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ここらで怪人千面相総まとめ『千面相VSきゃぷてんボン』/怪人千面相関連作④

1936年に江戸川乱歩が生み出したキャラクター、怪人(怪盗)二十面相。少年少女向けの探偵小説で、少年探偵団たちとバトルを繰り広げた変装の名人である。

荒唐無稽なキャラクターだが、高い変装の技術を持った泥棒との大捕物は、子供たち読者の心を鷲掴みにしたのであった。

おそらく藤子F先生も、子供の頃に怪人二十面相に夢中となった一人だったに違いない。漫画家となり、パロディとなるキャラクター(怪人五十面相、怪人千面相)を、幾度も自身の作品の中に登場させている。


その中でも「パーマン」に登場する悪役、怪人千面相が最も有名であろう。1960年代の「旧パーマン」、1980年代の「新パーマン」において複数回登場して、パーマンたちに挑戦状を突きつけてくるキャラクターである。

怪人千面相は、私腹を肥やすために悪事を働く奴ではなく、美学を持って盗みや脱獄を楽しんでいるように見える。また、美術品を愛しており、美しいものを自分の手元にコレクションしたいという純粋性も持ち合わせている。

以下、「パーマン」において怪人千面相が登場する作品の記事を二つ並べておく。特に『怪人千面相と黄金像』は、本稿で紹介する作品とのリンクがあるので、注目して欲しい。


怪人千面相が登場するお話は、「パーマン」以外にも存在する。旧パーマン以前に「怪人五十面相」として登場させた「てぶくろてっちゃん」や、旧パーマンと全く同じ風貌で再登場させた「バケルくん」(こちらも名前は五十面相)などがある。

こちらも一度チェックしてもらえればと思う。


本稿では、「怪人千面相関連作」の特集シリーズから漏らしてしまっていた作品を取り上げる。タイトルは、1976年に発表となった「きゃぷてんボン」の『千面相VSきゃぷてんボン』である。

怪人千面相は「バケルくん」で再登場を果たしてすぐの、再々登場となる。わかりづらいので、時系列をここに記しておきたい。

・1962年「てぶくろてっちゃん」
・1967~68年「パーマン」
・1975年「バケルくん」
・1976年「きゃぷてんボン」
・1983~84年「パーマン」(新)

なお、「きゃぷてんボン」という作品は、相当コアな藤子F好きではないと、タイトルも聞いたことのない作品だと思われるが、昨日改めて概略のわかる記事を執筆しているので、こちらを事前にお読みいただくことをオススメいたします。



「きゃぷてんボン」『千面相VSきゃぷてんボン』
「てれびくん」1976年9月号

世間知らずでまるで子供のような振る舞いをする丸山博士は、見かけによらず天才的な科学者で、数多くの優秀な発明品を作っている。丸山の息子であるボンは、父親の傑作発明品であるヘルメットを使って、「きゃぷてんボン」として、ヒーロー活動に勤しんでいる。

「きゃぷてんボン」の名声は、いつの間にか全国に広がっているようで、とある男が悪者を捕まえてほしいと依頼してくるが、ボンが子供だと知り「バカらしい」と言って去って行ってしまう。

部屋に戻ると、たった今訪ねてきた男がテレビに映っている。ニュースによれば、男の名前は金山といい、彼の所有している5000万相当の値打ちのある仏像をを狙って、怪人千面相が盗みを予告する手紙を送ってきたのだという。

千面相は変装の名人として知られており、本当の顔を誰も見たことが無いという。そこで天才科学者であるパパが、対千面相用に新発明を準備してくれるという。果たして、どんな道具なのだろうか。


ボンには三匹の仲間がいる。一匹目はペットのような小型ロボットのムック、二匹目は普段ヘルメットに装備してある鳥形飛行機のハミングバード、三匹目は同じくヘルメットから飛び出してくるみみずロボットのニョロボである。

ボンは頼まれてはいないが、金山と仏像が気になって、千面相を捕まえるべく、いつものようにハミングバードに乗り込んで出動する。なお、ハミングバードに乗り込むためには、胸に付けてあるマイクロバッチを押すことで体を小さくする必要がある。

金山宅に着くと、金山が雇った世界一の名探偵、竹知が仏像を守るべく待機している。金山は「子供なんか邪魔だよ帰りなさい」とボンに冷たい。竹知探偵も「千面相は僕に任せておきたまえ」と自信満々である。

もちろん、竹知探偵とは、明智(小五郎)探偵のパロディキャラである。


ボンは「まだ安心できないと思う」として、パパの発明した「コピー製造機」を取り出す。カメラが備え付けられおり、これで仏像を映すと、コピーが即座に制作されて、製造機の中からパカっと飛び出してくる。一瞬でコピーできる3Dプリンターと思えば良いだろう。

コピー製造機で瓜二つのコピーを作り、本物を隠してコピーを千面相に盗ませるという作戦を考える。グッドアイディアだということで、実際にコピーしてみると、あまりに似すぎていて、どっちが本物かわからなくなる。

コピー品は簡単に割れるようなので、あとは割って確かめるしかないという。しかし間違って本物を壊すわけにはいかないということで、本物を多数決で決めることに・・・。


偽物(としたもの)をテーブルの上に飾り、本物(としたもの)は竹知探偵が安全な隠し場所を探すことになり、本物を持ってそのままどこかへと去って行く。

すると警察が慌てて入ってきて、さっきまで居た竹知は偽物で、本物の竹知は渡米中で不在だという情報が伝えられる。つまり、仏像を持ったまま消えた竹知探偵は、怪人千面相の変装であったのだ。

金山は本物を盗まれたことをボンの責任だとして責める。ところがそこへ千面相から電話が掛かってくる。彼が持っていった仏像が偽物だったので、今度こそ本物を盗みに戻ってくるというのだ。

金山は、先ほどまで仏像を弁償しろなどと言っていたボンに対して、「なんとかしてえ」と泣きつく。金山はずっとボンのことを子供だと言ってバカにしたり、盗まれたことをボンのせいにしたりと、何か気に食わない奴なのである。


ボンが新たに提案した作戦は「諦めてさっさと盗まれちゃいましょう」という投げやりなアイディアであった。

その晩、怪人千面相が金山に扮して部屋に入ってくる。仏像がテーブルに置かれているが、ボンや金山や警備スタッフも誰もいない。千面相は「諦めたのか」と言って、そのまま仏像を盗んでしまう。

「きゃぷてんボンに勝ったぞ」と喜びながら千面相は屋敷に戻る。「これまで盗んだ物の中で一番素晴らしい」と言って、ワハハハ・・と高らかに笑う千面相。

すると、「そんなに喜んでいいの」と、仏像から声が聞こえてくる。その声の主はマイクロバッチで小さくなっていたボンである。

驚く千面相に対して、ボンは大きくなって飛び掛かる。千面相は拳銃で応戦しようとするが、一足早くボンが棒状のニョロボで千面相を叩きのめしてしまう。


怪人千面相は変装の腕前は確かであったが、いつになくツメの甘さが目立っていたように思える。また仏像が好きだということだが、この設定は「新パーマン」に引き継がれることになる。

ヒーローには魅力的な敵が必要だが、賢くて変装の名人である怪盗というキャラクターは、子供が主人公のお話にはピッタリのヴィランであるようだ。藤子先生の千面相(五十面相)多用ぶりからもわかるというものである。




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