親の思いと子の気持ち『のび太の息子が家出した』/Fキャラは家出する⑦
藤子キャラクターたちは、家出する。
シリーズ第7弾は再び「ドラえもん」から。
今度はのび太ではなく、
のび太の息子ノビスケが未来から家出してくる!
しつこいと思われようと、PV数が停滞しようと、始めたからにはFキャラの家出の物語を片っ端から紹介しなくては気が済まない。ということで、今回で「Fキャラは家出する」シリーズは7本目。再びドラえもんのエピソードとなる。
今回ものび太がこっぴどく叱られて家出を決意するシーンから始まる。ところが、そこへ未来からのび太の息子・ノビスケがタイムマシンを使って家出をしてくる・・。親知らず子知らずをテーマとしたお話が幕を開ける!
「ドラえもん」『のび太の息子が家出した』
「小学六年生」1984年3月号/大全集11巻
いつもはママが叱ってくるが、本作では父親と息子というテーマがあるので、パパがのび太に叱り倒す。
「一体自分の将来をどう考えているのか! そんなことで社会人としてやっていけると思うのか。お前の行く手には、暗くて惨めなどん底の未来が・・・」
これにはのび太もかなり堪えたようで・・
「いくら親でもあんな酷いことを・・・。僕の両親は僕が嫌いなんだ。僕を憎んでるんだ。だからあんな残酷な・・・。人の心をズタズタにするようなことが言えるんだ」
ということで、「グレてやる」とのび太は家出を決意。
するとそこに、タイムマシンでのび太そっくりの男の子がやってくる。「やあ、パパ」と声を掛けてくるその子は、のび太の息子ノビスケであった。
ノビスケは、両親と喧嘩して家出をしてきたのだという。のび太は時代は変わっても親というものは変わらないと感想を持つが、ノビスケの親はかく言うのび太…。
のび太はノビスケに「優しく理解のある親になって、小遣いもたっぷり渡す」と決意を述べるが、「よく言うよ」と大笑いされてしまう。理想と現実は違ってしまうものなのだ。
帰れと言ってもノビスケは「ヤダ」と聞かず、「親の言うことが聞けないか」と襟元を掴むと、「お、暴力!?」と言って逆に押さえつけられてしまう。ノビスケはしずちゃんの血を引いたおかげか、腕白で運動神経が良いのである。(これは『のび太のおよめさん』などでも描かれている)
ノビスケは大人になったのび太からふだん聞かされていることを確認してくる。①少年時代にはわき目も振らずに勉強した ②いつもトップクラスの成績だった。・・・見事なまでの嘘である。
いたたまれなくなったのび太は外へと出るが、ノビスケも「古代社会を見学したい」と言ってついてくる。すると道でしずちゃんにばったり出くわす。ノビスケは初めて見る少女時代の母親に興味津々。
「可愛いなあ。パパがこの人を選んだ気持ちはわかるよ」
とおもむろにしずちゃんを持ち上げて喜ばせる。が、すぐに
「しかし…この美少女もやがてが口うるさい鬼ババに…」
と貶めて、怒らせてしまう。
続けてジャイアンとスネ夫が通りがかる。これから野球のようだが「メンバーが足りないから入れてやる。ヘマしたらただじゃおかねえ」といつものようにのび太を脅かしてくる。これにノビスケが大反発。
「パパにそんな口きくなんて、許さない」
と、割って入り、ダダっとジャイアンを一気に押し込んでいく。思ってもみない反抗に、ジャイアンは「いい度胸だ、気に入ったぜ」となぜか打ち解けて、ノビスケを野球に誘う。
ノビスケが野球に行ってしまったあと、のび太は家に帰り、家出の件を親に知らせるべきだということで、大人になったのび太に会いに行くことに。
未来ではのび太とのび太が膝を詰めての話し合いとなる。のび太は「ノビスケに厳しすぎるんじゃないの」と質問すると、大人ののび太は「本当は小言は言いたくない」と言いつつも、
「僕自身怠け者でその分苦労したからね。同じ失敗を繰り返さないと…。だからたまにガーンとやっちゃうんだよ」
息子に自分のような苦労をかけたくない。だから叱ってしまうというわけである。これは親となった僕自身も、よ~くわかるセリフである。
そして続けて、
「昔、僕もオヤジにこっぴどく叱られて恨んだこともあったが…。今になってオヤジの気持ちがわかるような気もするんだ」
と親の本音を語り出す。
子供の頃見えていなかった親の心を、親になって知る。のび太は冒頭で父親から残酷なことを言われたとショックを受けるが、父親の苦労した人生を思うと違う感想も浮かんでくる。
嫌いだからではなく、心配だから。そして子供に聞いて欲しくて厳しく接してしまう…。そういう親の心の内を知ったのび太たちは、
「親をやってくのも大変なんだね」
と感想をつぶやきつつ現代へと戻るのだった。
部屋ではノビスケが「野球で大活躍した」と言って出迎えてくる。「こっちの世界は楽しいので、当分いよう」と家出長期戦の構えである。するとドラえもんはタイムマシンで一人どこかへ行ってしまう。
するとすぐに別の男の子を連れて戻ってくる。金髪でハーフのような風貌のこの子は、なんとノビスケの子供。金髪の子供はノビスケに対して「パパったら頭が古くて、怒りんぼで・・」とどこかで聞いた文句を言い出す。
結局ノビスケも、のび太やのび助のような、子供に口うるさい親になっていることがここで示される。蛙の子は蛙。いや、子を思う親とはこういうものなのだ。
思えば「ドラえもん」は長い連載の中で、親と子供のストーリーを紡いできた。のび太とパパ、パパと祖父、のび太と息子、そして本作では息子の息子が登場する。親子5代の物語なのである。
のび太は何度も家出を試みるが、それらはほとんど両親への反発からであった。なぜ親なのに自分のことを酷く言うのか、そういう思いが過るたびにのび太は家出を決意する。
僕が確認できているだけでのび太は家出を11回も決意しているが、そのような行動を取らせるほどにのび太は親から強い影響を受けているのだ。
これまで多くの家出作品を見てきた。家出をテーマとした作品が数多く描かれていることは、藤子先生が親子関係・家族を題材にしていることが多い証左となろう。
さて家出特集も次回で一応の最終回。やっと終わるぜ!
ドラえもんの考察、たくさんやっています。
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