パーマンになってできること『お花見騒動』/Fキャラお花見騒動③
お花見大好き藤子Fキャラにスポットを当てた作品を取り上げる「Fキャラお花見騒動」シリーズ第三弾。今回は「パーマン」から一本ご紹介。
「パーマン」×「お花見」エピソードと言えば、『ギャド連花見』が真っ先に思い浮かぶところだが、この作品は一度取り上げているので、こちらをご参照してください。
今回は「てんとう虫コミックス」には収録されていない少しマイナーな作品を掘り出してみたい。
なお、ここまで「ドラえもん」と「バケルくん」のお花見エピソードを一本ずつ記事化させているので、こちらも併せてお楽しみ下さい。この二本は始まり方が良く似ていて、比較するのもご一興。
本作はまだパーマンが始まって間もない初期の作品で、かつ「小学二年生」という低年齢向けの誌面で発表されたタイトルとなる。
それがどういう状況かを整理しておくと、まずパーマンの社会における認知度がそれほど高くないという点がひとつ。本作でも触れられているが、世の中の人がパーマンを見ても、ただの子供だと思われてしまう。
現実世界でパーマンのようなヒーローが登場したらあっと言う間に認知度100%となりそうなものだが、まだテレビが全世帯に行き届いていない時代だったので、パーマンの活躍は聞こえていても、その姿は広がっていなかったのかも知れない。
次に本作が低年齢層向けに書き分けられた作品だということで、あくまで小学二年生(7歳程度)の読者が喜ぶお話として構想されている。悪と戦うヒーローものというよりは、日常における超能力者のお話になっている。
他の「小学二年生」作品を見ていくと、ロボットや透明人間と戦うようなお話もありつつ、夏に雪を運んできてスキーをしてみたり、運動会で活躍して見せたりと、あくまで等身大の子供たちの「出来たらいいな」が描かれている。
藤子作品では、ドラえもんのアニメの主題歌にあるような、読者にとっての「あんなこといいな、できたらいいな」が発想のベースとなっているのである。
冒頭、パーマン2号がお花見に行こうと誘ってくる。ブービーは「はなみ」と言葉を喋れないので、自分の「鼻(はな)」を指さし、ノラ猫を連れてきて「ミー」と鳴かせて、「はなみ」と伝えている。
お話が進むとブービーの言葉を他のパーマンたちはすぐに理解してしまうが、連載が始まったばかり(仲間になりたて)なので、工夫を凝らしたコミュニケーションが必要なのである。
みつ夫はすぐに賛同するのだが、タイミング悪くママと妹のガン子が出掛けることになって、留守番を頼まれて家を出られなくなってしまう。つまり、親の存在が花見の障害となってしまうのである。
今まで見てきたお花見エピソードでは、のび太にしろ「バケルくん」のカワルにしろ、お花見に行けるかどうかは親が連れて行ってくれるかに掛かっていた。親の不在が花見の障害であったのだ。
ところが「パーマン」では、親の力を必要としない自立型のキャラクターなので、親の不在ではなく、親がいることで花見に出かけられなくなるという展開となっているのである。
ただし、みつ夫にはこんな時のためにコピーロボットが存在する。本作は連載開始から間もないので、敢えてコピーロボットがいるという事実を一拍置いてからみつ夫に気が付かせている。
コピーに留守番を任せて、みつ夫は家からお菓子やジュースなどを大量に持ち出して花見へと向かう。ブービーも「ウキウキ」とうきうきしている様子。
最初は留守番について文句を言わなかったコピーだが、仕事ではなくレジャー目的で出掛けていくパーマンを見て、「あっ、いいな。花見なら僕も行きたいや」と羨ましがる。この羨望が、後に騒動を引き起こすことに繋がっていく。。
満開の桜を、空の上から「きれいだなあ」と眺めるパーマン。何気ない一コマだが、普通の人間ではできないことをサラリと実行しているパーマンを見て、読者の子供たちは「自分たちもパーマンになりたい」と強く思うところである。
下に降りて適当な場所でおやつを広げるパーマンたち。するとそこへタバコの吸い殻が飛んできて、みつ夫の頭に着火。これは花見の酔っ払い客の仕業で、みつ夫たちのいる場所が特等席だと言って、ズカズカ入りこんでくる。
抗議をすると「子供のくせに、大人の言うことが聞けないのか」と言って放り出されてしまう。みつ夫は仕方なく引き下がり別の場所でお菓子を広げるのだが、先ほどの酔っ払いたちが喧嘩を始めて、周囲に物を投げたりと迷惑な存在となっている。
このような横暴な大人たちに対して、ついに我らがパーマンが出動となる。最初にタバコの吸い殻を飛ばしたところでも変身するチャンスだっただろうが、本作のようにヒーローの登場までにはタメを作るのが重要なのである。
パーマンとなって、「危ないからやめてよ」と喧嘩する酔っ払いたちの間に入っていく。するとパーマンを知らなかったのか、酔って訳が分からなくなっているのか、「子供のくせに生意気な」と一人の男が胸ぐらを掴んでくる。
先ほどはみつ夫の姿だったので放り出されてしまったが、パーマンとなればそうはいかない。
「ただの子どもじゃないよ」と言って、男を指でチョンと弾くと、数メートル先のゴミ箱まで飛んでいき、頭から突き刺さってしまう。他の二人の男性も殴りかかってきたところを軽く蹴飛ばして近くの池へと落とす。
酔って暴力を振るう大人は子供の大敵であり、そうした敵を一蹴できるパーマンに、憧れが募るシーンなのである。
パーマンの活躍を遠巻きに見ていた人たちは、「強い」「どこの子だろう」と感想を漏らすが、とある女の子が「あれがパーマンよ」と口にする。パーマンの口コミは子供から広がっていることがわかる場面となっている。
「パーマン日本一」「すごい」「えらい」などと賛辞の声が高まっていくが、「あまり褒められちゃ照れくさい」ということで、木陰で姿をみつ夫に戻す。
ここで本作のヒーロー活動はほぼ終了し、みつ夫にとって気持ちの良いシーンも終わり。この後は、どちらかと言えばみつ夫の悲劇が描かれていく。
これでゆっくりお菓子が食べられるかと思いきや、何とブービーが一人で残さず食べてしまっている。本作では全く活躍しないパーマン二号である。
みつ夫は「仕方がないから花だけ見て帰ろう。これが本当の花見だ」と言ってブラブラと歩き出すのだが、先ほど「あれがパーマンよ」と喜んでいた女の子に、「私のお菓子を取ったの」と指さされてしまう。
さらには餅の代金50円貰っていないとか、桜の枝を折って逃げたな、などと次々に猛抗議をされて、追い回されてしまう。怒っている面々は先ほどパーマンに惜しみない賛辞を送っていた人たちばかりというところが悲しい。
突然お花見での悪者となったみつ夫。「どうなっちゃってるんだろ」と疑問に思ったところで、能天気に桜の木の枝を持って歩いているコピーロボットに出くわす。
まだ地球での活動歴の浅いコピーロボットということで、「花の枝を折っちゃ悪いの知らなかった」と世間知らずぶりを示す。さらに留守番はどうしたと突っ込むと、「留守番より花見の方が面白いもの」と悪びれない。
ヒーロー活動において、自分の不在を埋めてくれるコピーロボットの存在はとても重要なのだが、パーマンに与えられたコピーロボットはかくも不完全で、本作のように逆に厄介ごとになるケースも多数なのである。
そんなコピーの困ったエピソード集はこちら。
コピーロボットも花見に来てしてしまったので、家で留守番している者はいない。ママたちが帰宅する前に家へと急ぎ戻るのだが、あと一歩遅かった。
ママたちが先に家に帰り、カギも掛かっていなかったこともあって、カンカンの様子。みつ夫はコピーロボットの責任だということで、「ただいま」と言って家の中にコピーのみつ夫を突き飛ばす。
ところが押されたコピーロボットがコケてしまい、鼻をぶつけてロボットに戻ってしまう。ママは玄関の外にいたみつ夫を見つけて説教モードへ。すぐにロボットに戻ってしまうコピーの構造的欠陥も明らかとなるラストシーンなのである。
本作を振り返ってみると、お話の前半では、パーマンとなることで空を飛んで子供だけで花見に行けたり、空から満開の桜を見ることができたり、酔っ払って暴れる大人たちを懲らしめて褒められたりと、ヒーローになった喜びがしっかりと描かれている。
後半では一転、マスクを取った後の周囲からの扱いの低さや、コピーロボットの頼りなさが描かれて、ヒーローも良いことばかりではないよ、というような一面が示される。
この悲喜こもごものヒーロー活動というのが、「パーマン」の最大の魅力であり、連載始まったばかりのタイミングでも、しっかりとその点が強調されているのであった。
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