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超能力のトリガー? 神秘の雑種犬・コンポコの秘密/考察「エスパー魔美」

『わが友・コンポコ』
「まんがくん」1977年13号/大全集1巻

「エスパー魔美」の主要キャラクターとして外してはいけないのが、魔美の愛犬コンポコである。鳴き声はフャンフャン、外見はキツネともタヌキともネコともパンダとも見え、好物は油揚げで、特技は木登りという、究極の雑種犬である。

コンポコは魔美の話相手という側面を持ち、魔美に飛びつくことでテレポートを誘うこともできる。人間的な感情を表すことが得意で、場合によっては物語の狂言回しとして活躍することもある。ビジュアル的にも可愛いし、まさしく魔美の相棒、といった感じで「エスパー魔美」には必要不可欠なキャラクターである。

コンポコは、作画的にも、物語的にも、魔美の会話相手としても、非常に重要な役割を担っているのである。


そしてもう一つ、コンポコには設定上、重要な意味合いが込められている。それは、魔美の超能力を引き出した存在ではないか、というエスパーのトリガーの役目である。

「エスパー魔美」のパイロット版である、『アン子、大いに怒る』では、コンポコの元となった犬が登場するが、この犬をパパが拾ってきたことから、アン子の超能力が発揮されるようになる。

「エスパー魔美」では、そのような設定は明らかではなかったが、本稿で取り上げる『わが友・コンポコ』において、その役割が仄(ほの)めかさせるた。


本作の主人公はコンポコで、その相手役は高畑だ。この二人の交流が、本作のメインストーリーとなる。

二人は今のところソリが合っておらず、「エスパー魔美」の初回で、初対面の時に高畑はコンポコに対して「どう見てもキツネかタヌキ」だと感想を述べて、いきなり噛まれている。コンポコは、犬であるという自尊心が強く、他の動物に見間違いされると必ず傷つくのだ。

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高畑は、魔美ではなくコンポコに会いに来る。初対面以降、反感を持たれていることを気にした高畑が、コンポコと仲良くなりたいと申し出てきたのだ。仲良くなりたい理由は、後ほど明らかになる。

高畑は油揚げを持ってきたと、コンポコにお土産を渡すのだが、この時「ポコペン」と名前を呼び間違えて、さっそくワグと足を噛まれてしまう。コンポコは名前を間違えられると酷く気分を害するのだという。

魔美からは「お人よしでおだてに乗りやすい」とアドバイスを受け、二人っきりで会話を始めることにする。しかし、ここでも「ポンポコ」と言い間違えて顔面をウグワグワグと噛みつかれてしまう。


仕切りなおした高畑は、いきなり本題から始める。

「僕が君と仲良くしたいと思い立った訳はね、マミくんの超能力のカギはひょっとして君じゃないかと考えたからなんだ」

コンポコは、大嵐の晩に魔美の家に迷い込んできて、その後から魔美の超能力が始まった。高畑はこの話を聞いて、ピンと来たのだという。

高畑の推察は、こうだ。

・昔の魔女の絵にはコウモリやカラスやヒキガエルやヘビなどが書き添えてある
・それらはムードを盛り上げるためではなく、魔女の超能力に必要なもの
・言い換えれば、マッチで火をつけるためのマッチ箱ではないか?
・動物たちから放射される何かに超能力者が感応して、力が芽生えるのではないか

「コンポコはエスパー魔美のトリガーではないか」というのが、高畑の考察なのである。

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しかし、この話を聞いたコンポコは、自分がヒキガエルに似ているとバカにされたように思いこみ、高畑に噛みついて、庭へと出て行ってしまう。そして木に登るコンポコを見て、高畑は「ますますネコだね」とコンポコをさらに傷つけるのであった。


ここで魔美も合流し、木の上のコンポコを眺めるのだが、庭の金網に寄りかかっていた高畑から魔美の頭の中にテレパシーが流れ込む。金網を媒介にして考えが伝わってきたのである。

高畑は、これは大発見だと喜ぶ。そして以下のように、新超能力を解説する。

・人間の皮膚の表面には弱い電流が流れている。ウソ発見器はこれを利用したもの。
・魔美は皮膚電流から相手の思考を読み取れる。
・金網のような電気を通す導体を利用すれば、いつでも人の心を見通せる。

コンポコのエスパーのトリガー説や、伝導体を使ったテレパシーの解説など、高畑君の知識・見識には改めて感心させられる。

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再び、魔美の部屋で一対一となった、高畑とコンポコ。高畑は、先ほどの話の誤解を解くべく、大いに語る。

コンポコを単純にヒキガエルに例えたのではなく、コンポコはどことなく謎めいた神秘的な犬だということを言いたかった。雑種といっても只者ではなく、あらゆる犬種の血が混ざっている、雑種の中の雑種である、と。

コンポコは、高畑の熱いプレゼンにしっぽを振って興奮し、気分を良くして、高畑のお土産である油揚げに口をつける。ついに、高畑とコンポコが打ち解ける時が来たのである…。

ところが、高畑はここで大失態。

「これからはずっと親友になろうな、チンポコ

と、考えうる中で最低な名前の言い間違いをしてしまうのである。これでまたも、噛みついて庭へと飛び出していくコンポコであった。

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魔美は、高畑・コンポコ会談中は、いつものヌードモデルのアルバイトをしていた。それが終わり庭へと出ていくと、高畑が金網に寄りかかって何か考えこんでいる様子。魔美はこっそりと伝導テレパシーを使って高畑の心を覗き込むと、高畑は魔美の裸を想像しているのだった。

「ドラえもん」のしずかちゃんなら、のび太さんエッチ~!、といった展開が予測されるが、魔美は微妙に思春期前の女の子なので、反応は微妙。

「へえーっ、驚いた!!高畑さんでも、女の子の裸なんか想像するの!?」

それに対して性の知識は持ち合わせている高畑は、魔美に心の内を覗かれて、飛び上がっての大わらわ。「プライバシーの侵害だ!」と顔を真っ赤にして騒ぎ立てる。それに対しての魔美は、

「そんなに照れなくていいわよ。あなたくらいの年頃の男子が、女子に好奇心を持つのは自然なことだって、少女雑誌の「悩み相談室」に書いてあった…」

と、魔美はまだまだ座学の女の子なのであった。

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その晩、事件が起こる。本作の冒頭で伏線が張られていたのだが、近所のある家の庭で、崖の下から戦国時代に掘られたほら穴が見つかって、そこを勉強部屋として使っている学生がいた。母親はいつ崩れるかわからないからと注意をしていたのだった。

魔美が思考波に呼ばれて飛んでいくと、その崖が崩れており、中に学生が生き埋めとなってしまったようである。魔美はコンポコを置いて、テレポートで崖の中に入り、男性の救出に向かう。

すると、中は真っ暗。手探りで電気を付けると、そこはもぬけの殻。バカにしている、ともう一度外に出ようとすると、魔美のテレポーテーション・ガンの仁丹が切れて、テレポートできない!

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外では、学生が家の中のトイレから出てくる。ずっとお腹を壊していたらしく、ほら穴の中には入っていなかったのである。とんだ人騒がせだ。

「何事もなくて良かった」と、集まっていた人たちが解散し始めるが、魔美が戻ってこないことに気が付いたコンポコは、みんなを引き留めようとする。もちろん、全く聞いてもらえない。

コンポコは、そこで高畑の元へと走っていく。高畑はコンポコが家にやってきたのを見て、

「なんだ、チン・・・。いや、コンポコじゃないか」

と、危なく放送禁止用語をしゃべりかけるが、何とか踏みとどまる。そして、コンポコの尋常ではない様子から、魔美に何かあったのだと察知する。

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地崩れの現場に連れていかれ、魔美が生き埋めになっていることを高畑は知る。高畑は急いで近所や消防に声を掛けるのだが、先ほど大騒ぎした挙句の空振りがあっただけに、人が埋まっていると言っても誰にも信じてもらえない。

自力で掘り進めるが、埒が明かない。もう諦めるしかないのか、と思ったところで、高畑はあることに気がつく。洞窟の中へは、電線が通っている。これを使えば、伝導テレパシーが使えるのではないだろうか?


高畑は電線を石で切り、モールス信号のように電気を点けたり消したりして、魔美に「伝導テレパシーを使おう」というメッセージを送る。魔美はこれに応えて、電球の口金に指を差し込んで、高畑からの伝言を受け取る。

頭のいい高畑は、魔美がなぜ閉じ込められていたかを推察する。仁丹が切れてテレポートできないのだとしたら、その辺の小石を自分にぶつければ、同じ原理でテレポートできると。

高畑のアドバイスに従って、魔美は無事に帰還する。大喜びのコンポコは、高畑に飛びつく。二人が本当の友人となった瞬間である。ここでは、セリフを排除し、コンポコの「フャン」という鳴き声だけで感動的なシーンを描写している。F先生が時おり使う、感動に言葉入らずの手法である。

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さて、本作のように、防空壕のような地下に閉じ込められるというシーンは、「キテレツ大百科」の『モグラ・マンション』というお話にも出てくる。他にも、「パーマン」の『母恋いパーマン』も炭鉱に閉じ込められたお話であった。

最近の日本では起きないが、80年代くらいまでは入口が崩落して炭鉱に閉じ込められる事故などが頻出していた。そういったイメージが、本作などに影響を与えているものと思われる。

(閉じ込められる話でも、シリーズの記事にしようかな?)



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