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人生にはやり直しがきかないのだ『フリダシニモドル』/お正月スペシャル2024

一年の計は元旦にあり。毛利元就の言葉である。

人生は一度きりの不可逆性なのだから、今自分が取り組むべきことには躊躇なく取り組み、今後の生きる糧としていかねばならない。そんな決意を新たにするのは、年が変わる新年は良い好機であると思う。


ところで話変わって、お正月にみんなで集まってする遊びに「すごろく」がある。江戸時代から遊ばれているボードゲームで、スタートからゴールを目指すシンプルルールが魅力。

一直線にゴールへと進む様子が人生にもよく似ていて、それですごろくから派生して人生ゲームが考案されたのだろう。

ところが、すごろくでは、プレイヤーは実際の人生とは異なる動きをすることがある。それは、特定のコマに止まった時に、数歩引き返したり、場合によっては振りだしに戻ることがあるという点だ。

人生の不可逆性とは、まるで異なるルールが採用されているのである。


本稿では2024年のお正月企画の第二弾ということで、「ドラえもん」からすごろくに関するお話を取り上げる。人生やり直しがきくとしたら・・・なんて、空想を膨らませることのできる作品である。

なお、本作は単行本未収録作品だが、お正月に読むのにピッタリの良作である。是非多くの方に知ってもらいたい一本である。


『フリダシニモドル』
「小学三年生」1973年1月号/大全集3巻

本作で登場するひみつ道具は、「フリダシニモドル」という見た目が完全にサイコロな機械である。このサイコロを転がして、出た目の数の分数が逆戻りする仕掛けとなっている。

例えば、出た目が「1」なら1分、「5」なら5分遡ることになる。普通のサイコロの目が揃っているので、最大6分だけ戻ることができる。とても些細な人生やり直し機である。

ちなみに時間は「逆戻り」するので、進んでいた動きとは逆回転で巻き戻る感じとなる。「おはよう」と声をかけていた場合、「うよはお」と口にしながら数分前に戻っていくことになる。

映画「テネット」の逆回転の動きをイメージしてもらえばよいだろう。


ドラえもんがうっかり「フリダシニモドル」をのび太の目の前で落としてしまい、時間の逆戻りを体験したのび太が、面白いそうだからと借りることに。

ドラえもんは「使わない方が良いのに」と渋い表情だが、のび太は「これがあればどんな失敗をしてもやり直せる」と喜ぶ。

のび太は基本的にドジでノロマなので、日々ロクな目に遭っておらず、数分規模で人生がやり直せるのは、願ったり叶ったりなのだ。


早速、廊下に転がっているボールに転んだのび太は、サイコロを振って二分戻す。そしてやり直しの局面では、ボールを避けて通ることができる。時間が逆回転しているので、記憶はそのまま残っているようである。

ただ、ここで疑問に思うのは、ボールで転んだ時の痛みは消えていないのではないかという点である。消えないのであれば、わざわざ時間を戻して転ばないようにしても意味が無い。

それとも転んだ記憶だけ残り、体感的な痛みは逆戻って抜けてしまうことになるのだろうか。

この時間逆戻りのルールが曖昧で、もしかしたらその点において本作を単行本に藤子先生が収録しなかった理由なのかもしれない。(考え過ぎか?)


のび太はこの後、朝食のお雑煮をテーブルにこぼしてサイコロを振り、外でしずちゃんたちと羽根つきをして、ミスをするたびにサイコロを振る。何度も「フリダシニモドル」ことになるのだが、その裏側で迷惑を被っているいる人たちが出てくる。

本作ではのび太の動きと並行して、のび太のパパの行動も描かれる。朝のんびりと起きだしたところでは、のび太が廊下で転んでやり直しをしたことで、また布団に潜ってしまう。

すっきりと目を覚まして食卓に向かうパパだが、ここで再びのび太がテーブルに雑煮をひっくり返して時間が戻され、三度布団の中へと逆戻り。なかなか起き出すことができないのである。

その後パパは食卓に辿り着き、お雑煮を食べ、お代わりをする。ところがここでのび太が羽根つきで、何度もやり直しをしたものだから、パパは延々と雑煮を口に入れたり出したりを繰り返す羽目になるのであった。


さて、羽根つきで失敗をするたびにサイコロを振っていたのび太だったが、この繰り返しを止めにして、墨を塗られるのを受け入れる。そして「フリダシニモドル」をドラえもんに返すと言う。

そこでのび太が初めてお正月らしい立派な発言を口にする。

「いつでもやり直せると思うと、かえって失敗ばかりする。そんなものに頼るのは止めるんだ!」

ドラえもんが「フリダシニモドル」をのび太に貸す時に、何か後悔するような発言をしていたが、それは失敗を簡単にやり直しがきくと思って欲しくなったからに他ならない。

ところがのび太はどういう風の吹き回しか、自らやり直しができると思っていては成長できないと、自己批判を遂げたのであった。

ドラえもんは「えらいっ」とのび太を激励し、のび太も誇らしげな表情である。これは新年早々、何か良い始まりではないだろうか・・・。


ただ、もちろんこの後オチはつく。スネ夫とジャイアンと一緒にすごろくをすることになるのだが、のび太はサイコロ運が悪く、幾度も「振りだしに戻る」を繰り返す。早く上がれとジャイアンたちはウンザリ。

ことのび太に関しては、そう安々と人生は前に進んでいくわけではないようである。




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