見出し画像

WEB広告時代を見事に先取り!「ドラえもん」『かがみでコマーシャル』/CM効果あり?①

電通が今年の2月に発表した、我が国の昨年(2022年)の広告費についてのレポートによれば、総広告費が過去最高を15年ぶりに更新して約7.1兆円となったという。

このうち、インターネット(WEB)広告は約3.1兆円で、これはわずか3年で1兆円の増加であるという。予想はしていたが、WEB広告の存在感は急速に増している。

一方、インターネットに押されているように思えるテレビ・ラジオ・新聞・雑誌といった「オールドメディア」(マスコミ四媒体)は、前年比100%割れの減少傾向となっている。これも私たちの皮膚感覚に近いように思う。

ちなみにこれまで過去最大の総広告費だった2007年は、インターネットへの出稿額は昨年の20%以下だった。そう考えると、この15年でコロナ禍を経て、WEB宣伝が広告界の主役に躍り出たことは間違いない。

ただ、広告媒体の変遷はあれど、広告の重要性は全く損なわれていない。オールドメディア、インターネットへの出稿に、屋外広告(OHH)を組み合わせてみるなど、人々の耳目を集める仕掛けは、今後も有効と考えて良いだろう。


さて、藤子F作品の中には、コマーシャル(CM)をテーマとした作品を多数見かけるので、何本かまとめて取り上げてみる。CMをテーマにと言っても切り口は様々だが、登場人物たちの人の目を引きたい、世の中に商品を広めたいという目的は同じのようだ。

果たして藤子キャラたちは、どんな形でコマーシャルと関わっていくのだろうか。まずは「ドラえもん」の、あの名作から見ていく。現在主流のインターネット広告での課題を先取る、非常に先見性のある作品ではないかと思う。


「ドラえもん」『かがみでコマーシャル』(初出:遠写かがみ)
「小学六年生」1977年2月号/大全集4巻

冒頭、突然居間の鏡台に幽霊が映し出されて、のび太とのび太のママがビックリ仰天。のび太の部屋へと逃げていくと、ドラえもんが鏡に写っていた幽霊が描かれている雑誌を手にしている。幽霊騒ぎはドラえもんの仕業であったとわかり、激怒するのび太とママ。

ドラえもんは「遠射かがみ」という道具を使った実験だったと弁解する。「遠射かがみ」は、これに写った画面を他の鏡にも写し出すことができる鏡。付帯の機能は以下である。

・写し出す範囲は家の中から町中まで調節可
・自動(オート)機能では誰かが鏡を覗いた時だけ写る
・同じ画面を繰り返し移すこともできる
・窓ガラスやピカピカの床や水たまりなど反射するものなら写る


ドラえもんは、「遠射かがみ」の使い道はさっきのように人を脅かすくらいだから持っていても仕方がないと鏡を壊そうとする。ところが、のび太が「面白そうだよ、何かを考えるから」と言って制止する。

のび太は、ドラえもんの役に立たなそうな道具から、便利な使い方を編み出す名人なのだ。そして案の定、居間でみんなでテレビを見ている時に、のび太は閃く。

「コマーシャルだよ。商店の広告を引き受けて・・」

「遠射かがみ」を使って、町中の鏡にコマーシャルを流そうというアイディアである。鏡はたいていの家にあるものなので、これを広告媒体としようというのだ。

ただ、抜群のアイディアのように思えるが、実際には鏡の用途は何か映像コンテンツを見るわけではないので、果たして広告媒体として馴染むのか・・・? と疑問も浮かぶ。(←大人の意見)


15秒スポットを100円で売れば一時間で2万4000円の儲けが出ると皮算用し、さっそく翌日からスポンサー集めに動き出すのび太。

ところが、のび太が商店街をしらみつぶしに営業をかけていくのだが、新しい広告手段ということで、しばらく様子を見たいというところや、既に儲かっているからCMは必要ないなど、冷たい反応が多数寄せられる。

スポンサーを一件も取れずへこたれてしまうのび太。そう、広告営業、特に新媒体の営業は一筋縄ではいかないのである。営業経験の長い僕には、のび太が心の折れ具合がよ~くわかる


ドラえもんは、頭の古い人たちの思考を変えるため、自分たちの広告手法そのものを宣伝しなくては駄目だと気がつく。そこで、無料サービスで一軒の店のコマーシャルを流して、実績を作ろうと考える。

いつの時代も、新サービス普及のキーワードは「FREE」なのである。


宣伝効果を考えて、なるべく流行っていない店を探すと、かなり老朽化した店舗構えの「あばら屋」という和菓子屋さんが目に留まる。表通りに面してもいないので、あたりは閑散としており、お店はいまにも潰れそうな様子。のび太は一目、「客なんか寄り付きそうもない店」などと暴言を吐いている。

そんなあばら屋の主人は「誰もわかってくれないんだもの」と愚痴をこぼす。建物は古いが衛生面には人一倍気を遣っており、実際に店内にはホコリひとつ落ちていない。菓子の味も自信があるということで試食してみると、抜群に美味しい。

あばら屋は、立地と古い店舗の見た目が原因で、思うように集客できていないのだ。そして集客できないので、お店の改装や引っ越しもできないという悪循環に陥っているのである。


これは典型的な、広告の出番が必要な案件である。広告とは元来「売りたい」という人たちの問題解決のためにこそ存在意義があるのだ。さっそく、のび太たちは、押すな押すなと客が詰めかけるようにしますと言って、あばら屋の宣伝に乗り出す。

「遠射かがみ」のダイヤルを町中に設定し、いきなり配信開始。藪から棒にあばら屋の宣伝に着手する。やり方は店名を連呼したり、「うまい・大きい・安い」などとキャッチを煽る手法を取る。

ところが、町の人たちにとって、鏡は自分の顔を見るものであり、そこで急に別の映像が流れてくるのは迷惑でしかない。一方的に宣伝を押し付けられた結果、あばら屋の菓子など買うものかと炎上してしまうのであった。

広告は顧客とのコミュニケーションであり、単純に人々の目を奪えばいいという訳ではない。とても繊細で丁寧な宣伝活動を行わないと、いとも簡単に炎上したり、不買運動が起こってしまったりするのである。


頼みもしないのに、勝手に宣伝をして、それが見事逆効果となってしまったあばら屋の主人は、「どうしてくれる」と激怒。そこで責任を痛感したのび太とドラえもんは「ごめんなさい、わ~」と泣き出してしまう。

ところが人の良い店主は、冷静になって「いいんだ」と二人を慰める。曰く、「もうどうしようもないから、店を閉めようと思っていた」のだという。そして、「良かったら店の菓子を好きなだけ食べていってくれ」と、とっても優しく勧めてくる。

悪いやと一度は遠慮するのび太たちだったが、目の前にどっさりと菓子を並べられて、「そうですか・・・」と思わず手を伸ばしてしまう。


二人はどら焼き、きんつば、だんごを、うまいうまいと大絶賛しながら口に運んでいく。そして、なんとこの食レポの様子は、そのまま置きっぱなしになっていた「遠射かがみ」によって、再び町中に配信されていく。

すると、素でお菓子を美味そうに食べる二人の様子を見た町の人たちは、「本当にうまそうだ」と反応を見せ、子供たちはママに買ってとねだり始める。

・・・そして、あばら屋にはお客が押すな押すなと詰めかけてくる。宣伝を意識しない映像を流した結果、当初の目的通りに、お客さんの心を掴んだのである。


本作は子供の頃に読んだ時、いい話だなあと単純に思ったわけなのだが、こうして社会人になってから熟読してみると、今のインターネット時代における広告宣伝の基本がしっかりと詰め込まれた作品だという発見があった。

具体的に、
①新しい媒体価値が広告主に理解されるには時間がかかる
②新サービスの普及にはFREE(無料)施策が有効
③押し付け宣伝ではなく、自然な口コミ的な手法でないとお客様にメッセージは届かない
④立地は店構えではなく商品本来の力をアピールすることが重要

など、いくつもの教訓を引き出すことができる。


たった10ページの作品だが、広告業界・WEBサービス業界のみならず、PR活動に従事する方々は、是非とも本作を読み込んで欲しいと、心から思う次第である。



この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?