ドラのクセが凄い! 単行本未収録の異色作『まんが家』/フニャコフニャオを探せ①
ギャグマンガを中心に、作品の中に作者が登場することがある。パターンとしては以下の4つくらいが良くある形。
①メタ的に作者として登場する
②作者を彷彿とさせる役柄で登場する
③カメオ出演的にちょこっと姿を現わす
④作品の解説役として登場する
藤子F作品では、主に②~④のパターンで筆者が登場していくるのだが、特に②のケースでは、「フニャコフニャオ」として、いくつもの作品に顔を出している。
しかし「フニャコフニャオ」の表記が様々で、外見も一定しない。キャリアのほとんどを二人で一人のコンビ作家・藤子不二雄として活動していたので、F先生自らがモデルの場合と、A先生をモデルにした場合、二人が合わさったような外見になることもある。
また③のパターン、カメオ的出演作品も数多く、コマの脇に写り込んでいるケースから、セリフまで用意されている場合もある。
そこで本稿から数回に渡って、「フニャコフニャオを探せ」と題して、全藤子作品の中からフニャコ先生を見つけ出して、それらを次々と紹介していく。
名前だけの登場だったり、一コマだけ見えているものも含めると、見落としもかなりありそうなのだが、ひとまず今分かっている範囲でのお届けとさせていただきたい。
「ドラえもん」『まんが家』
「小学三年生」1970年4月号/大全集1巻
「ドラえもん」ではフニャコフニャオ先生が何度も登場しており、確認できているところでは、出演作5作、名前だけの登場が2作ある。(登場作リストはまた別の記事にて紹介する)
その中で最も有名な作品は、『あやうし!ライオン仮面』であろう。次回が気になる終わり方のマンガ『ライオン仮面』の作者・フニャコフニャ夫として登場し、作者自身も毎月続きをどうするか悩んでいる役柄であった。
この作品では、ドラえもんが突然思い立って、歩いて近くのフニャコ先生の家を尋ねているのだが、なぜドラえもんはフニャコ先生の自宅を知っていたのであろうか。
それは、てんとう虫コミックだけを読んでいるとわからないのだが、ドラえもんがフニャコ先生の家を尋ねたのはこの時が二回目だからである。
実は、『あやうし!ライオン仮面』の一年前に発表された、単行本未収録作品の『まんが家』という話で、既にフニャコ先生は登場済みで、ドラえもんが先生の仕事場を尋ねるシーンが描かれているのだ。
本稿では幻の作品とも言える本作を詳細にレポートしていきたい。
連載開始直後に描かれた作品で、ドラえもんのキャラクターが凄まじく粗雑でクセが凄い。作風としても「オバケのQ太郎」を彷彿とさせるようなドタバタコメディとなっている。
初期ドラならではの滅茶苦茶なお話となっており、手直しでは収拾つかず、単行本には収録できなかったものと想像される。
本作は「小学三年生」4月号の掲載ということを踏まえて、ドラえもんとのび太が、「三年生になったのでそろそろ将来のことを考えよう」と話し合うところから始まる。
のび太は①学校の先生②警察官③テレビタレント④医者と、なりたい職業を挙げる。ドラえもんはうまくいくか見てみようと言って「タイムテレビ」を出して、もしもの世界を見ていく。
すると・・
①先生→生徒に教科書の字の読み方を聞いている
②警察→暗い道が怖くて、通行人に付いてきて欲しいとお願いしている
③役者→下手なのでいつも死体役ばかり
④医者→悪名名高く、病人が診てもらうのを拒否する
と、全てダメ。この結果を受けてドラえもんは、
「結局、君は何をやっても、ダメってことね」
と辛辣な感想を述べる。
そしてさらにのび太に容赦なく追い打ちをかけていく。
「自分に向いた仕事探そうよ。誰でも何か取り柄があるもんだ。それを活かそう。君の得意なことは…、国語は駄目、算数もできない。体育は苦手だし、図工も下手くそ。歌えば音痴だし、顔も良くないし」
と一気にまくし立て、
「なあにもないや。キャハハハ。けっさくウヒョホホホ」
と悪意を感じるほどの大笑い。すっかり気分を損ねたのび太は、大声で笑っているドラえもんの口の中に、近くにあったマンガを投げ入れて部屋を出て行ってしまう。
ドラえもんは「レントゲン」で体の中を透かすと、「フニャ子フニャ雄」作「ノラえもん」という漫画が写し出される。・・・かなりメタな作品である。
ドラえもんはこれを読んでなぜか大笑い。部屋を転げまわりながら、
「こんなバカなことを書く人は、本物のバカに違いない」
とギャグマンガ家への差別発言を行う。そしてマンガ家=バカと決めつけた流れで、のび太に対して、
「おめでとう。君の仕事が決まったよ。君はマンガ家になるといい」
と将来の夢を押し付ける。そして「書けるかなあ」と疑心暗鬼なのび太を机に向かわせて、強引にマンガを書かせるのであった。
渋々マンガを考え出すのび太。その様子を見ているドラえもんだが、ここからのおバカぶりが凄まじい。
「マンガ家は儲かるんだってね。お金がガバガバ入るよ」
と下品にほくそ笑み、小さなオバQの貯金箱ではお金が入りきらないということで、「おかあさん。これくらいの貯金箱買っといて」と、ママに対して大きく手を広げるドラえもん。
さらに、「金持ちになると泥棒が心配だ」と言い出して、ママに対して「戸締りに気をつけて」と声を掛ける。
さらにさらに、「人気者になるとみんなにサインをせがまれる」と先走り、集金にきたおじさんにのび太のサインをして怒らせるのであった。
ドラえもんの暴走はまだまだ止まらない。「やっぱりマンガは書けない」と泣き言を言うのび太に、
「何でもバカなことを書けばいいんだよ」
とマンガ家への差別発言を続行。
「そのバカなことをどうやれば書けるのか」と質問されて、「聞いてくる」と言って尋ねた先が、フニャコ先生の家なのであった。
傍若無人なドラえもんは、初対面のフニャ子先生に対して
「マンガの書き方教えて。簡単に。僕忙しいんだから」
と滅茶苦茶かつ失礼な要求。
雑誌の編集者にフニャ子先生が連れていかれると、ドラえもんは「手伝ってあげようか」と声を掛ける。「君書けるの」という編集者に対して、「僕にできないことはないんだ」と自信満々。どこから来たのか、その自信。
フニャ子先生の書き方を眺めて、鉛筆で下書きしてペンで書くという手順を覚える。書きかけの原稿を見てまたも大笑いのドラえもん。フニャ子先生の笑いのツボが、ドラえもんにはよくハマるようだ。
ベタを手伝うことになるが、墨で原稿を真っ黒にしてしまい、それを鼻紙としてフニャ子先生に差し出して、先生と編集者の怒りを買うドラえもん。ボコボコにされて、外に追い出されてしまうのであった。
ドラえもんは家に戻ってのび太にマンガの書き方を伝授する。
「こうやってああやって、書くんだ。すぐ始め」
と乱暴な指導である。のび太が再度書き始めると、「出来たらすぐ雑誌に載せよう」と言って、フニャ子宅にいた編集者にタケコプターを付けて、無理やりにのび太先生の元へと連れ出してくる。
のび太が書き上げたマンガは「バカニャロメ」というどこかで見た絵柄のネコのギャグマンガらしい。ドラえもんは編集者に「面白いでしょ。原稿料いくらくれる?」と早速お金の話。
編集者は、
「絵も下手だし、全然おかしくない。それに人のまねじゃないの。こんなものを雑誌に載せられるか」
と激怒して原稿を放り投げる。ドラえもんは「載せなくていいから原稿料だけおくれ」とすっかり銭ゲバなのである。
「言われてみれば下手だねえ」とドラえもん。「だから書けないと言ったじゃないか」と泣き出すのび太。ドラえもんは「安心しな、必ず雑誌に載せる」と言って、「わらいガス」という道具を出してプシュとスプレーする。
この原稿を再び編集者に見せると、原稿からのガスの臭いを嗅いで、腹もよじれんばかりに派手に笑い出す。そしてのび太の元に戻ってきて、毎月の連載を依頼するのであった。
ところが編集者が原稿を編集部に持って帰ると、ガスの効き目がすっかり消えて、ただの下手くそ原稿に逆戻り。原稿は突き返され、「やはりだめか」とのび太は事実を受け入れる。
途中、ドラえもんがジャイアン・スネ夫・しずちゃんに「のび太がマンガ家になったよ」と声を掛けていたのだが、ラストでは3人がマンガを読ませろとやってくる。
そこでどこかの家の塀にバカニャロメを落書きし、「わらいガス」を掛けて皆を大笑いさせる。「このくらいで満足しておこうよ」と風呂敷を畳むドラえもんなのであった。
本作では「フニャ子フニャ雄」という表記で登場したフニャコ先生。一年後の「ライオン仮面」では、「フニャコフニャ夫」と名称が微妙に変わっている。外見や家の玄関の様子は一緒なので、この二人は同一人物と考えて問題ないだろう。
本作はフニャコ先生「ドラえもん」初登場の回ではあるが、そのドタバタぶり、特にドラえもんの破壊的な言動が、初期ドラ作品の中でもかなり強烈な一本であったため、残念ながら単行本に収録されることはなかった。
ただし本作が駄作というわけではけっしてない。本作でのドラえもんは、まるでオバQのような世間知らずなキャラクターパワーに満ちていて、次々と繰り出すボケが笑いの中枢にヒットしてくる。
「バカニャロメ」というキャラクターも作中で出ていたが、本作についても、まさしく赤塚不二夫のようなテイストの作品と言えるだろう。このナンセンスっぷりは、是非とも「大全集」などを入手して、ご堪能してもらいたい一作である。
さて、フニャコ特集は始まったばかり。次稿ではまた別のF作品に登場するフニャコ先生を探す!
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