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野比家に伝わる古文書の謎『のび左エ門の秘宝』/野比家のご先祖様②

のび太の先祖を描くエピソードを検証し、野比家のルーツを探る企画「野比家のご先祖様」の第二弾。前回は『ご先祖さまがんばれ』という作品を通じて、猟人に定着したお話を考察した。

この話では野比家だけでなく、人の手柄を奪って出世した骨川家や物欲を強めた郷田家のルーツも判明している。


さて続けてのび太のご先祖様を探っていく。前作では戦国時代に遡ったが、本作では6代前の江戸時代で比較的近い過去である。

『のび左エ門の秘宝』
「小学四年生」1971年1月号/大全集1巻

本作はお正月エピソードの一つ。昨年のお正月特集で一度簡単に本作は触れているのでご興味あればこちらも。


冒頭でのび太が宝探しのようにお年玉と見つけて、パパから「こんな貰い方をすればスリルがあるだろ」とドヤ顔される。ところが苦労のわりに金額は少ない。

お年玉袋には硬貨が5枚入っていたので、おそらく500円ということだろう。この頃は親戚も多かった時代なので、まあ多少少なめの金額感だろうか。

この「宝探し」の最中、ドラえもんは宝と聞いて、目が血走って手足をジタバタさせて大興奮している。初期ドラにありがちのオーバードラえもんの典型的シーンである。

ちなみにお年玉が足りなくて宝探しをするという展開は「オバケのQ太郎」に『為左衛門の秘宝』という似たお話がある。

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さて本当の宝さがしがしたいということで、ダメ元でパパに野比家に古い書き物がないかと尋ねてみると、「あるよ」という意外な答え。「そんなものがやたらにあるわけないよね」と引き下がろうとして、「あるって!」とパパへと飛び掛かる。この辺りの呼吸はM-1レベルの漫才のよう。

古い骨とう品と一緒に、巻物が出てくる。それによると・・

「文政九年元日。のび左エ門これを記す。あまりにも金が溜まり置き場がないなり。だから埋めるなり。その隠し場所は…」

パパの読み上げに「フムフム」と身を乗り出して聞き入るのび太とドラえもん。ところが、その続きは巻物が千切れててない。カクンとコケるのび太たち。ここの流れも漫才の呼吸である。

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ちなみに文政九年は、西暦1826年、徳川11代将軍家斉の治世にあたる。寛政の改革と天保の改革の狭間の時代で、比較的平穏な頃と言える。

パパによるとのび左エ門は6代前の先祖で農家を営んでいたらしい。このような巻物を残していることから、土地を所有する豪農だったと想像できる。本作執筆時(1971年)の145年前と表現している。


場所さえわかっていれば、財宝が掘りだせるはず。そこでタイムマシンで文政九年の元日に遡って、埋める瞬間を見てこようという策を考える。

早速タイムマシンに乗って向かうと、出口は何と肥溜め。見事にドラえもんが落っこちてしまう。ちなみに『白ゆりみたいな女の子』ではのび太が肥溜めに落ちていた。

また、大人になったのび太の時代にタイムマシンで向かうと、公衆トイレの中が出口となっていた(『のび太のおよめさん』)。何かと野比家とトイレは縁があるらしい。


のび左エ門の家を人に聞いて探そうとすると、いきなりのび太そっくりの男の子が歩いてくる。聞くとのび左エ門のせがれののび作だという。つまりのび作は5代前のご先祖様ということになる。

この頃で10歳くらいだとすると、60歳くらいまで生きたとして、明治維新を経験している世代ということになる。案外近いご先祖様である。ちなみにのび作という名前は、戦国時代に猟師をしていたご先祖様と同名である。前回の記事で紹介しているのでそちらご参照下さい。


のび作の案内で家に向かうと、あんまりパッとしない風貌ののび左エ門がいる。富豪ではなくどちらかといえば小作人の雰囲気である。遠い親戚だと言って警戒感を解くと、のび左エ門は「用事があるから」と言って出掛けていく。

スキとツボを持っているので、あの中にお宝が入っていると睨んだのび太たちは、後からのび左エ門についていくことにする。ところが一緒に来ると聞いてのび左エ門は家へと引き返してしまう。

家の中に案内されるのび太たち。平凡な囲炉裏のある室内で、お宝とは縁が無さそうに見える。一方、のび左エ門とのび作はひそひそと話をしている。のび左エ門に何かを埋めるようのび作が頼んでいるが、誰にも見られたくないようである。

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早く埋めて欲しいとイライラするのび太たち。早く帰って欲しいとソワソワするのび左エ門たち。双方の思惑が会話をぎこちなくさせる。この気まずい感じがおよそ3ページ続く

居心地の悪さに耐え切れなくなったのか、のび太は「僕たちはこれで…」と帰ると言い出す。「そりゃ残念」と喜びを隠せないのび左エ門とのび作。宝は諦めたのかとドラエもんは思うのだが、自分たちがいるうちは宝を埋めにはいかないだろうというのび太の高等な判断に基づく行動であった。


のび太たちが去ると、早速のび左エ門が宝を埋めに出掛けていく。川のほとりで穴を掘り始める。隠れて見ていたドラえもんは現代の地図で宝の位置を確認する。

タイムマシンで現代に戻り、当時から残る川のほとりの道路を掘り返していく。しかし相当深く掘っても何も出てこない。確かに埋めたはずだが・・。これはもっと前に掘り出されてしまったに違いないとドラえもんは考える。

そこでもう一度文政九年元旦へ。埋めた直後にすぐ掘ってしまおうという魂胆である。


着くと、のび左エ門が「宝のありかを書いた地図」を息子ののび作に渡している。「わあい、すぐ掘ろう」とのび作は喜ぶ。すぐ掘るくらいならなぜ埋めたのだろうか・・。後を付いていくと、埋めた宝とはお年玉のことだと判明する。

のび太のパパがお年玉を渡す際に、のび太に宝探しをさせたことと全く同じことをさせていたのである。

「お年玉もこうやって貰えば面白かんべ」

のび左エ門はドヤ顔だが、のび作が掘ったツボには五枚の貨幣が入っているだけ。

「景気の良いこと書いてあった割りには、金額が少ねえな」

と不満げなのび作なのであった。

少ないお年玉を余興で誤魔化そうという野比家の伝統芸のようなものだろうか。そしてこの時の宝の巻物をなぜ現代まで大事に取っておいたのだろうか。そのあたりは謎である。

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「ドラえもん」の考察noteはこちらから。


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