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裏山が恐怖のジャングルに!?『ゴルゴンの首』/事件はいつも裏山で②

前回の記事で「ドラえもん」の主要舞台である「学校の裏山」が登場した作品リストを掲載し、その中で初めて裏山と頂上に生えている千年杉が登場したお話を検証した。


裏山の初登場は意外に遅く、連載開始から9年が経過していた。しかし都会の中の大自然ということで、お話作りに都合が良かったのか、その後はかなりの頻度で裏山が描かれ続け、今のところ29作品に登場していることが判明している。

前回でも書いたが、学校の裏山のモデルは、藤子先生が学生時代を過ごした高岡市の風景である。ドラえもんは東京の話だが、空き地といい、裏山といい、F先生の心象風景がきちっと写し出されているのである。


初登場回『スリルブーメラン』では、おそらくモデルとなった高岡古城公園のイメージに近い描かれ方をしていると思われるが、二回目の登場からは、都会の中とは思えない程に山深い大自然に変貌している。

ということで、今回は二度目の登場となった『ゴルゴンの首』を見ていくことにしよう。


『ゴルゴンの首』「小学六年生」1979年8月号/大全集7巻

まずは道具の名称の由来の「ゴルゴン(ゴルゴーン)」について事実確認をしておこう。ゴルゴンは、ギリシャ神話に登場するステノ、エウリュアレ、メドゥーサの三人姉妹の魔女のこと。

醜い顔で髪の毛は一本一本が蛇となっていて、目には人を石にしてしまう力があったとされる。三女のメドゥーサは不死ではないため、ベルセウスによって首を切られて殺されたという有名なエピソードが残されている。

藤子作品では時々ギリシャ神話を元にしたアイディアが出されていて、「ミノタウルス」や「ポセイドン」などをモチーフにした話がある。(大長編ドラえもん、海の王子、SF短編、T・Pぼん等)

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さて本作は、いつも廊下に立たされて足が疲れるというのび太の愚痴から始まる。立たされても疲れない道具はないかとドラえもんに持ち掛けると、やれやれといった感じで「ゴルゴンの首」を出す。

ドラえもんの道具の説明がおどろおどろしい。とても恐ろしい機械で、取り扱いは気を付けなくてはならない。というのも、この機械の目から出る光線は生物の筋肉を強張らせて、石のようにしてしまうからだ。

それを聞いたのび太は恐怖に打ち震えるが、気を付ければ便利な道具だとドラえもんは言う。試しに、足に向けて蓋を開けると、「ウオーン」と恐ろしい唸り声が聞こえて、のび太の足はビクとも動かなくなった。

この機械、箱状で上から一匹の蛇が伸びている。この部分は髪の毛で、引っ張ると石化した部分が元に戻る仕組みである。この時点で、箱の中身はよくわからないのがミソである。

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これは便利と、翌日学校に持っていくのび太。毎度のように廊下に立たされるが、「はあい!!」と元気よく廊下に立つのび太。まるで石の上に座っているような感じでとても楽な様子。

立ちながらのび太は、ゴルゴンの首を使ってげんこつを石にして、それでジャイアンを殴ったら・・と妄想して楽しんでいると、先生から「立たされて嬉しいなら放課後もずっと立て」と命じられる。

遅くなった(5時を回っている)ので、タケコプターを使ってゴルゴンの首を抱えながら帰宅するのび太。すると箱のふた部分が開いてしまい、ゴルゴンの首が学校の裏山へと落ちて行ってしまう


事情をドラえもんに話すと「近づいた人が石にされてしまう」と大騒ぎ。早く捕まえなくてはと裏山へと向かう。そこでドラえもんは意外な事実を述べる。

「あいつは這いまわることができるんだよ。亀くらいのはやさだけどね」

何と、機械と説明されていた「ゴルゴンの首」はどうやら動き回ることができるロボットか人工生命体だったのである。捕まえるには、ゴルゴンに気づかれないように近づいて、箱を被せなくてはならない。確かにとても恐ろしい機械であった。。


裏山の中を進むドラえもんたち。すると先生が立っているが、近づくと何と石になっている。「油断するな、この辺にいる」。すると、背後で「ウオーン」と恐ろしい声が聞こえ、飛んでいたいた小鳥が石になって落下する。

ドラえもんは箱を持って恐る恐る声のした方向へと進んでいく。のび太は、体がすくんで動くことができない。すると、またまた「ウオーン」と声がして、ドサと何かが倒れる音。頼みの綱だったドラえもんがやられてしまったのである。

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大長編などでは時々出てくる展開だが、皆の大黒柱であるドラえもんが途中退場してしまうお話がある。こうなると、残されたメンバーはただの小学生なので、一気に窮地に追い込まれてしまう。


ドラえもんが倒され、のび太はジャイアンとスネ夫に助けを求める。ビビリのスネ夫は、「のび太の責任だから僕は知らない」と逃げ口上を吐くが、ジャイアンが「良い作戦があるので付いてこい」と何やら頼もしい。

山の奥へとどんどん進んでいき、ジャイアンは手ごろな木に登り始める。ここで待ち伏せるので、のび太とスネ夫が囮になって誘い出せという。誰かの犠牲を前提とした酷い作戦に思えるが、実際にゴルゴンを捕まえるには、なかなか優れたアイディアではないだろうか。


危険な目に遭いたくないのび太とスネ夫はそこから逃げ出す。ところが、のび太を追い越して走っていったスネ夫は、先にゴルゴンに出くわしてしまい、光線を浴びて石にされてしまう。

のび太はその様子を見て、腰が抜け、ズルズルとみっともなくジャイアンのいる方向へと逃げていく。ちょうどカメの速さのゴルゴンと同じようなスピードだろうか。

木の上のジャイアンは「来たのか」と身構える。するとゴルゴンを捕らえれうために持っていた木の箱を地面に落としてしまう。痛恨のミス! するとそこにゴルゴンが姿を現す。

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ここまで姿を見せてこなかったゴルゴンの全体像が明らかとなる。造形の説明が難しいが、ゴルゴンを模した石のような頭だけの機械で、口が開いていてそこから光線が出る仕掛けとなっている。髪の毛のような蛇が、一本頭から伸びている。何やらよくわからないが、不気味な造形物ではある。

ジャイアンもゴルゴンの光を浴びて石となり、木から落下してしまう。すると、ちょうど下に這ってきていたゴルゴンの上にドサと落ちて、ゴルゴンの首は地面の中に埋もれてしまう。髪の毛の蛇が失神しており、どうやらゴルゴンの首は気絶?したようである

そこにそろりと近づくのび太・・。


ラストのコマでは、場面が飛んで、既に事件が解決していて、元に戻った先生・ドラえもん・スネ夫・ジャイアンが話している。

「のび太が一人で、どうやって捕まえたのか・・。実に不思議だ」

満足な表情でゴルゴンの首を閉じ込めた箱を持ったのび太が、足取り軽く歩いていくのであった。

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二回目の登場となった「学校の裏山」は、ゴルゴンの首と戦う場所として描かれた。前回から変わって、急に都会の中にある山とは思えない程に深い自然に囲まれた場所となった。本作以降、裏山は自然が必要なお話の重要な舞台装置として、便利に使われていくことになる。


さらに裏山は大自然化するのだが、それはまた次回で。


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