンクリートで補強し、換気装置などを付けて数年分の食料を持ち込めば助かるかも」と語る。


大寺主が「金なら出す」と叫んだタイミングで、魔美は高畑の用意した葉書をテレキネシスで銀河王の前に浮かび上がらせる。それは、

「銀河王、サギの罪で逮捕される 二代目銀河王」

と書かれた新予言の葉書であった。

銀河王はこれをみて、急に慌てだし「今のは冗談、急に引っ越します」と言って部屋から逃げ去っていくのであった。

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本作のポイントは、「エスパー魔美」という超常現象を肯定する世界観においても「予知能力」だけは胡散臭い存在であるとしている点にある。エスパーへの寛容さと対比して、予言者への視線は大変に厳しいものがある。

そして葉書を使った予知のトリックが素晴らしい。僕も子供の頃本作を読んで、真似して同じような葉書を自分宛に送ったことがある。ただ、うまくいったかどうかは、よく覚えていない。。


「エスパー魔美」の考察たくさんやっていますので、是非目次にお越し下さい。


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