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小池さんの職業、判明す!(予想通り)『上にドがつく小池さん』/アニメ作っちゃえ①

「オバケのQ太郎」を始めとする藤子不二雄作品に股をかけて登場する人気(?)キャラと言えば、そう、ラーメン大好き小池さんである。

小池さんはA作品、F作品、合作、短編と色々なお話で、色々な役柄で登場。時には主役を張ったりしているのだけど、今回は「オバQ」での小池さんについての記事を書こうと思う。

「オバQ」において小池さんは、昼間から家でゴロゴロしていたり、ラーメンをいつも食べている、謎キャラの扱いをされている。これは子供(読者)目線でいくと「近所に住んでいる何をしているか分からんおっさん」という立ち位置となる。

基本的に「ドラえもん」などでも同じような扱いであろう。

ただ、かつて記事にしているが、小池さんもある日突然お嫁さんを貰っているし、子供だって生まれている。(子供の話はまだ記事にしていない)


今回はそんな普段何をしているかよくわからん小池さんが、実は夜な夜などこかへ出かけていくことを知ったQちゃんの、小池さんの正体を追究するお話

小池さんの仕事は、頭に「ド」がつく仕事だというヒントを得るが、ドと言えば、・・・ドロボウ? てな感じで、いつものようにドタバタが巻き起こる。

最終的には、小池さんの職業は、小池さんのモデルと同じだったというオチとなっており、僕としては「やっぱりそれね!」となるわけだが、多くの読者にとってはどのような感想を持たれるのであろうか。


「オバケのQ太郎」『上にドがつく小池さん』
「週刊少年サンデー」1966年26号/大全集5巻

間違えて早朝4時に目覚まし時計をセットしてしまったQちゃん。最初は夕方の4時まで寝過ごしたと勘違いして、「朝ごはんと昼ごはんを損したぞ」と憤ったりしている。

外へ出てみると、最も人が活動的ではない時間帯なので、誰も歩いていない。ところがスーツにネクタイ姿の小池さんが一人出歩いている。Qちゃんが様子を伺っていると、小池さんはこの時間に家に帰るところだったらしく、

「毎晩夜中に働くのも楽じゃないや。ラーメンでも食べてゆっくり休もう」

などと独り言を言っている。寝る前の朝(?)ラーメンという部分はさておいて、小池さんは夜中にどんな仕事をしているというのだろうか。


Qちゃんはこの一件から、小池さんは何をして暮らしているか疑問に思い始める。正ちゃんも、毎日ラーメン食べてブラブラしてるな、と同調する。そして正ちゃんは、一度小池さんに仕事を直接聞いたら、上に「ド」がつく仕事をしていると言っていたという。

夜中の仕事で頭がド。これは「ドロボー」としか思えない。まさかとは思いつつ、Qちゃんは小池さんの日常を本格的に調べることにする。

・・・時に、子供の頃近所に必ず一人はいた、小池さんのように何をしているのか不明なおじさん。あの人たちはどんな職業だったんだろう? どこかの管理人だったのか、夜のドライバーだったのか。そんな子供たちの謎が込められたキャラが小池さんなのである。


Qちゃんの密着調査によると、

・午前10時、寝ている
・正午12時、まだ寝ている
・午後2時、起きる
・寝床でラーメンを作って食べる
・残ったおつゆで顔を洗う(汚い!)

その後、鏡に向かい色々な表情を作り、ヘン顔になったかと思うと、「この顔を今度使ってみよう」などと訳の分からないことを言っている。Qちゃんはそれを見て、変装術の研究だと捉える。

そして、どこかの国のスパイではないかと考えていると、それに調子を合わせたように小池さんは「秘密を知った奴は殺せ」「ピストルは古くさいからロケットに縛って宇宙へ飛ばせ」などと、何者かとスケールのデカイ電話をしている。


その夜。すっかりスパイ・小池にビビってしまった正ちゃんは、正体探しから身を引いてしまう。そしてQちゃん一人で、小池さんの世界的陰謀を食い止めるべく、小池さんの夜の外出の後をこっそりとつけることにする。

キョロキョロと周りを見渡したかと思うとコソコソと立ちションしたり、人の庭を抜けて近道したりと、挙動不審な行動を取りがちな小池さん。さらには走っている車の後部の飛び乗るなど、スパイっぽいアクションも起こすのだが、これは単純にタクシー代を浮かすためであった。


そうこうしているうちに小池さんは汚い路地に入り、とある家に入る。入り口には「スタジオ・ボロ」という貼り紙。中には仲間もいるようである。こっそりと部屋の中を除くQ太郎。人相の悪い連中がいっぱいいるようだ。

警察を呼ぼうか考えていると、「東京を水爆で吹き飛ばそう」などというテロリスト宣言が聞こえてきたので、たまらずQちゃんは部屋に乗り込んで、「みんな手を上げろ、オバQが逮捕するぞ」といきり立つ。


部屋の中には小池さん以外にも、石ノ森章太郎やつのだじろう、もちろん藤子不二雄両氏(っぽい人たち)がいる。そう、ここはオバQを生み出した動画会社「スタジオ・ゼロ」なのであった。

表の表札(看板)には「スタジオ・ボロ」と書いてあったが、実際に元倉庫を利用して作られた古くてぼろいスタジオだったので、彼らは「スタジオ・ゼロ」をわざと「スタジオ・ボロ」と呼んでいたのである。

「スタジオ・ゼロ」のことがよくわからないという方は、以下の記事をお読みいただくと非常に理解が深まるので、オススメさせていただきます。


ここでさらにポイントを一つ。そもそも小池さんとは何者なのかということについて。あまりに有名な話ではあるが、小池さんのモデルはトキワ荘仲間の一人、鈴木伸一先生である。(以下敬称略)

鈴木伸一氏は、大原正太の兄・伸一に名前を貸し出しているが、風貌やラーメン好きな性格は「小池さん」としてキャラクター化された。鈴木氏は、最初は漫画家として活動されていたが、後にアニメーターとしての能力を開花させて、トキワ荘仲間で立ち上げた「スタジオ・ゼロ」に合流する。

「ゼロ」解散後もアニメーター、作画監督としてアニメ業界で活躍し、藤子不二雄絡みで言うと、パーマンの短編映画「パーマン バードマンがやってきた!」を監督していたりする。そしてまだご存命なのである。


さて、「オバQ」の本筋に戻ると、小池さんの職業は「ドウガを作っている会社で働く人」であったのだ。そして物騒なスパイっぽい会話は、全て漫画の筋立てであった。

ではなぜ夜中に働いているのかというと、夜だけ借りる形でこの場所の家賃を下げてもらっているからであるという。Qちゃんは貧乏な会社なんだな、と感想を漏らすが、小池さんは動画を作るにはうんとお金がかかるんだと語気を強める。

そして、ちょっとした動画(アニメーション)の制作過程を紹介する。

・30分のフィルムで6~7千枚の絵を描く
・少しずつ違った絵を描く(根気がいる)
・それをセルロイドに書き直し、裏から色を塗る
・別に背景を描く
・セルロイドと重ねて一コマずつ撮影する

改めて、気の遠くなるような作業である。

しかもこれを、本当に藤子先生たちは、日中マンガを描いて、夜からアニメを制作していたわけだから、凄まじい情熱を感じさせる話である。


マンガの中の「スタジオ・ボロ」は、これほどの苦労をして作ったフィルムが売れなくて困っているという。そこへ珍しく、フィルム購入のためにスポンサーのお偉いさんがスタジオを訪ねてくる。

早速試写をするのだが、感想はというと、「初めの方が退屈で、真ん中辺がつまらなく、おしまいの方は全然くだらない」という。案の定「あんなの買えませんな」と言って、去って行く。

残されたボロのメンバーは、互いに批判を始める。「もうスパイ物は古い」「ストーリーを作ったのは君だぞ」。そして安孫子先生は、藤本先生に「原画を描いたのはお前だ」とあげつらっている。


このままヒット作が生まれないと会社は潰れてしまう。何かアイディアは無いのか? 藤本先生は「問題は主人公だ」と語り、安孫子先生は「主人公が問題だ」と呟く。

Qちゃんはそこで知った風に「何か愉快で間抜けで滑稽な主人公がいいよ」と告げる。すると、メンバーの視線が一斉にQちゃんへと向かい、「愉快で間抜けで滑稽だ!」と、総意で指をさされる。

こうしてQちゃんをモデルにしての作品作りが始まる。面白い顔をしてなどと要求され、「僕は面白くないっ」と不満を口にするQちゃんであった。


もちろん、これもご存じの通り、ヒット作に恵まれなかった「スタジオ・ゼロ」では、藤子不二雄の二人の発案で社内に雑誌部を作り、そこで「オバケのQ太郎」を共作して「週刊少年サンデー」で連載をスタートさせる。

目論見通りに、これがヒットし、経営の屋台骨となって会社は存続されていく。そして、オバQを描いているのは、まさしくスタジオ・ゼロの雑誌部のメンバーであり、すなわち本作に登場している人たちである。

このあたりの循環した展開が、オバQファンとしては幾重にも喜ばしく思えるお話となっている。

そして、何をしているか不明なおっさんだった小池さんが、実はモデルの鈴木伸一氏と同じアニメーターであるという事実が判明する、ある種奇跡的な一作なのであった。




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