恐竜×宇宙人!?「宙ぽこ」の全貌/藤子Fの大恐竜博⑤
「藤子Fの大恐竜博」と題して、藤子先生の恐竜愛に溢れた作品を次々と紹介していくシリーズ記事も、本稿で5本目。最終的にはこの夏で8本書く予定ですので、見捨てないで下さい!
今回取り上げるのは、少しマイナーな作品である「宙ぽこ」である。
本作は「別冊コロコロコミック」(別コロ)で連載された。別コロは名前通り「コロコロコミック」の別冊として生み出され、1981年5月号より隔月で刊行された。主に新人作家の発表の場とされてきたが、部数が好調だったのか、1983年4月号から月刊化されることになる。(現在は隔月に戻っている)
「宙ぽこ」は別コロの月刊化を記念して、満を持して藤子F先生が連載を始めた作品という位置づけとなる。ちなみに別コロは、隔月の頃から安孫子先生の「新プロゴルファー猿」が掲載されていて、この「宙ぽこ」以降でも「宙犬トッピ」という作品が連載された。
「宙ぽこ」は、ドラえもんに匹敵するキャラクターを生み出そうという意気込みだったとされる。しかし、その思いは叶わず、全三回で連載は終わってしまう。
この連載期間の短さと、「別コロ」という当時あまる知られていない連載媒体であること、本作と同時に「パーマン」も連載が始まっており、そちらに目が向いたことなどから、僕としては全く印象のない作品である。
単独の単行本も発売されず、本作が掲載された藤子不二雄ランドも買い逃していた(後に買ったけど)。
しかし藤子先生の恐竜愛を改めて振り返っていく中で、恐竜をモチーフにしたキャラクターを作り上げて、ドラえもんに並ぶ人気者にしようとしていた点を見逃すことはできない。
今回、簡単ではあるが、「宙ぽこ」の全3回をざっと検証していくことにしよう。
「宙ぽこ」「別冊コロコロコミック」1983年4月号~6月号
第一話『宙ポコ登場!!』
本作の主人公はつとむ。小学校の高学年の設定だろうか。つとむは犬を拾ってきてしまい、ママに犬を飼うメリットを語るのだが全く聞き入れてもらえない。なので、拾ってきたところへ戻しに行くと、恐竜とも怪獣とも見えるキャラクターに出会う。
二本足で歩いてくるので、つとむは怖がってしまい、家へと走って帰る。すると、自分の部屋に先ほどの犬と一緒に、先ほどの恐竜が入り込んでいるのだった。
するとこの恐竜「30分で日本語を覚えた」と言って、自己紹介を始める。自分の名前は宙ポコ。怪獣ではなく、ソールスという星の人間で、学校の春休みを利用して旅行に来たのだと。ここが気に入ったので、2、3日ここで暮らしたいという。
ママは宙ポコを見ても最初はぬいぐるみかと思っていたが、すぐに生きていると気がつき、悲鳴を上げる。そして「すぐに捨ててきなさい」と怒る。
拾った犬は貰い手が見つかったが、宙ポコとは別れることに。その直後、この世界のジャイアン・スネ夫に当たる男の子ふたり(ガマロとイナリ)に、つとむが苛められる。宙ポコは「重力コントロール」を使ってつとむを宙に浮かべてその場から逃がす。
つとむは、自分が急に空を飛んだので「パーマンみたい。ドラえもんみたい!!」と驚く。どうやらソールス星人は、超能力が使えるようなのである。つとむは、宙ポコを気に入って、何とかママを説得して家に招き入れたいと思う。
どのように説得しようか家の前で考えこんでいると、そこへパパが帰宅してくる。パパは宙ポコが宇宙人だと知ると「素晴らしい」と大喜びする。つとむのパパはSFマニアであったのだ。
パパがママを説得し、春休み期間の2、3日ならいいと譲歩を引き出す。しかし、ソールス星人の一日は、地球の一年以上にあたるのだった。
宙ポコは、見た目は怪獣のぬいぐるみのようだが、優れた科学技術に基づいた超能力を繰り出すキャラクター。この設定は、そのまま「チンプイ」で再利用させている。また、本作と同時タイミングで「パーマン」が鳴り物入りで再連載が始まったのだが、それを踏まえてか、パーマンの名前を作中に出している。
つまり、宙ポコの世界観は、「ドラえもん」「パーマン」を見ている子供の目線で語られている。今風でいうところの、メタ的な作り方をしている作品なのである。
第二話『自分勝手はどっち?』
冒頭で、パパの憶測という形で宙ポコの設定が語られる。地球も恐竜などの爬虫類の天下だっただが、なぜか6400万年前に滅びた。哺乳類はそこで天下を取り、進化を遂げて人間となったが、仮に恐竜の天下が続いたら、トカゲ型の人間が生まれても不思議ではない。
この説明で、ピンとくる方は立派な藤子通である。この世界観を流用したのが本作の三年後に描かれた「のび太と竜の騎士」であった。
宙ポコが家に来たことで、つとむとパパは大はしゃぎ。パパは宙ポコを質問攻めにして、これをネタに小説を書いてSFコンテストに応募するという。つとむは、宙ポコが空を飛んだりテレポーテーションをしたりする様子をガールフレンドのマリちゃんに見せびらかしたい。
けれど命令されるのが嫌いという宙ポコは、マリちゃんの言うことは聞いても、つとむの言うことは聞かない。そして大喧嘩をしてしまい、宙ポコはつとむは友だちではないということで、帰り支度を始めてしまう。
絶縁してしまうつとむと宙ポコ。しかし、つとむはパパから、宙ポコを利用しようという考えで接してしまった、それは友だちとは言えないのではないかと自省し、反省を促す。
そのころ、本当はつとむと一緒にいたい宙ポコだが、仕方なく帰ろうとすると、円盤に大嫌いなミミズがくっついていて、それをガマロとイナリに悪用されて追い回されてしまう。
それを見たつとむは、身を挺して宙ポコを逃がしてやる。宙ポコは、自分のために戦ってくれた(弱いのに)ことに感動して、「僕たち友だち!」と手をつないで空を飛ぶ。二人の友情が本物となった瞬間であった。
主人公二人の対立と和解を描き、本当の友情とは何か、というテーマを描きつつ、「宙ポコ」の設定を固めた素晴らしい「第二話」である。
第三話『正義のみかたパーマンごっこ』
残念ながら本作で最終回。第一話でも登場した「パーマン」に憧れるつとむと、そんなつとむをフォローする宙ポコの話となっている。
おいしい地球のご飯をたくさん食べさせてもらい、自分も何かの役に立ちたいと思う宙ポコ。つとむはテレビで放映されている「パーマン」に夢中なので、パーマンのようにしてあげようと考える。
宙ポコが超能力を使う時の道具「サイパック」のおもちゃ版「セコパック」を作り、これによって簡易的だが、空を飛べたり、念力を使えるようになる。
さっそくパーマンバッジのようにセコパックを付けて、パーマンに変身するつとむ。マスクは洗面器、マントは風呂敷だが、致し方がない。さっそく空を飛び悪者を探すが、当然見つからない。
そうこうしているうちに、ガマグチとイナリに即席パーマンセットを取られてしまうのだが、セコパックが不完全品だったため、ガマグチもうまく操作できない。
そこで、宙ポコが改良を施し、パワーアップさせるのだが、今度はコントロールが効かなくなってしまい、つとむは暴走を始める。
木々にぶつかりながら飛び、小池さんの家の中や、しずちゃんのお風呂にも入り込みながら、偶然空き巣に入っていた泥棒を追い回すことになり、気絶したまま犯人を逮捕してしまう。
パーマン、しずちゃん、小池さんと藤子キャラを総出演させつつ、これにて物語は終了である。
大好きな恐竜をモチーフにした、超能力が使えるマスコット的なキャラクター「宙ポコ」は、連載開始時の意気込みに反して3話で終わってしまうのだが、本作の設定を整理・発展させたものが「チンプイ」だったのではないかと考えている。
短命は残念だったが、藤子Fの作家史としては、無駄な作品ではなかったように思う次第である。
藤子作品の考察、かなりやっています!
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