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ドラえもん、ネジ一本で壊れる『ミチビキエンゼル』/Fキャラも不調になる②

私事で恐縮だが、何年か前に後鼻漏が悪化して、咳が止まらなくなったときがあった。鼻水が喉の方に流れ込んで、咳き込んでしまう症状である。

慢性的に咳が多かったのだが、そこに風邪を引いてなおさら咳が頻発した。そしてある時、ゴホゴホと強く咳き込んだ拍子に、「ボキ」と骨が折れるような音がした・・・そんな気がしたのである。

そして実際に肋骨のあたりが痛み、本当に骨折しているのではないかと思い始めた。風邪の症状もあったので内科に診てもらったのだが、この時先生に「咳で骨が折れることってあるんでしょうかね?」と尋ねると、咳なんかで骨など折れるわけがないと一笑に付された。

ところがそれから数日経っても痛みが引かない。これは・・と思い、今度は整形外科に行くことに。そして先生に、「咳で骨が折れることありますか」と聞くと、稀にあるとの答え。そして、レントゲンを撮ることになった。

そして・・先生はひと言、「いっちゃってますね」

レントゲン写真には、肋骨がばっちりと折れた画像が映っている。咳、恐るべしなのである。


僕がこの時レントゲンを見て、折れるわけがないと言い放った医者の顔が思い浮かんだのだが、それと同時に、本稿で取り上げる「ドラえもん」の『ミチビキエンジェル』のエピソードを思い出した。

この作品は、「ミチビキエンジェル」というロボット自体がユニークなのだが、そこにドラえもんの風邪という要素を加えて、最終的にはドラえもんとのび太の友情を描くお話となっている。

ドラえもんは、強く咳き込んだ拍子に、ネジ一本が飛び出してしまい、それで故障寸前まで追い込まれる。一つの咳、一つのネジで、精巧な22世紀のロボットが壊れてしまうというのである。


「ドラえもん」『ミチビキエンゼル』
「小学五年生」1973年11月号/大全集3巻

ドラえもんはロボットであることを忘れてしまうほどに人間的である。食事もするし、眠るし、暑がるし、寒がる。ドラえもんは、22世紀の最新鋭ロボットなわけだが、どうやら人間に近づく方向で技術が磨かれてきたようである。

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本作はドラえもんの大きなくしゃみから始まる。そして鼻水を垂らしながら、

「ロボットのくせに、風邪を引くなんて。僕は精巧にできすぎてるなあ」

と言って、布団を敷いて寝ようとする。

考えてみると、ロボットなのに風邪のウイルスに罹ってしまう仕組みがさっぱりわからないし、風邪を引くことでくしゃみ以外に熱が出たりするのかも不明。そもそも平熱は何度なのだろうか?

考え出すとキリがないので止めるが、ともかく、22世紀の最新型ロボットは、人間的な病気の心配もしなくてはならないのである。


ドラえもんが「温かくして寝ていよう」と思ったところに、のび太から電話が掛かってくる。何でも「重大な問題」が発生し、悩んでいるのですぐに来てくれいう。ドラえもんは「行かないわけにはいかんな」と、病を押して出掛けていく。

のび太は三叉路で立っている。左に向かえば家。明日はテストがあるので、家に帰って宿題をしなくてはならない。右に向かえばしずちゃんち。遊びに誘われたのだという。のび太は、右に行くべきか左に進むべきかで悩んでいるのだという。

これを聞いたドラえもんは、「ハクション」と飛び切り大きなくしゃみをして、

「僕は風邪を引いているんだぞ。そんなくだらないことで・・・」

とのび太に怒ろうとするのだが、ふと「いいものを貸そう」と何かを思い出す。

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ドラえもんが出した道具は「ミチビキエンゼル」という手(指)にはめるタイプの天使の姿をした人形。しかし、貸すのは可哀想だが、懲らしめたほうが当人のためかも・・などと、いわくありげな様子。

「ミチビキエンゼル」は、指にはめて相談すると、その人にとって一番ためになる答えを出してくれるのだという。のび太がさっそく手にはめて、進むべき道は右か左かを問うと、「もちろん右だ」と答える。その理由は、勉強は夜でもできるが、しずちゃんと遊べるのは今だけだから、というもの。

何だか話の分かってくれる相談相手のようだ。のび太も「いいこと言うなあ」と大喜び。

ただ、ドラえもんが、道具の紹介の中で、「その人にとって一番ためになる答え」と言っていたところは注意しておかなくてはならない。その人が望むこととは言っていないのである。

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のび太は「ミチビキエンゼル」に導かれて、しずちゃんの家へと向かう。ところが、遠回りをさせようとするので、のび太が言うことを聞かずに近道を進むと、ジャイアンとスネ夫にばったり出くわす。そして、強制的に野球の参加を命じられてしまう。

ミチビキエンゼルは、「こうなったら行った方がいい」とアドバイス。途中で抜けようという算段である。

野球をしようにもミチビキエンゼルは離れない。真面目にやれ、とボールを投げつけられると、ミチビキエンゼルが自らボールをキャッチしてくれる。「人形型グローブかい」と納得するジャイアン。

ここでのポイントは、ミチビキエンゼルは勝手には外せないということ。それと、勝手にある程度動けるという点である。これが後の伏線となる。


ミチビキエンゼルの指示通りに動いて外野フライを取る。そしてバッティングでも、事前に見送ればボールとなることを教えてくれる。野球にも役立つ人形である。そして、思わぬ指示が飛び出す。

次のボールを肩の高さで思いっきり振り、そのまま逃げろというのである。半信半疑ののび太に、試合は終わりになるから大丈夫だと念を押す。

はたしてバットを振ると、カアンとボールが飛んで行き、そのボールは寝ていたブルドッグに命中して、野球場に乱入してくる。試合が滅茶苦茶になる中、のび太はしずちゃんの家へと逃げ出すことに成功したのであった。

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無事、しずちゃんの家で遊ぶのび太。このあたりから、ミチビキエンゼルの指示が細かくなっていく。ゲームでのコマの動かし方、紅茶に入れる砂糖の数、鼻くそをほるな・・。そして、そろそろ勉強のために帰りましょうと言い出す。

ところが、のび太が帰る素振りを見せると、しずちゃんの母親から、用意しているので夕食を取っていきなさいと誘いを受ける。「悪いなあ」と嬉しそうなのび太。ミチビキエンゼルにどうしたらいいか聞くと、

「それはもちろんアカンベエしなさい」

と答え、思わずその通りにすると、しずちゃんとママはビックリ仰天。

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帰り道。しずちゃんがカンカンだったとのび太が文句を言うと、「おかげで家に帰れるのです」とミチビキエンゼル。こうなると、完全に意に反したお節介ロボットである。「お前なんか取っちゃうから」と言ってミチビキエンゼルを外そうとするが外れない。それどころか、ガブと手に噛みついてくる。

勝手に外せない、勝手に動く。野球の場面での伏線がここで回収となる。そして、ドラえもんが貸すのを躊躇した理由も、はっきりしたのである。


のび太はドラえもんに文句を言おうと部屋に戻る。するとドラえもんが、ドライバーを片手に、自分の体の前面を開けて、修理をしている。どうしたのか聞くと、さっき帰ってから調子が悪く、調べたらネジが一本足りなくなっているのだという。

たった一本のネジだが、このままではドラえもんは壊れてしまうという。これは一大事。

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ここでプレイバック

ドラえもんとのび太が落ち合った交差点。ドラえもんは大きくなクシャミをしていたのだが、この時、その拍子に口から小さなネジが一本飛び出していたのである。マンガの中では、ギリギリわかる感じでネジが描かれている。

ドラえもんは動けない。のび太が代わりに探しに向かうが、ミチビキエンゼルは「勉強だ」と言って、のび太を殴ったり髪の毛を引っ張ったりして、その邪魔をする。

さらに交差点でジャイアンとバッタリ。ジャイアンは先ほど野球の試合を滅茶苦茶にされたことに酷くご立腹である。「殴る!!」と腕を捲るが、のび太は「探してから・・」と無視してネジを見つけようとする。

ミチビキエンゼルとジャイアンに邪魔されるのび太。しかし、のび太は

「今は、ドラえもんの方が大事だ」

と、友情に熱い姿を見せる。


すると、ジャイアンがミチビキエンゼルを気にして、「俺に貸せ」と言ってのび太の腕から抜き取ってしまう。この人形は自分からは外せないが、人の手によればすぐに取れてしまうのであった。

のび太は、ジャイアンとミチビキエンゼルの邪魔者がいなくなってくれて、「ああ良かった」とネジ探しに集中する。そして無事見つけ出してドラえもんに届けるのであった。

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「ありがと、ありがと。おかげで助かった」

涙を流してのび太の手をとるドラえもん。ここでの、二人の笑顔が家の外からのシルエットで表現されるカットが素晴らしい。


翌朝。ジャイアンはミチビキエンゼルに「君のためです」と叱られポカポカと殴られている。「このお節介な人形なんとかしないと殴るぞ」と脅すジャイアンだったが、「取った方がいいか迷うなあ」と惚けるドラえもんなのであった。

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咳一つで肋骨が折れるように、クシャミ一つで22世紀の最新ロボットのネジも飛び出してしまう。皆さま、くれぐれも体にはお気をつけて・・。

結論:22世紀のネコ型ロボットは、クシャミ一つで壊れてしまう(かも)


「ドラえもん」の考察やっております。


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