のび太の悲惨な将来『机からとび出したドラえもん』/ドラえもん初回特集④
「ドラえもん」は1970年1月に全6誌で連載がスタートした。いま僕らが読めるてんとう虫コミックスでは、「小学四年生」での掲載作をベースに、加筆修正したものとなる。
その他の5作品は長らく幻の作品と言われてきたが、それらを収録した単行本0巻が発刊されて、ようやく誰でも手軽に読めるようになった。非常に素晴らしい企画であると思う。
ここまで、「よいこ」「幼稚園」「小学一年生」「小学二年生」の4作を検証してきたが、本稿では「小学三年生」の第一回目を取り上げる。
順を追ってみていくと、見事に読者の年齢層に合わせた内容に描き分けられていることがわかる。その中でも一番興味深かったのは、ドラえもんがのび太の家にやってきた理由が、徐々に明確化されていく点である。
幼児向け作品では、「のび太の面倒を見る」という理由だけが説明されているが、これが「小二」となると、のび太が大きくなってもだらしないので、未来からやってきたという説明がされる。
本稿で見ていく「小三」作品は、「小二」から発展し、未来ののび太がどのような人生を送ることになるのかをじっくりと描いている。その点に、ご注目してただきたい。
本作では扉絵裏で登場人物の紹介ページが挿入されている。それによると、
ドラえもんは「みらいの国からきたできそこないのロボット」と書かれおり、不完全なキャラクターであることを明示している。
のび太は「主人公。何をやってもダメな子」とされており、本作の主人公はドラえもんではなく、のび太であることがしっかり表記されている。
さらにおとうさんとおかあさんは、「あまくてぜったにのび太を怒らない」と注釈されている。初期設定では、両親が甘いので、のび太がダメな人間になってしまうという理由付けがあるのだ。
冒頭、お正月ということで、のび太はパパとママの両方からお年玉をもらう。しかもけっこうな金額らしく、「こんなにもらっていいのかな」と喜んでいる。そして続けて、
と呟く。甘ったれののび太という設定が、しっかりと描かれている。
お年玉袋を引き出しの中に放り込むと、「こんなにもらっていいなあ」という声が聞こえてくる。そして引き出しからセワシ君が飛び出して、「それにくらべて僕なんて50円だよ!年に一度のお年玉がたったの50円!」と怒り出す。
セワシはのび太に「お願いだからしっかりしてよ、おじいさん」と語りかけるが、のび太の頭には「?」が浮かぶ。セワシが再び引き出しの中に消えると、今の出来事が思い違いだと信じようとする。
するとそこへ、今度はドラえもんが「オッス」と言いながら引き出しから登場。この後セワシも合流してきて、のび太は大混乱。そして二人はのび太に自分たちが何者か、何しに来たのかを説明する。
ここだけ聞いてもチンプンカンプンののび太。セワシはのび太に対して「物分かりが悪い、だからお年玉が50円なんだ」と愚痴る。のび太は「お年玉と自分は無関係だ」と怒ると、そうではないとセワシ。
そのままのび太の悪口をのたまう。
のび太は悪口を畳みかけられて、怒り心頭、バットを振り回してセワシとドラえもんを追い払ってしまう。
何をやらせてもだめ・・。それはのび太も反論できない事実だが、本当のことを面と向かって言われると、怒りが湧くものなのだ。
このあと、損ねた気分を晴らすために、大好きなしずちゃんの家に向かうのび太。再びセワシたちが後から付いてきて、「タイムテレビ」で9年後ののび太を投影する。
9年後ののび太は学生服を着ていて、今ののび太よりも鼻がツンと高いのが特徴的。大学を落ちてすぐの頃(18歳?)で、気分を晴らすために静香ちゃんの家へ向かっているようだ。
小三ののび太と全く同じような行動を取っているわけだが、さらに同じタイミングで、二人ともドブにの中に派手に落っこちてしまう。
未来のパッとしない自分を映像で見せられて、さらに怒り倍増ののび太。またまたドラえもんたちを蹴散らして、怒ったまましずちゃんの家へ。思わず「ほんとにイヤな奴!」としずちゃんの前で大声を出してしまう。
しずちゃんの家では、簡単な新年会が開かれており、スネ夫やジャイアン、ジャイ子と、もう一人女の子が遊びに来ていて、トランプに興じている。意地悪キャラ全開のスネ夫に、「野比がいればビリにならないで済む」と軽口を叩かれ、その通りにのび太はビリになってしまう。
そんな時でもしずちゃんは、「いいじゃない、今度頑張れば」と優しく声を掛けてくれる。本作のしずちゃんは、100点満点のおしとやかな美少女キャラ。この後、連載が進むと若干性格もビジュアルも崩れていくのだが、それはまた別の話・・。
すると「ごめんくださいまし」と玄関に誰かが訪ねてきた様子。のび太が見に行くと、三たびセワシたちが現れて、タイムテレビでさらに未来ののび太を映し出している。
まずは15年後ののび太(24歳?)。会社で大失敗してクビになり、ゴム紐や歯ブラシなどの訪問販売人になっている。若干の職業差別が含まれているので、今ではもうアニメ化などはできない描写となっている。
次に20年後(29歳?)になると、一転宝くじを当てて小さな会社を興して社長となる。外見も急にパリッとしたスーツ姿である。
しかし、その一年後、会社は潰れて乞食となるのび太・・。ジェットコースターのような人生であるが、この時作ってしまった借金が莫大で、100年経っても返済できず、それによってセワシのお年玉は50円ということになっているのであった。
のび太は正月早々に絶望的な未来図を見せつけられて、「生きているのが嫌になった」とさめざめと泣きだす。セワシたちは、のび太を泣かせておきながら、「そうがっかりするな」と励ます。
今見せた将来像は、放っておけばこうなることで、未来は変えることもできるのだと言う。ここで、セワシの目的がようやく明らかとなる。それは、
のび太にとって、願ったり叶ったりの話だが、セワシがドラえもんに「ロボットとして出来の良い方じゃない」と指摘して、小競り合いとなっているのが気にかかるところ・・・。
ともかくも、これで話はついた。さっそくドラえもんは、トランプで勝たせてやると言って、めがねを渡す。ドラえもんも、しっぽのスイッチを引っ張って姿を透明にして、一緒に部屋に入っていく。
のび太が借りためがねは、相手のトランプが透けて見える効果があり、これによってのび太は大勝ち。賞品のみかんを独り占めして、スネ夫たちに驚かれる。
ちなみにジャイアンとジャイ子は、本作では大人しいキャラクターとなっており、みかんを取られて暴れたりはしない。あくまで初期ドラのメインとなる敵はスネ夫なのである。
帰り道。さっそくのび太にいい思いをさせたドラえもんは得意満面。「僕がついている限り君は安心して・・」と誇らしげだが、しゃべっている途中でドラえもんはドブの中へ落ちてしまう。
のび太がしずちゃんの家に行く途中にドブに落ちていたが、ドラえもんも同じようなドジキャラであることが、オチとして描かれる。
何をやってもダメなのび太。そんなのび太を助けるドラえもんも、不完全なドジキャラ扱い。その関係性は、ダメな正ちゃんとドジなQちゃんによく似ている。
ドラえもんは、別の第一話ではタケコプターなしで空を飛んでいたし、体を見えなくすることもできる。特徴もオバQを引き継いでいる。
このことから、藤子不二雄最大のヒット作であった「オバケのQ太郎」のフォーマットを、少なくとも初期ドラでは踏襲しようとしていたのではないかと、考えられるのである。
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