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水爆をわが手に・国際スパイ大作戦!/考察パーマン⑨

二度の世界大戦を経験した人類だが、第二次大戦後、新たな覇権争いを勃発させ、西側・東側に世界を二分した冷戦時代へと突入する。日本は戦争放棄を明記した日本国憲法を金看板にして、直接的な戦争に関わることを避けて、戦後復興を図っていった。

しかし主に米ソの核兵器の開発競争は、キューバ危機などの一触即発の事態を引き起こし、世界を激動させた。当然、日本も安穏とはしていられなかった。核戦争や世界の破滅が今よりも遥かに現実味を帯びていた時代だったのである。

「パーマン」(旧)が連載されていた1967~68年は、ベトナム戦争が泥沼化(=冷戦の局地戦化)したり、中国による水爆実験(=格の水平拡散)が行われるなど、さらに時代が混迷を深めていた。そして、そうした時代の空気は確実に少年マンガにも影響を与えていたのである。


今回取り上げるのは、「パーマン」に登場するQ国とX国の日本における軍事活動を描いた作品である。冷戦下の深刻なドラマをテーマにしながら、藤子F先生特有のユーモアもあって読みやすい名作となっている。

Q国とX国の対立を描いた作品は二作あるので、それを掲載順に紹介する。

『国際スパイ大作戦』
「週刊少年サンデー」1967年31号/大全集2巻

ではまず『国際スパイ大作戦』から見ていこう。まずタイトルだが、間違いなく「スパイ大作戦」から取っている。というのも、パーマンの連載が始まったこの年の4月、日本で「スパイ大作戦」の放送が始まったのである。もっとも、内容はそれほど関連してはいないが・・・。

冒頭から既に事件が始まっているのが特徴的。パーマンは、国際的陰謀が絡む事件に取り組んでいるとコピーロボットに語るところから始まる。東京のどこかにいる男を写真一枚を手掛かりに探さなくてはならないのだ。この時、「どだい無理な話だよ」よ愚痴っているが、これは「ミッション・インポッシブル」の引用だろうか。(考えすぎか?)

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そこで、パー子やブービーに助けを求めると、それぞれ国際的陰謀が絡む事件を追っているのだという。ブービーは家の屋根で寝ているだけだが…。

パーマンが飛んでいると、ある男が煙突のてっぺんから合図を送ってくる。この男が数日前からパーマンに指令を送っている人間なのであった。男はX国の諜報員で、ボム博士を探しているという。ボム博士はX国になくてはならない存在だが、敵国Q国の手先が狙っており、その前に博士を保護したいというわけだ。

一方、パー子はマンホールの中からのピンクの煙の合図で地下へ潜ると、今度は別の男。Q国の諜報員らしく、X国から逃げ出した博士をQ国で匿ろうとしているのであった。

パーマンもパー子も世界平和の名目のもと、同じ博士を探していたのである。

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パーマンは今日も博士は見つからずに帰宅すると、X国の男が家の前に現われ、「明日中に見つけないとただでは置かない」と拳銃を突きつけて脅してくる。

翌日、パーマンは弱って、パーやんに応援を求める。すると、パーやんは既にパー子にも呼ばれており、2号も合わせて、話を総合しようということに。

2号が寝ていた家に行くと、なんとそこにはボム博士の姿が。2号が博士を匿って、食料などを調達していたのである。

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博士の話では、X国で空気から巨大なエネルギーを作る研究をしていたという。しかし大統領命令で化学兵器化を求められ、これに反発して装置を壊して東京に逃げ出してきた。そしてブービーに護衛を頼んでいたのだ。

そこへX国のスパイが現れる。パーマンたちを尾行してきたのである。このスパイ、凄腕の拳銃使いで、パーマンたちも太刀打ちできない。とそこに、今度はQ国の男も現れる。すると、このスパイ同士で撃ち合いが始まるのだが、両社とも腕前が凄くて、お互いの撃ったタマがぶつかり合って決着がつかない。

その間、博士を脱出させ、さらに二人が戦っている家ごと、持ち上げて無人島へと持っていってしまうのだった。

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作品の中では明示されていないが、X国はアメリカ、Q国はソ連(現ロシア)を想定した国だと思われる。また、博士が作らされそうだった空気からエネルギーを取り出す化学兵器というと、水素爆弾(水爆)が思い浮かぶ。水爆は原爆と異なり、理論上、爆発の大きさの上限はないものとされている。作中で「何億もの命を一瞬で奪うことができる」、と博士が語っているが、それも大げさな話ではない。

先述したが、この年の6月、米ソ以外で初めて中国が初めて水爆実験を成功している。これは核兵器が世界中に拡散していくことを意味していて、世界や日本に衝撃を与えた。そうした衝撃も、本作のベースになっているのではないかと想像される。


『水爆とお月さま』「小学館コミックス」1967年9月号/大全集5巻

次に、まさしく水爆をテーマとした作品を見ていく。本作は掲載誌は違えど、『国際スパイ大作戦』の直後に描かれた作品で、またしてもX国とQ国の諜報員たちが暗躍するお話となっている。

タイトルは『水爆とお月さま』。物騒なワードと、のどかな言葉が繋がる不思議なタイトルである。本作は水爆を巡る事件と、掲載誌の9月号に合わせた中秋の名月をお題にした俳句作りを掛け合わせたお話となっている。

パーマン、コピー、ブービーで名月を句に詠んでいる。まずパーマンが

「名月や 池をめぐりて 夜もすがら」

と芭蕉の句を紹介する。するとコピーが「名月や コンパス使えば すぐかける」、ブービーが「名月や ミケタンコの 上に出た」と、大喜利状態に。続けてパーマンの番だが良い句が浮かばない。するとそこに月を背景にして、飛行機が落ちていく姿が見える。

「名月や 煙をはいて 落ちていく」

事故かと思って見に行くが、すぐに見失ってしまう。そして俳句の方は明日までに作るとパーマン。

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翌日。パーマンが引き続き俳句を考えていると、パー子が水爆が落っこちたと慌ててやってくる。X国から海外基地へミサイルの核弾頭を運んでいた輸送機が日本上空で故障し、落ちてしまったという。五メガトンの弾頭で、いつ爆発してもおかしくないらしい。

パーマンは夕べ見た飛行機がそうだろうと睨んで、落ちた方向へと向かう。ちなみに広島への原爆が15キロトンと言われているので、5メガトンとはただごとではない。

向かった先の山村で、警官とX国人が口論をしている。水爆は最高機密でX国人の手で探すと主張してくるが、急がないと半径12キロメートルの地域が吹っ飛んでしまうと慌てる警官たち。X国人は自分たちの国の命令しか聞かない、と自分勝手な主張を繰り返す。

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海外基地へ水爆を輸送していたこと、X国人の外見、核爆発の危機でも日本人の主権を蔑ろにする行動、これらから、やはりX国はアメリカがモデルであることは間違いないだろう。

パーマンが核弾頭を探そうとすると、今度は別の外国人が話しかけてくる。この男の推理によると、飛行機は湖に落ちたのだという。案の定湖に潜ると、壊れた輸送機が沈んでおり、パーマンは機内から水爆が入っていると思しき箱を地上へと浮上させる。

湖の外でX国人に核弾頭の入った箱を見せると、あっち行けと感謝の気持ちもない。早く処理をしてくれと頼むが全く聞く耳を持たない。すると、そこにQ国人たちが集まってくる。彼らは、核弾頭の秘密を盗もうとしているのだ。

先ほどQ国はソ連をイメージしていると書いたが、Q国人の外見はアジア系で、実はあまりロシア人の感じはしない。もしかしたら、中国を念頭にしている可能性もある。

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X国人とQ国人が向かい合う中、X国人はなんと核弾頭の起動スイッチを押してしまう。ここで爆発させて、兵器の機密を守ろうというわけだ。Q国人は驚いて逃げて行ってしまう。爆発は一時間後だ。

警報が出て村人たちも避難を始めるが、いかにも間に合いそうにない。そこでパーマンは水爆を宇宙に運んで爆発させようと考える。バッジ一つで宇宙空間まで飛んでいき、箱を放り投げるが、地球の引力によって引き戻されてしまう。

何度かチャレンジしてもうまくいかない。そこへパー子とブービーがやってくる。3人繋がって飛べばスピードアップし、箱を遠くまで飛ばすことができるはず。爆発時間が迫る中、遠く離れた宇宙空間で爆発を起こすることに成功。ラストチャンスを生かしたのだった。

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大ピンチを逃れた後の自宅。まだお月さまの俳句を考えているパーマン。コピーが仕事のあとは明日のテストのために勉強しようよ、と言うと、

「名月や 0点みたいで やな感じ」

と、0点の俳句を詠んで悦に入るパーマンなのであった。

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水素爆弾の爆発を回避する深刻な話と、名月の句を詠むという軽い話。このギャップを、見事に並立させている。さすがはF先生。


さて、『国際スパイ大作戦』に登場していたX国出身のボム博士は、後に『”鉄の棺桶”突破せよ』というタイトルで再登場するのだが、なんと結局Q国に捕まってしまっている。パーマンたちが、Q国に乗り込んで博士救出に向かうというお話である。

この作品は「パーマン」史上でも最も重要なエピソードの一つであり、近く詳細な考察を予定しているので、どうぞお楽しみに(?)。


パーマン考察、たくさんやってます。気になる記事があれば、GO!


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