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トイ・ストーリーの元ネタ発見?『よるの王子さま』/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介!!⑤

『よるの王子さま』「二年ブック」1955年4・5・6月号

1955年の藤子不二雄は、原稿大量落っことし事件によって仕事を失い、そこから再起をかけて復活の足掛かりを作っていくという、作家人生の中でも最も波乱万丈の一年であったように思う。

前年から順調にキャリアを積んでいたのだが、55年の中頃には掲載作が途切れてしまう。そこから約一年の間は、細々と単発をこなして食い繋いでいる。著作リストを眺めていても、そうした藤子先生の浮き沈みがしっかりと見て取ることができる。

そうした中、本作は学研から出版されていた「二年ブック」という雑誌で連載されていた作品である。しかし、3回の掲載の後、未完のまま連載は終了してしまう。著作リストだけ見ていると、先の原稿落とし事件に端を発する打ち切りかと思ってしまうのだが、実はそうではない。

「二年ブック」が休刊してしまうのである。雑誌の休刊という理由で、本作は見事に尻切れトンボのラストを迎えてしまう。また後ほど書くが、この尻切れの感じは、藤子不二雄デビュー作「天使の玉ちゃん」の終焉とよく似ている。物語が一つ区切りがついて、転調していく直前での突然の終了というタイミングが酷似しているのだ。

おそらくこの二作をしっかり読んでいる方も少ないと思いますが、この感想を共有できる人、募集いたします。。

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本作は、一回5ページで全3回の掲載なので、トータル15ページの作品となる。

全体的にどんな話かと言えば、「トイ・ストーリー」の元ネタ、と言えばイメージが浮かびやすいだろうか。それとも「おもちゃのチャチャチャ」漫画版と言った方が正確だろうか。

夜の間だけ動くことのできる人形・マリオ王子宝のダイヤを盗まれ、それを探しにやってきてユリーと出会う。そして、やはり夜にだけ活動できるおもちゃたちの力を借りて、ダイヤを取り戻す冒険に出る・・・。とそんなストーリーである。

最初マリオは、人形の状態で、ユリーの飼い猫のみいちゃんが拾ってくる。みいちゃんは人形を気に入って離さないので、ユリーは自分の食事でもあるミルクを全部あげて、人形を渡してもらう。ユリーは、人形の取れそうな手を直してあげる。このくだりで、ユリーの優しさが良く伝わってきて温かい気持ちになる。

なお、ユリーの名前は、第一話では出てこない。特に名乗るシーンもなかったが、第二話で突然マリオの口からユリーという名前が出てきて、その名が判明する。

マリオを拾ってきたその夜、ユリーが目を覚ますと、人形がいなくなっていて、窓も開いている。すると、りんごやらケーキやら食料を買い込んで、人形が部屋に入ってくる。驚くユリーに対して、人形は自己紹介。

「人形の国のマリオ王子です。宝のダイヤが取られたので、探しにやってきたんだけど。僕らは、夜だけしか動けないのさ」

なんとも簡潔にまとまった紹介である。このコンパクトさは見習いたいもの。

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活動が夜だけなので、さっそく出て行こうとするマリオ。ユリーは、自分がいれば昼も探せるということで、帯同を申し出る。すると、ユリーとみいちゃんを抱えて、空を飛んで出発するマリオ。この空を飛ぶカットは、対象読者が大喜びするところで、扉の絵にも使われている。

まずはおもちゃ屋へと飛んでいくマリオたち。マリオが一声かけると、おもちゃたちが動き出す。そして「王子様だ」と、なぜかマリオのことを知っているようである。

朝になる前にダイヤを探して欲しいとお願いすると、一斉におもちゃたちが外へと飛び出していく。おもちゃ屋が空っぽになってしまうことを危惧したユリーだったが、マリオは、

「朝までに帰ってくるのがお人形の規則さ」

と説明している。

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と、すぐさま一体のおもちゃが帰ってきて、ダイヤはギャングが持っているという。さっそくギャングの住処に向かい、マリオとユリーだけで、中へと入っていく。ところが、暗い室内で間違えてベルを押してしまい、ギャングに何者かが侵入してきたとバレてしまう。

逃げなくては、とその時、なんと夜が明けはじめ、マリオは動けなくなってしまう。ユリー、突然の大ピンチ! と、ここで一話目が終了である。

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第二話では、王子が人形に戻ってしまい、ユリーはひとり屋根の上に隠れるのだが、あっさりとギャングたちに見つかってしまう。ダイヤを狙っている奴らがいると気付かれ、ギャングたちはユリーも連れて、どこかへと移動してしまう。

その様子を屋根から見ていた猫のみいちゃん。マリオを咥えてギャングの車の上に飛び乗ってこっそりをついていく。とっても賢い飼い猫なのである。


そして夜。マリオは人形から王子に戻り、みいちゃんの案内で、ギャングのいる部屋へと向かう。室内では縛られたユリーが、なぜダイヤを盗もうとしたのか問い詰められている。まったくへこたれないユリーに、生意気だと男が殴ろうとした瞬間、「ユリーをいじめると酷いぞ」と、マリオが現われる。

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ピストルで応酬するギャングだが、弾は通用しない。そしてまほうの剣を使って、ギャング3人を人形にしてしまう。この剣で触ると誰でも人形にしてしまうのだという。ちなみに柄(つか)で触ると元に戻る。

ギャングたちにダイヤのありかは地下室の金庫だと聞き出し、燭台を燭台くんにして、地下へと案内してもらうことに。この燭台くんは「千と千尋の神隠し」のランプみたいにカワイイ。

ユリーを見張りに残して、マリオは縛り上げたギャングとともに地下室へと向かう。ところがギャングたち、夜が明けるとマリオが動けなくなることをなぜか知っていて、ゆっくりと金庫を開けて時間稼ぎをして、朝を待とうという作戦に出る。

はたして、どうなる? というとこで、第二話が終了。朝が近づいてピンチ、という展開は第一話とかなり似通っている。

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第三話。あと一時間で夜明けというところで、ユリーが時間を知らせに降りてくる。「余計なことを言いやがる」、とギャングがピストルで狙うが、燭台くんと猫のみいちゃんの活躍で難を逃れる。

そして埒が明かないということで、マリオは金庫ごと貰っていくことにする。ここでギャングたちはお役御免。

金庫を開けるため、ユリーが魔法の剣で大きな銅像を動けるようにする。ところが、いたずらっ子の銅像は、魔法の剣を無理やり借りて、小便小僧など、公園内のあれこれを動けるようにしてしまう。

マリオ王子が現れると、銅像も「あっ王子様」とようやく言うことを聞くようになる。おもちゃたちもそうだったが、なぜか動けるようになるとマリオのことを王子だと分かるようである。

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銅像たちの力を借りても、金庫は開かない。そこで、金庫自身を動けるようにして、口を開けてもらう作戦に出る。ところがこの金庫は暴れん坊。なんと重いだろうに、空へと飛んで行ってしまう

マリオをユリーは、空飛ぶ木馬に乗って後を追う。金庫は雲の中へと隠れてしまい、後を追うが上下がわからなくなってしまい、いつの間にか海の近くに。

すると嫌な風が出てきて、海が荒れ始める。そして大波が被ってきたと思うと、ユリーが流されてどこかへと行ってしまう。慌てるマリオ王子。しかし、なんと朝が近づいていた。体が痺れ始める。大ピンチ!

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と、そこで次回続く! 

そして、休刊により未完!

ギャングからダイヤを金庫ごと取り戻して、一段落だが、ここで金庫が逃げてまたもピンチという流れ。第二章が始まった、というところでの無念の中断となってしまった。

デビュー作「天使の玉ちゃん」でも、第二章の始まり、という転換点で打ち切りとなってしまい、羽を取り戻して天上に帰るというストーリーは完結に至らなかった。

本作でも結局ダイヤは取り戻せないまま。しかも、ラストはかなり次回が気に掛かる終わり方で、最近記事にした「あやうし!ライオン仮面」に匹敵するような絶体絶命ぶりである。どの辺まで予定通りで、この後どのような構想だったのだろうか?


いずれにせよ、1955年は数本の連載が何らかの理由で途切れてしまう災難な一年であった。合作はいくつかあるが、次の藤子F先生の単独連載は、翌年の5月まで待たなくてはならない。図らずも雌伏の時が来たのであった。


本作以外にも、貴重な藤子F先生の初期作品を多数レビュー始めています。下記リンク集から飛んでみて下さい。


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