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もう一つの東京『ぼくらのゴーストタウン』/藤子Fの地下ワンダーランド②

前回の記事では、藤子F異説クラブの紹介と勧誘?を行った。また異説クラブの元となった「ドラえもん」の『異説クラブメンバーズバッジ』を取り上げ、「藤子Fの地下ワンダーランド」と題したシリーズの第一弾として、「地球空洞説」について掘り下げた。記事は以下。

本稿では「藤子Fの地下ワンダーランド」の第二弾として、地下に関する別の都市伝説(異説)を追っていきたいと思う。テキストは、名作と誉れ高い28ページの中編「オバケのQ太郎」の『ぼくらのゴーストタウン』を使います。


まず突然だが、「エヴァンゲリオン」の舞台となる「第3新東京市」という名称の話から始めたい。

エヴァでは、首都東京から遷都した箱根を「第3新東京市」と命名しているのだが、なぜ「第3」なのだろうか。「第2」はどこへ行ったのだろうか。これは、セカンドインパクトで壊滅的被害に遭った東京から、長野県の松本市に暫定政府を移した、という設定がある。その後使徒襲来を予期して箱根に第3新東京市を建設したのである。つまり松本が「第2」で、箱根が「第3」というわけだ。

遷都先に、突然「松本」という地名が出てきたが、これは太平洋戦争末期に、本土決戦を覚悟した軍部が、政府機能と皇室を長野県の松代に移そうとしていた実際の計画からヒントを得たものである。松代は松本とは違うのだが、エヴァの初期設定では松代だったらしい。

いずれにせよ、長野県・松代が大本営の遷都先として有力だったのは歴史的事実であった。


松代は古くは松代藩の城下町で、現在は長野市に編入されている地域。皆神(みなかみ)山、舞鶴山、象山からなる松代三山が有名で、特に皆神山は、世界最大最古のピラミッドではないか、などとよく話題に上る有名な山。古来より山岳信仰の対象として修験道が盛んだったらしく、名前に「神」の文字が入っているのも偶然ではあるまい。

松代が遷都の候補地となり、松代三山の地下に大掛かりな防空壕が建設された。碁盤の目のように掘削され、地下壕の全長はなんと10キロに及ぶという。その巨大豪は約9カ月という突貫工事で作られ、巨額の費用が投じられた。現在はその一部が開放されている。是非一度は行ってみたいものである。

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ところで、なぜ松代が遷都の候補地に選ばれたのだろうか。ここからは都市伝説の域を出ないが、まず長野=信州=神州、つまり神の国だったから、という説がある。その上で、前述したが松代・皆神山は、ピラミッドだった、という異説があり、霊験あらたかな地域として、神道方面では有名だった。

もちろん防空壕として岩盤が固いとか、都心との距離感など、実質的な理由もあっただろうが、神の国だった日本は、精神性を重要視して政策決定が行われたと思われる。神道方面のプッシュがあったのではないかと言われている。

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こうした事実を踏まえた上で、「オバケのQ太郎」の『ぼくらのゴーストタウン』を見ていくと、非常に興味深い話となっている。

「オバケのQ太郎」『ぼくらのゴーストタウン』
「月刊別冊少年サンデー」1965年10月号/大全集3巻

野球のボールが学校の縁の下に飛び込み、探しに行ったオバQがそのまま行方不明となる。しばらくして目を覚ましたオバQだったが、町の様子がすっかり変わってしまっている。ガラーンとして人が一人もいない。建物も古臭く、自宅も蜘蛛の巣が張っている。誰もいないので泣き出すQ太郎だったが、2、3日前にいなくなった八百屋のコロが見つかって、犬嫌いなのに、何故だか打ち解けるQ太郎。

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すると空に向かってタワーの展望台のようなものが伸びていくのを見かけ、飛んで追っていくと、空ではなく「天井」のようなものに突き刺さる。展望台に入って階段を上がると、そこは学校の縁の下。つまり、Q太郎とコロがいた世界は、地下なのであった。

家に戻ったQ太郎は正一に地下の町の探検に誘う。秘密にすると言いつつ、Q太郎はゴジラ・キザオ・よっちゃんにも声を掛けてしまい、勝手についてきたコロも加えて再び地下世界へと戻ることに。

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地下の町では、誰が町長するのかで揉め、結局Qちゃんが就任。みんなで町の仕事を手分けすることになり、ゴジラが警官でよっちゃんが看護婦になるのだが、暇な二人はQ太郎を無理やり泥棒や怪我人に仕立てたりする

この手の、子供たちだけの町、という設定世界観は、「ドラえもん」の「のび太の地底国」や、「のび太の日本誕生」などにも通じており、F先生お得意のテーマと言えるだろう。

少しみんなと離れようとQ太郎が飛んでいくと、なぜか戦車が走っているのを目撃する。果たしてこの世界は何なのか? ここでいきなりお話が転調していく。

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木佐君が行方不明となり、Qちゃんが苦手な犬と一緒に探し歩くと、太平洋戦争の頃の戦車や飛行機がたくさん置かれている。そしてその先で木佐君が何者かに捕まっているのを発見する。

Q太郎が姿を消して正体を探ると、ようやくここで地下世界の全貌が明らかとなる。要点はこうだ。

・キザオを捕まえたのは暴力団組長の熊蔵親分
・暴力団の取締りが厳しくなり、地下へと潜ったらこの町を見つけた。
この町は太平洋戦争末期に本土決戦を覚悟した日本が、最高の科学力を集めて地下にもう一つの日本を作ろうと計画された
・終戦となり工事は中止、地下の秘密は忘れ去られてしまった

Qちゃんは木佐君をうまく救い出してみんなの元へと戻る。地上に逃げようとエレベーターで上がっていくのだが、ゼロ戦に撃たれてエレベーターが壊れてしまう。

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暴力団たちは総攻撃を仕掛けてくるが、動いたのは戦車一台とゼロ戦一機のみ。Qちゃんと正ちゃんの活躍であっと言う間に敵機を動かなくしてしまう。暴力団側は大砲を撃ってさらに追撃してくるのだが、誤って川底を撃ち抜いてしまい地下世界は水浸しに。

正ちゃんたちは助かりヤクザも捕まって大団円なのだが、地下世界を惜しむQ太郎は洗面器で川の水を干そうと頑張るのだった。

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本作が描かれたのは1965(昭和40)年で戦後から20年経っている。今では考えられないが、その当時はまだまだ戦争の記憶が鮮明であった。藤子作品でも、1970年くらいまでは太平洋戦争の話題がよく現れる。

旧日本軍が地下にもう一つの日本を作っていたという設定は、今ではあり得ないと一刀両断されてしまうが、この当時は一定のリアリティがあったのではないかと想像される。


★本作のまとめ。
F作品には、子供たちだけの国・町、という繰り返し登場するテーマがある。その舞台として、子供たち以外が住んでいない地下の町、という設定は地上から隔離されているという点で、とても都合が良いものとなっている。それでは、地下の世界をどのように設定するかと思案した結果、旧日本軍の残した秘密の町、というネタを引っ張り出してきたものと思われる。

この地下の子供たちだけの町、という設定は、F先生の中で大事なものとなっていたらしく、それが次に紹介する作品へと繋がっていく。

ということで、次回に続く!

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