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野比家断絶の危機『ハリーのしっぽ』/野比家のご先祖様④

野比家のご先祖様の登場エピソードを手繰って、野比家のルーツを探っていく特集「野比家のご先祖様」もこれで最終回。

これまでは戦国時代と江戸時代後期の野比家について見てきた。

『ご先祖様がんばれ』では、戦国時代に猟師をしていたのび作を殿様に出世させようとして、結果的にドラえもんたちが猟師で生きていく道筋をつけてしまったお話であった。

『のび左エ門の秘宝』は、お金が余って仕方がないという古文書を見て先祖の元に向かうが、それはお年玉を渡す時の余興だったというオチの作品。のび左エ門は小作農を生業にしている様子であった。子供の名前はのび作で、『ご先祖様がんばれ』と同名なのでややこしい。

『ホラふきご先祖』では、『のび左エ門の秘宝』とほぼ同時期のもう一人のご先祖さま・のびろべえが登場する。ホラのびさんと呼ばれ、その地域で有名なホラ吹きだった。ホラのびの職業は猟師であり、戦国時代ののび作の子孫であると考えられるが、のび太の直系かどうかははっきりしない。(後ほど考察します)


ここまでの過去エピソードを読む限り、野比家は農家と猟師をしていた二系統に分かれていると考えられる。

野比家の男子は「のび○○」という名を持つため、のび太の遠い親戚だというのび太朗もこの系譜に連なる。のび太朗は「ドラミちゃん」シリーズに登場する男の子である。

なので、僕としては二系統あるご先祖様は、のび太とのび太朗のいずれかに繋がっているのではないかと考えている。

なお、野比という苗字は、この家系の男子がずっと「のび○○」と呼ばれていることから、明治以降で正式に野比と名乗ったのではないかと考えている。つまり名前ありきの苗字ということである。


『ハリーのしっぽ』「小学六年生」1984年7月号/大全集12巻

本作は、ぐっと現代に近づいた明治43年(1910年)が舞台となる。のび吉というのび太のパパ・のび助のおじいさんにあたる男の子が登場する。

ここで家系図を少しだけ考えてみると、
・のび吉1910年当時10歳として、1900年生まれ
・のび吉は25歳の時の子供と考えると、のび吉のパパは1875年生まれ
・のび吉のおじいさんは1850年生まれ
・のび吉のひいおじいさんは1825年生まれ
・のび吉のひいひいおじいさんは1800年生まれ

・のびろべえ(ホラのび)は1827年で30歳くらい? ⇒ 1787生まれ?
・のび作は1826年で10歳くらい? ⇒ 1816年生まれ?

あくまで仮説レベルだが、生まれた年を計算して、のび吉のひいひいおじいさんはホラのびさんではないかと推定される。今の野比家は猟師の子孫だったとFノートでは一定の結論としておきたい。


前置きが長くなってしまったが、本作では野比家の滅亡の危機が描かれる作品となっている。

物語の構成としては、基本的にタイムテレビでのび吉の様子を見続け、最後の最後でタイムマシンで手助けにいくという流れである。

本作はハレー彗星にまつわるかつての都市伝説をテーマとしている。1910年にハレー彗星が地球に最接近した際に、ハレーが地球上の空気を奪っていってしまう、もしくは有害なガスを充満させるといった噂が広がった。

立派な天文学者のカミーユ・フラマリオンという人物が提唱した説ということで、世界中でパニックが起こり、ガスマスクや空気を入れた自転車のチューブなどが買い占められたと言われている。

この騒ぎをテーマとして、1947年に岩倉政治が「空気のなくなる日」を発表しているが、本作の元ネタと言っても良いだろう。

ちなみにハレー彗星は約75~76年周期で地球に最接近する。1910年の次は1986年に近づいたが、これを見た記憶がない。そして次に接近してくるのが40年後・2061年と計算されているようである。果たして生きていられるか微妙なところである。。


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物置の片づけをしていると、のび吉が残した巻物が出てくる。この巻物は、のび吉、のび助のお父さん、のび助と代々伝わっているものだという。下手くそな字ではあるが、以下のようなことが書かれている。

「明治43年5月20日野比のび吉これを記す。76年後この年、天から大変な災いが降ってくる。その時、わが子孫は庭の柿の木の根元を掘るべし。生き延びることができる」

文言だけ読むと、なかなか強烈である。本作が描かれたのは1984年なので、2年後に天から災いが降ってくるという予言の書となっている。そして災いを回避するための何かが、庭に埋まっているというのである。

柿の木は少し前に切られてしまって今はない。のび太は気になって2年後を待たずして掘ってしまおうと言い出すが、ドラえもんが先祖代々の言い伝えを守るべきだと言って制止する。

それでも気になるのび太。天から来るという大災厄とは何なのか。そこで「タイムテレビ」を使って、明治43年を見ることにする。

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庭に埋めたのは5月20日なので、その一週間前を見る。野比家の周囲は家もまばらで畑もある田舎の風景である。少年のび吉が映ると、突然水桶の中に顔を突っ込み、1分以上水中に顔を埋めて苦しそうにしている。

「なんてことするの!!」とお姉さんらしき女性がのび吉を突き飛ばすと、のび吉はチューブが買えなかったので息を止める稽古をしていたのだという。

学校の先生に何かを言われたらしいということで、タイムテレビで少し前に遡ってみる。学校の教師で先生が「間もなくやってくるハリーのしっぽに毒が含まれている、しっぽが地球をかすめる時に空気がごそっとなくなる」と騒ぎ立てている。

ハリーが来た時に5分間息を止めていれば助かるかも知れないので、各自息を止める練習をしろというのである。

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作中ではまだ明らかにしていないが、ハリーとはハレー彗星のこと。当時はまだまだ天文学が未発達で、このような迷信が信じられてしまう時代であったのだ。

のび吉は息を止めることに自信がないが、通りがかった自転車を見てタイヤのチューブを持っていればハリーが来た時に空気を吸えると思いつく。ところがこの思いつきを聞いていたスネ夫とジャイアンのご先祖が、町中のチューブを買い占めてしまう。

のび吉はチューブを買うことができず、落ち込んでしまう。

その様子をタイムテレビで見ていたのび太たちは、先ほどの物置の片づけで出てきた浮き輪をプレゼントしたらいいのでは、と思いつく。そしてタイムマシンでこの時代へと飛び、そっと浮き輪をのび吉の元に転がすと、空気の詰まった様子を見て大喜びするのだった。

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のび太は、ハリーとは何者かと思うのだが、空を見上げると大きな彗星が流れているのが見える。ハリーとは、ハレー彗星だったのだと、ここで明かされる。

現代に戻るのび太たち。庭を掘ってみると、そこから出てきたのは、やっぱり浮き輪。そして手紙が添えられている。

「幸い、今度は何事もなくハリーは去った。だが76年後また来るという。その時に備え、子孫のためこれを残すものなり」

子孫のことを考えてくれる、ありがたいご先祖様なのであった。


野比家の歴史を全4回で見てきた。これまでののび太のパパやママのエピソードも取り上げてきた。代々間の抜けた人々ではあるが、心優しい性格も野比家の伝統ではないかと思う次第である。


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