見出し画像

初期オバQ最高傑作『ネプチャ王子』を読んで泣く/泣ける!オバケのQ太郎②

「泣ける!オバケのQ太郎」シリーズ第二弾。今回の記事では、初期オバQの傑作の一つ『ネプチャ王子』を見ていく。さらにこの続編的作品『ナイババと四人の盗賊』についても触れていきたい。(こちらは泣けないが…)

前回の記事はこちらから。

『ネプチャ王子』
「週刊少年サンデー」1964年50号/大全集2巻

前回の記事で取り上げた『なくなQちゃん』でもそうだったが、本作のQ太郎は人間味のある感情表現が魅力的。空気を読まない一直線の性格がウリのQちゃんだが、時おり見せる優しさだったり、物分かりの良さが、この作品では発揮されている。

ある日、ネプチャ国の大臣が大原家に現われ、Q太郎を王子として国に迎えたいと申し出る。ネプチャ王は二年前に王子を亡くし嘆いていたが、日本で王子ソックリの顔を見つけて、調べるとそれがQ太郎だというのである。

Q太郎のような風貌の王子がいるとは思えないが、当然そんな話に納得する正太ではない。Qちゃんも「正ちゃんと一緒に暮らしたい、たとえ汚い狭い家でも」と正ちゃんに同意する。そして大臣を追い返してしまう。

画像1

ところがネプチャ王は納得できない。大臣に何としても連れてくるよう再度命じる。そこで大臣はQちゃんにネプチャ国の美しい宮殿の映像を見せるが、失敗。

次に、正太のパパに財宝をチラつかせて、Qちゃんを譲れと迫る。「家族を金で売ることはしない」とパパは怒って財宝を投げ出すが、流れで5000万円するツボを割ってしまい、弁償しろと反撃されてしまう。

5000万どころか5万円もない・・・ということで、Q太郎は自ら「仕方がないから僕行くよ」とネプチャ国に行くことに同意する。納得いかない正太は「パパのせいだ」と号泣する。

画像2

ネプチャ国の大使館に連れていかれるQ太郎。Qさまと呼ばれつつネプチャ国の民族衣装に身を包むと、ネプチャ王は「まるで王子が生き返ったようだ」と喜ぶ。窮屈なのですぐに脱ぎ捨ててしまうと、「嫌なら着なくて良い」と王様は寛大な様子。

ここからは押したり引いたりの攻防が始まる。

Q太郎が好きなものはテレビとマンガと答えると、テレビを何台も用意し、スタジオ・ゼロのメンバーと思しき漫画家が集められ、Q太郎専用にどんどんとマンガを描きだす。

画像3

王様に嫌われれば帰れると考え、綺麗な部屋を滅茶苦茶にすると、「元気な子じゃ」と言って王様も部屋で一緒になって暴れだす。花壇を荒らそうと花を大量に引っこ抜くと、王様は「自分のために花を摘んでくれたのか」と喜んでしまう。花火を爆発させて王を驚かせると、シャックリが止まったと言って褒められる。

徹底的にQ太郎を可愛がるネプチャ王なのである。

そんな偏愛を見せる王にも、そうする理由があった。Q太郎がご飯を食べたくないと言うと、病気かも知れないとQちゃんをベッドに寝かしつけて、何人もの医者に診察させる。「何ともない」というQ太郎に対して、

「お前のことが心配でならんのだ。王子が亡くなった時、わしは悲しかった。一緒に死にたいと思ったよ。そこへお前が来てくれたのだ。早く元気になっておくれ」

しょんぼりと部屋を出ていくネプチャ王。息子に早くに死なれた心痛が胸に迫る。Q太郎への猫かわいがりはそういうわけだったのだ。

画像4

「可哀そうな王様」と同情するQ太郎。やっぱり自分がそばにいなくてはならないのか・・・。そう思いながらベッドで横になっていると、窓から正ちゃんが姿を現す。

羽が生えて飛んできたのだという正ちゃん。正ちゃんは帰ろうと声をかけるが、Q太郎は「王様が気の毒で帰るわけにはいかない」と答えると、「王子様になってチヤホヤされたいんだろう」と正ちゃんにキレられ、飛んで行かれてしまう。

当然これは夢の中の出来事だが、「正ちゃん!!正ちゃん!!」とその夢を見ながら涙を流すQ太郎。その様子を見ていた王様は、「可哀そうに」と感想を述べる。

画像5

王様が帰国する日がやってくる。オープンカーで羽田空港に向かうと思いきや、車は正ちゃんの家に方向に進んでいく。

「Qちゃんはやっぱり家に帰りなさい」
「でも寂しくないの」
「わしは王様だ。それくらい我慢できなくてどうする」

「時々日本に来るときは会ってくれ」と言づけて王様は去っていく。涙で見送るQ太郎。そして、帰ってきたQ太郎に涙する正ちゃんなのであった。

『なくなQちゃん』は、Q太郎が落ち込んで復活する話だったが、本作ではその役目をネプチャ王が担っている。ネプチャ王が落ち込んで、復活を遂げる。Qちゃんは本作では巻き込まれた方の役柄だが、息子を失った王様に同情するなど、感情的な面を見せる。

本作あたりから、Q太郎は喜怒哀楽を明確に表現してくる印象を受けるがどうだろうか。

画像6

『ナイババと四人の盗賊』
「週刊少年サンデー」1965年11号/大全集2巻

さて感動的に別れたネプチャ王。まだ数カ月も経たないうちにQ太郎に会いたくなって、正ちゃんと二人でネプチャ国に来るよう航空券を送ってくる。本作は、ネプチャ国を舞台とした『ネプチャ王子』の続編的作品と言えるだろう。

ただ、感動的なのは、ネプチャ国でQちゃんと王様が再会して大喜びするところくらい。大部分は、ネプチャ王の宝を催眠術を駆使して奪い取った大泥棒「ナイババと四人の盗賊」との対決がメインとなる。

画像7

泥棒一味の名前は、「アリババと40人の盗賊」から取られており、藤子F先生が何かとモチーフに使う「アラビアンナイト(千夜一夜物語)」が根底にある。盗賊は40人ではなく4人というところがポイントで、作中「このごろ人手不足でな」とナイババも一桁少ない部下の数を気にしている。

アランビアンナイトは、大長編ドラえもん『のび太のドラビアンナイト』で結実するまで幾度となく使われる題材であるので、どこかで特集記事を書かねばならないだろう。

本作の見所はナイババの繰り出す催眠術である。ただのじゅうたんを空飛ぶじゅうたんに思わせたり、番犬的なライオンのポチを敷き皮にしたり、Q太郎をブタにしたりする。

ちなみにQ太郎の術を解くために、王様が別の催眠術師を呼んでオバケに意識を戻すのだが、Qちゃんと一緒に本当のブタもオバケになった気になるというギャグが個人的にお気に入りである。

画像8

最後は、ナイババに追い詰められたQ太郎が、とっさに鏡を使って催眠術を自らに掛けさせるという機転を利かして戦いに勝利する。とてもしっかりとしたストーリーなのである。


「オバケのQ太郎」はスピンオフや幼年向けの超短編も含めると400本以上の作品が描かれた。基本ナンセンスギャグ・笑いを最優先にしたマンガなのだが、時おり感動的なエピソードが入り込む。その極めつけは「週刊少年サンデー」の最終回『Qちゃんさようなら』であろうが、この作品を検証するのはFノートの最終回近くにしたいので、もう少し先としたい。



この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?