見出し画像

これぞ人喰いホラー・コメディ『人喰いハウス』/ちょっぴりホラーな物語④

ホラー映画はそれほど得意ではない。いや、正確に言えば、得意ではなくなってしまったのだ。年齢が上がるのと反比例して、ホラーの意欲度が低下したのである。

ただ、自分の好き嫌いとは別として、ホラー映画が世界に羽ばたく力を秘めている点は認めなくてはならない。Jホラーの代名詞となった「リング」シリーズや、清水崇監督の名を世界に知らしめた「呪怨」シリーズなどは、あっさりと国境を越えていった。

世界中の映画市場を見てみると、常にホラー映画がラインナップされていることに気がつく。いつの時代もどこの国も、ホラー映画は若者の心を掴むのだろうし、一定数の熱狂的なホラー映画ファンが存在しているのだ。


僕がまだ若かりし頃、レンタルビデオが全盛期だったのだが、家で観るのにちょうど良いということで、著名なホラー映画を片っ端から手に取っていたものである。

特に、ジェイソン、チャッキー、フレディ、ゾンビ、ブギーマンといった、今でも人気のホラーキャタクターものを良く見ていた気がする。

ホラー映画は、単純に怖いだけでなく、やりすぎ感には笑ってしまう時もあるし、どことなくメッセージ性が読み取れたりもする。とても見応えがあったのだ。

そんなわけで、毎週のように今は無き新宿TSUTAYAに通っていたのだが、そこでホラー映画の中には、さらに細かくジャンル分けがされていることを知った。

「ゾンビ」、「オカルト」、「スプラッター」・・・。いまだによく分からない区分もあったりするが、ホラーと一口に言っても様々なバリエーションが存在しているのである。

そんな中で、僕は「家」と書かれたコーナーに目が留まった。なんだ、家って? 家が人を食べたりするのだろうか。それともポルターガイストのように家の中の家具が襲ってくるのだろうか。

ともかくも、そんなジャンル分けがあるのかと、ホラー映画の懐の深さに驚いたのである。


「ちょっぴりホラーな物語」と題して、様々なバリエーションの藤子ホラーを紹介しているが、本稿では、そんなキワものジャンルである「家」ホラーが存在しているので、これを取り上げたい。


「ドラえもん」『人喰いハウス』(初出:ドロボウホイホイ)
「小学三年生」1977年8月号/大全集8巻

本作のタイトルは、ド直球の『人喰いハウス』! まさしく家ものジャンルの王道を行くものとなっている。

ただ、雑誌掲載時のタイトルがどうだったかと言えば、『ドロボウホイホイ』というまるで違うイメージのものが付けられている。しかも読むと分かるが、完全にネタバレタイトルで、単行本収録時に変更したのも納得がいく。


後ほど詳しく書くが、本作の中でしずちゃんが「家」ホラーを見に行ったと語っている。本作の雑誌掲載が1977年の8月号(7月発売)ということなので、その時期にどんな家ホラーを見に行ったのか調べてみると、二本の候補作が見つかった。

一本目がハリウッド映画の「家」という作品で、1977年の4月に「ロッキー」と二本立てで公開されている。残念ながら未見だが、貸別荘で起こる不可思議な現象をテーマとしているそうな。

サターン賞のホラー映画賞受賞作ということなので、結構面白い作品なのだろう。

それともう一本の候補作が、1977年7月に公開となった大林宣彦監督商業デビュー作の「HOUSE ハウス」である。こちらは逆に何度も見ているカルト作で、人里離れた豪邸での少女たちの恐怖を描く作品だ。

こちらの作品については語り出すとそれだけで記事一本が書けてしまうほどの魅力に溢れているが、しずちゃんはおそらくこのどちらかと見たに違いない。この点については、また後ほど詳細する。


それでは本編をざっと見ていく。

初っ端からママに「いけません!」と全否定されるのび太。のび太は自分の部屋のドアに鍵を付けてほしいと要望したらしいが、「一日中昼寝する気でしょう」と看破されて叱られたのである。

そして否定すればいいのに、のび太も「どうしてわかったの?」と認めてしまう。のび太は誰にも邪魔されずいねむりできる勉強部屋が欲しいと、矛盾したことを願っていたのである。

のび太はその願いをドラえもんに伝えようと部屋に戻るが、入ると同時に何か大きいものにつまずいて転んでしまう。なんだこれはと良く見ると、何とそれは組み立て式の家であった。

一人の部屋が欲しいと願ったところにタイミング良く一軒家が置いてあったので、のび太はこう思う。

「ドラえもんは口に出さなくても君には僕の心がわかるんだねえ・・・」

完全なる我田引水だとは思うが、のび太は勝手にドラえもんに感謝申し上げて、組み立て式の家を広げるために空き地へと向かう。


空き地へと向かう途中でジャイアンとスネ夫とすれ違い、「面白そうなもの持っているな」と声を掛けられる。のび太はせっかくの家を横取りされたら大変と、「こんなのちっとも面白くないよ」とアタフタ誤魔化して、その場をやり過ごす。

何とか空き地に到着し、家を組み立てる。少し広げようと思っただけで、ムクムクとプレハブのような一軒家が建つ仕掛けであった。

のび太は外観を見て、「この分だと中もきっと素晴らしい」と予測。クーラーもあるだろうし、百畳敷きくらいでプールなんかもあるかも・・とやや過剰な期待をする。

するとのび太はフラフラ~と家の入口へと引き寄せられる。ドアに手をついて、「思わず誘い込まれそうになるほど素晴らしい家だ」と喜び、しずちゃんも呼んでこようと、空き地から出ていってしまう。


草かげからのび太の様子を見ていたのはジャイアンとスネ夫。「俺たちに内緒で家を建てやがって」とジャイアンはプリプリする。スネ夫は家を一目見て、「不思議だな。入ってみたくてしようがない」と何か魅力を感じたようである。

ジャイアンは「入ってやろうじゃないか」と、一人家の中へと入っていく。スネ夫は人の家に勝手に入るのは気が引けるということで、外で待つことにする。

ジャイアンが家の中に消えてしばらく経つが、呼びかけても返答もなく、そのまま出てこようとしない。スネ夫は気になって、「どうしたんだよ」と自分の家の中へと入っていく。

ところが、そのままスネ夫も家の中から出てこない。シインと不気味に静まり返る空き地の一軒家なのであった・・・。


のび太の部屋。ドラえもんが折り畳みの家が無くなっていることに気が付き、「大変だ!」ととてつもなく慌てた表情をする。「そんなもの使っちゃダメだぞ」と家を飛び出して行く。

慌てふためくほどに大変なものを置きっぱなしにするなよという話だが、ドラえもんは危ない道具ほど部屋などに放置する悪い癖があるのだ。(例:人間製造機、悪魔のトランプ等)


しずちゃんの家。のび太が「すてきな家だよ」としずちゃんを誘っている。そこでしずちゃんは、そういえばと言って、不思議な家の映画を観てきたと語り出す。

その家はオバケみたいな家で、入った人を食べてしまうのだと言う。のび太はそのプロットだけで震えだし、もっと詳しく教えてとしずちゃんに頼む。

先ほどしずちゃんが見た可能性のある家ホラーということで、「家」と「HOUSE ハウス」のいずれかではないかと予想した。この二作とも家自体が人を食べる話ではないのだが、家の中で食われると考えれば、いずれの可能性もありそうだ。

もっとも、「HOUSE ハウス」の方は本作の発表した7月に公開したばかりなので、普通に考えれば、本作のモデルはどちらかと言えば「家」の方だろう。

ただ、「HOUSE ハウス」は公開前のキャンペーンが長丁場だったということなので、藤子先生は、二作とも存在だけは知っていて、似たような作品が連続して公開されることを踏まえて本作のアイディアを練った可能性もある。


空き地。ポツンと一軒家が建ち、それを「林永ミルク」と書かれたトラックに乗った牛乳屋が見つける。新築物件だと勘違いし、配達牛乳の営業をしようと玄関で声をかけるのだが、返事はない。

留守かと思って立ち去ろうとすると、なぜかフラフラ~とひとりでに開いたドアの中へと吸い込まれていく。しずちゃんが観たという人喰いハウスの映画を彷彿とさせる。

その後、新聞の勧誘に来た男を吸い込み、空き地で野球をしていた少年たちもドカドカと取り込んでいく。大勢の人たちが家に入っていったにも関わらず、そのまま出てこない。あたりは完全に静まり返っている。やはりこの家、何かがおかしい。


しずちゃんの家。ストーリーを聞き終えたのび太は、「まさかあの家が」と震えて、一目散に空き地へと飛び出して行く。途中でドラえもんと合流し、「あの家は一体何だい」と尋ねる。

ドラえもんは「やはり君が持っていったのか!」と深刻そうな表情を浮かべる。ドラえもんが置きっ放しにしていた家は、本当に人喰いハウスだったのだろうか?


空き地。ドラえもんが家を広げると、中ではネバネバとしたものに、ジャイアンやスネ夫、牛乳屋と新聞屋、そして野球少年たちが捕まっている。強い吸着力のネバネバによって全く身動きが取れなくなっているのだ。

何とこの家だと思っていたものは、「ゴキブリホイホイ」ならぬ、「ドロボウホイホイ」だったのである。


お話はこれでおしまいだが、少々思うところもあるので書き添えてみる。

自ら乗り込んだジャイアンとスネ夫はともかく、牛乳屋さん以降の人たちは、自らの意思と関係なく、フラフラと「ドロボウホイホイ」に吸引されて捕まってしまっている。つまり、ドロボウしようとは全く思っていなかったのに、道具の力で吸い寄せられてしまったのだ。

ゴキブリホイホイは内側にゴキブリを呼び寄せる誘引剤が塗られている。ゴキブリを根こそぎ駆除したいので、このやり方は正しい。しかし、ドロボウホイホイという道具なのだとしたら、ドロボウする気もない人を捕まえるのはいかがなものだろうか

普通の人たちも誘引する仕掛けについては、是非とも改良願いたいと思う。

また、実際にこの道具を使おうと思った時に、どこに家を設置すれば良いのだろうか。

ゴキブリホイホイだったら、冷蔵庫の下などにスッと置いておけるが、巨大なドロボウホイホイは家の中に置くものでもないし、庭に建てておいてもあまり意味がない。

つまり「ドロボウホイホイ」は、使い勝手も、使い方にも難がある道具だという結論が導き出されるのである。




この記事が参加している募集

#コンテンツ会議

30,733件

#マンガ感想文

19,954件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?