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江戸川乱歩との大コラボ作品!「かいじん二十めんそう」/藤子F初期絵物語②

藤子先生の初期作品の一つのジャンルとして、「絵物語」がある。これは小説と挿絵を組み合わせた読み物で、1957年から1961年あたりに数多く発表している。

「タップタップ」シリーズや「スーパー=キャッティ」など、小説部分を久米みのる氏が担当する絵物語が多いが、一本だけ特筆すべき異色の作家と組んだ作品がある。

それが、かの探偵小説の名手・江戸川乱歩氏が文章を書き、藤子F先生が挿絵を担当した「かいじん二十めんそう」である。


ご存じの通り、江戸川乱歩は戦前~戦後と活躍された小説家で、本邦において探偵小説・怪奇小説のジャンルを切り開いた、最も尊敬すべきエンタメ小説作家である。

江戸川乱歩の代表作と言えば、「明智小五郎」シリーズや、少年少女向けの「少年探偵団・怪人二十面相」シリーズが真っ先に上がる。長編・短編と無数に作品が書き下ろされ、さらにそれがラジオドラマ・映画・テレビドラマ化された。

メディアミックス、IP展開、キャラクタービジネスの基礎を作り上げたと言っても過言ではない。本作も「少年探偵団・怪人二十面相」シリーズの派生作品と考えてよいだろう。

藤子F先生とはちょうど40歳離れていて、本作執筆時は、藤子F先生が25歳で、乱歩氏が65歳だった。藤子先生からすれば、エンタメ世界の大先輩との共同作品となり、とても光栄に思われていたのではないだろうか。


「かいじん二十めんそう」
「たのしい一年生」1959年11月号~1960年3月号
「たのしい二年生」1960年4月号~12月号
(ただし、1960年5月~12月号は、画・しのだひでお)

作品は変則的な連載期間で全14話。一本の繋がったお話となっている。ただし、藤子先生が画を担当されていたのは、前半の6話分で、残りの7話はしのだひでお先生にバトンタッチされている。

しのだひでお先生は、藤子不二雄ファンの間ではかなり有名な漫画家で、手塚治虫先生のアシスタントからキャリアを積み、トキワ荘を介して藤子不二雄両氏と親しくなり、あたかも藤子スタジオの社員のように仕事を手伝っている。

藤子F先生の5歳下なので、この時は若干20歳。この時点から藤子先生が亡くなるまで交流が続いたというのは大変驚きである。

藤子F関連では、「ベラボー」を共著しており、「ウメ星デンカ」や「ジャングル黒べえ」「新オバケのQ太郎」の代筆なども行っている。また、「ドラQパーマン」という夢のようなコラボ作品でも作画を担当された。

F先生の信頼が厚い漫画家さんなのである。


藤子・F・不二雄大全集において、初めて本作を読むことができたが、しのだ先生が担当された部分も収録されている。何せ一本のストーリーなので、きちんと収録されたことには感謝申し上げたい。

なぜバトンタッチすることになったのかは不明だが、藤子先生が手を離した1960年4月は、「てぶくろてっちゃん」と「ロケットけんちゃん」という二大勝負作が連載スタートとなったタイミングである。

連載急増の中で、挿絵とはいえ、原稿を落とすといった事態を避けるべく仕事量の調整が図られたものと想像される。


それでは、中身について簡単にまとめておこう。

大雑多にストーリーを語ってしまえば、少年探偵団と怪人二十面相の追走劇である。本作では探偵団の一人であるポケット小僧がメイン主人公となり、途中から小林少年も加わる。

藤子先生が担当された前半では、宝石を巡るミステリーや化かし合い・出し抜き合いがメインストーリーだが、しのだ先生が担当した後半では、逃げる怪人二十面相・追う少年探偵団というシンプルな捕物帖となる。

個人的な感想としては、追いかけっこメインとなる後半は、少々冗長な感じがしており、藤子先生が描いた前半の方がテンションが上がる。


物語は、ポケット小僧(←小学四年生だが、幼稚園生のように身長が低い)が、寂しい野原にポツンと建つ古い洋館を見つけ、三階の窓から少女が身を乗り出して悲鳴を上げている場面に遭遇するところから始まる。

少年探偵団の七つ道具である小型望遠鏡を取り出して様子を伺うと、助けを求める少女の後ろからライオン(!)が飛びかかろうとしている。

ポケット小僧は急いで近くの交番へと走り、おまわりさんを連れて戻るのだが、洋館の住人だという白いあごひげのおじいさんに、女の子もライオンもいないと完全に否定されてしまう。

絵柄としては、ポケット小僧、女の子、ライオンと、いかにも藤子F先生が書いたとわかる優しいタッチのキャラクターが描かれている。特に印象深いのは、日常に突如現れるライオンで、その後の藤子作品にたびたび登場するモチーフの原型ともいえなくもない。


勇気ある(もしくは無謀な)ポケット小僧は、その夜洋館に忍び込んで、捕らえられている少女を発見。さらには少女が車で連れ去られていくのを、車のトランクに入り込んで追跡する。

第一話はここまでだが、謎が謎を呼ぶ導入となっており、ミステリとしても十分に面白い。13ページで挿絵の数は21。第二話目以降はページ数も挿絵の数も減っている。初回のみの増ページであったらしい。


「かいじん二十めんそう」と題しながら、初回には姿を見せなかったが、何せ変装の名人であり、既に誰かに変身しているのでは・・・と、そんな感想を抱きつつ、第二話へ。

二話目では、誘拐されていた女の子は、身代金の宝石と交換されたことを知る。ポケット小僧は果敢にも宝石の奪還を目指して洋館に再度忍び込むが、罠にかかって閉じ込められてしまう。

さらには、昼間見かけたライオンが襲い掛かってくる。絶体絶命のピンチの中、第三話へと物語は続いていく。まだ怪人二十面相の姿も拝めぬままである。


第三話では、ポケット小僧に飛びかかってきたライオンが、何と二十面相の変装だったという意表を突く展開となる。その時のセリフがなかなか良い。

「おれはどんな人間にでも、どんな動物にでも、化けることのできる、世界一の名人だよ」

江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズはほとんど読んだことがないが、二十面相が動物に変身するお話って他にもあったのだろうか?

人間がライオンに変装するとは、小説としては少々バカバカしい感じもするが、こうした絵物語ではなぜか納得できてしまうので、本作オリジナルのアイディアであるような気がするがどうだろう。

この三話のラストで、いよいよ小林少年も登場することが示唆される。ただその前に、ここまで実質的に活躍をしていないポケット小僧の見せ場が、この後用意されることになる。


第4話では捕まってしまったポケット小僧が、怪人二十面相を出し抜いて宝石を奪い取り、洋館を脱出する場面が描かれる。

余談だが、藤子F先生の描く怪人二十面相はやけにムキムキの筋肉質で、その後の紳士然とした怪人千面相とはだいぶ表現が変わっている。


第5話では脱出したポケット小僧と小林少年が合流し、警察も含めて洋館へと向かい、怪人二十面相と対決する場面が描かれる。部下たちはあっさり捕らえることに成功するが、肝心の二十面相の姿はない。

すると洞察力の優れた小林少年が、ほとんどの手がかりがないにも関わらず、怪人二十面相が仏像に変装しているのを見抜く。仏像姿で逃げていく二十面相の挿絵は、なかなかシュールで少し笑える。


第6話からは、掲載紙の学年が繰り上がり、「たのしい二年生」で掲載されていく。藤子先生が担当されたのは、この4月号が最後となる。

屋上へと逃げていった怪人二十面相(仏像姿)。なんと脱出用のヘリコプターが用意されており、素早く乗り込んで飛び立ってしまう。万事休すと思いきや、警視庁もヘリコプターをすぐに用意して、小林少年・ポケット小僧も乗り込んで、二十面相のヘリを追跡していく。

ここまでの化かし合い・出し抜き合いというミステリから、急にアクションものへとジャンル変化を遂げる。これってまるっきり劇場版の「名探偵コナン」の展開であり、探偵モノの定番フォーマットなのかもしれない。

この6話の最後で怪人二十面相のヘリコプターが山中に着陸し、少年探偵団のヘリ(警察のヘリ)も後を追って降り立つところで次回続くとなる。ここで、藤子先生のお役はご免となり、しのだ先生へと引き継がれていくのである。


第7話以降の展開についてはカットするが、7話の冒頭だけは少し触れておきたい。

というのも、前作からの繋がりが今一つで、いつの間にか二十面相を捕まえることに成功したところから話がスタートするという面白展開だからである。

そして事件は一件落着かと思いきや、なんと本物の怪人二十面相から電話がかかってきて、小林少年たちが捕まえた男は自分に変装した部下だったと言うのである。

怪人二十面相は、江戸川乱歩の小説の中でも、何度も捕まっては、脱獄したり、本作のように実は部下を捕まえただけ、みたいなことになって、次作へと繋がっていく。

本作は、まさしく乱歩あるあるといえる、お話の進行だったようである。。

この後、思いもよらぬ舞台に移って、チェイスが続いていくのだが、是非とも大全集をお買い求めいただいて、続きをご堪能いただきたい。



さて、本作の影響かはわからないが、その後の藤子作品では怪人二十面相のパロディともいえる「怪人千面相」(もしくは怪人五十面相)がものすごい数の作品で登場する。

既にほぼ全ての登場作品を10本ほどの記事に分けて解説済みなので、ご興味あればこちらも読んでみてください。一本だけリンクを貼っておきます。




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