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老け顔中学生が小学二年生をカツアゲ・・・『がんじょう』(+『ネンドロン』)/町のカツアゲくん④

藤子漫画の世界では、「ドラえもん」におけるジャイアンのように同級生たちに君臨するガキ大将が必ず登場する。彼らは力を背景に、同級生たちのおもちゃを借りパクすることはザラだが、「お金を出せ」という直接的なカツアゲをすることはほとんどない。

ある種の一線を越えない程度の乱暴者という設定が与えられているのである。

これまでカツアゲをテーマとした3本の藤子F作品を見てきた。3本の共通項としては、全て外部から年上の不良が現れて、子供たちを脅してお金を奪い取るというパターンを踏んでいること。

カツアゲのような絶対的に悪い犯罪は、同級生ではなく、外部の上級生に役割を委ねているようである。


「ドラえもん」『がんじょう』
「小学二年生」1970年12月号/大全集
(てんとう虫コミックス未収録)

さて、「町のカツアゲくん」シリーズも本稿で4本目。今回はまたまた「ドラえもん」から『がんじょう』という作品を取り上げる。

前回『世界平和安全協会?』という作品を見たが、この時は「小学六年生」掲載のお話だったこともあり、登場してくる不良二人組が、タバコをふかしたり、全治六か月の刑に処すみたいな脅しをかけてくる本格的なワルだった。


今回は「小学二年生」掲載作品ということで、登場する不良は、中学生一人。敵としてはスケールが小さいが、小学校低学年向けの読者を想定すると、かなり怖いお話でもある。

なお、本作も『世界平和安全協会?』同様、「てんとう虫コミックス」には収録されなかった。カツアゲという題材は、広くあまねく読ませる単行本に向いていないと藤子先生が判断したのかもしれない。


平和に空き地で、思い思いの遊びに興じている子供たち。のび太としずちゃんは本を読み、ジャイアンとスネ夫は戦車のおもちゃを動かし、他の子はキャッチボールをしている。

そこに突然現れた老け顔の中学生。自ら「きらわれよさぶろう」など名乗る、隣町から流れてきたという不良である。顔に十字の傷があるところを見ると、歌舞伎の「切られ与三郎」のパロディキャラのようである。


中学生といういい年こいて、小学生たちに対して、「お前らみんな子分にしてやるぞ」と一方的に宣言。ジャイアンが即座に「嫌だよ」と答えるのだが、デコピン一発で弾き倒したあと、柔道・空手を駆使してジャイアンをやっつける。

子供たちの間では圧倒的な力を持つジャイアンが見せしめ的にやられてしまい、あっと言う間に皆は、よさぶろうの言いなりとなる。のび太に肩を揉ませ、しずちゃんに靴を磨かせ、スネ夫からお菓子を食べさせてもらい、ジャイアンがお茶を運ぶ。やりたい放題である。

スネ夫は「パパに言いつけてやる」と呟くのだが、これを聞きつけたのか、よさぶろうは「みんな聞け!」と大声を出して、「俺のことを言いつけたこうだぞ」と言って、空手で木の枝をへし折る。震え上がる子供たち。


のび太はドラえもんにこの件を相談する。のび太曰く、

「となり町で相手にされなくなったので、こっちに来たんだよ」

ということで、ここだけ聞くと情けないヤツではある。

のび太は「誰かスーパーマンみたいに強いのがやっつけてくれないかなあ」とこぼすと、ドラえもんは「君がやっつけるチャンスだ」と言い出す。この件でよさぶろうをやっつければ、皆に感謝され人気者になれるというのである。

そして取り出したのが「ガンじょう」という錠剤薬。これを飲むと、鉄よりも固くなり、どんな攻撃にも耐えられるという。


よさぶろうは調子に乗って、「明日から税金として一人百円持ってこい」と皆を脅す。これぞ定番のカツアゲである。そこへ、ガンじょうを飲んだのび太が登場。「この町が出ていってもらおう」と、西部劇のガンマンのように威勢がいい。

これを聞いたよさぶろうは、「ガガガ」とまるで狂犬のように怒り出し、この野郎とばかりにのび太に襲い掛かる。ところが、ここでいつもののび太の弱気の虫が現われ、思わずピューと一目散に逃げ出してしまう。


ここでドラえもんは大慌て。この薬の効果は10分しかもたないという事実が明らかとなる。

よさぶろうは「逆らった奴はただじゃおかねえ」と激昂。「みんなで探して捕まえてこい」と他の子供たちに命令する。

のび太は逃げ出した先で我に返る。ガンじょうを飲んで鉄より硬いのだから、逃げなくてもよかったと思い直す。この時、もちろん効き目が10分だけという事実は知る由もない。


のび太は再び、よさぶろうのいる空き地へと向かう。そんなのび太を見つけたしずちゃんたちは、「こっちに来ちゃダメだ」と庇ってくれる。これぞ優しき友人たちのあるべき姿である。

しかし、意地悪なヤツもいる。それがスネ夫である。のび太を目撃するなり、「みいつけた」と騒ぎ立てて、そのままよさぶろうの元へ連れて行く。そして、

「僕が捕まえたんだよ」

と、完全に悪の手下。そんな裏切り者のスネ夫は、よさぶろうから「副隊長にしてやる」と誉められる。

本作は「ドラえもん」連載開始から一年経っていない初期の作品なのだが、この当時ののび太のメインの敵はスネ夫であった。連載初期において、嫌な奴はジャイアンのようなガキ大将ではなく、スネ夫のような意地悪キャラだったのである。


のび太は既にガンじょうの効き目がない。よって、よさぶろうの一発目の空手チョップにノックダウンされるのだが、大きく口を開けたところにドラえもんが薬を投げ込む。

鉄の体を取り戻したのび太は、そこからのよさぶろうの攻撃を一切受け付けない。鉄を殴ったことになるよさぶろうの手は腫れあがり、思わず「キー」と噛みつくのだが、返り討ちにあって歯がボロボロになる。これで勝負あり。


よさぶろうは土下座をしたあと、這う這うの体で走り去っていく。のび太の圧倒的勝利に、沸く仲間たち。そしてたった一人、バツの悪いスネ夫は、「さあみんなで胴上げしよう」と急に手のひらを返して、のび太をワッショイするのだが・・・。

鉄の体となっているのび太をうまく胴上げできず、スネ夫の体に落下して踏みつぶされてしまう。カツアゲしてくる不良だけでなく、仲間を裏切ったヤツにも最後は成敗が下る、スカッとするラストシーンである。


さて、本作にはさらに後日談がある。

翌月、「小学二年生」1971年1月号の『ネンドロン』にて、本作を踏まえた始まり方をするのだ。

先月に裏切りに対する罰が下ったスネ夫だったが、よっぽど悔しかったのか、こんなことをみんなに言い出す。

「この間、のび太が鉄みたいになったろ。俺、あの秘密知ってんだ。薬を飲んだんだぜ」

薬を飲もうが、悪い中学生をやっつけてもらったんだから、そこはスネ夫も黙っていればいいのに、どうしてものび太をバカにしたいのである。


この作品では、ガンじょうは使い切ってしまったので(たくさん瓶に残っていたと思うが)、代わりに何でもしばらくの間粘土みたいに柔らかくする「ネンドロン」という薬を使って、のび太が力を持っているように見せつける、といった展開になっていく。

体を鉄にする薬から、今度は物を粘土にする薬。対比しやすいアイディアだったこともあって、敢えて連作風に発表したのかもしれない。



「ドラえもん」の考察しています。


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