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自由とは何かを問う!?『オバQ王国』/緊急SP・国家とは?①

史上初の任期満了を超える4年ぶりの衆議院議員総選挙が近づいている。本来総選挙は政権選択が争点となるはずだが、残念ながら日本ではほとんどそうはならない。与党がどれくらい勝つか、もしくはどれくらい負けるか、という数字の程度を競うに過ぎない。

けれど、どうせ何も変わらないとか言って投票に行かないのは、大人として無責任だ。せっかくの選挙なのだから、せめてこの機会に理想の国家像を有権者それぞれが思い浮かべて投票するのも悪くない。いや、そうするべきなのだ。


と、そういうことで、全3回の緊急シリーズとして、藤子作品の中から「国家」を扱った作品を取り上げて、ちょっとだけでも国の形について考えていければと思う。そして、みんなで投票に行こうではないか!

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「オバケのQ太郎」『オバQ王国』
「週刊少年サンデー」1966年30号/大全集5巻

まず本作は、数あるオバQ作品の中でも非常に重要なタイトルであることを強調しておきたい。本作で登場する子供たちだけの自由の国・オバQ王国は、正一たちが仲間と遊んだ若き日の思い出であり、とある作品に大きな影響を与えている。

それが哀しき名作『劇画・オバQ』である。子供から大人になることをテーマにしたこの作品において、オバQ王国が大事な伏線となっているのだ。年内中に考察予定なので、こちらもお楽しみに。


なぜ子供たちだけの国を目指すのか。それは、大人中心の社会に大いなる不満を抱えているからである。少々古いが「ぼくらの七日間戦争」などで描かれた普遍的なテーマである。

まずは個々の不満を見ていこう。
・Q太郎・・・信号が面倒くさい
・正一・・・勉強したくないので学校やめたい
・木佐・・・車の運転をしたい
・ゴジラ・・・イライラして何かを壊したり誰かを殴りたい

彼らの不満を聞いたハカセは、日本の法律に従いたくないのなら、無人島を見つけて独立国を作り、自分たちの都合のいい法律を作れば良いとアドバイスする。

Q太郎はさっそく無人島探しの旅へ。4コマ分の長旅の末、呆気なく無人島が見つかる。「ドラえもん」の『無人島へ家出』に匹敵する素早い島の発見であった。

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Q太郎は早速イカダを作り、P子にも手伝ってもらいながら、正一たちを無人島・オバQ王国へと引っ張っていく。そして島に到着後、みんなで喜びの感情を爆発させて、騒ぎ踊りだす。

「ヤッホー、僕たちだけの国だ。自由の国、オヤジや先生のいない国、バンザイ」

この一コマは『劇画オバQ』で引用されるので、是非目に焼き付けておいて欲しい。


Q太郎は島を見つけた自分が王さまであると名乗る。いきなり威張ってくるのでとても感じが悪い。

Q太郎は王様の衣装をして、法律作りに着手する。こどもの日じゃなくて、大人の日。秋分があるので夏分・冬分の日。ラーメン記念日、コロッケ感謝の日。・・・

色々考えた挙句「寝たいときに寝て、食べたいときに食べて、遊んで暮らすのがオバQ国の憲法だ」と、まるっきりの自由の国宣言をするのであった。


みんなは「天国みたいだ」と喜ぶが、ハカセは「その前にこの島を住みよい環境にしなくては」と割って入り、衣食住を整えようと提案する。そこでそれぞれ家作りに取り掛かる。

ハカセは木の上、正一は洞窟の居抜き、ゴジラは本格的な大工仕事をして家を建てる。Q太郎は、ゴジラの家を気に入って、王宮に決めたと言って奪ってしまう。

威張るQちゃんに対して、P子はそんなお兄ちゃんは嫌いと言って帰ってしまう。Q太郎は全然反省せずに、

「王様は偉いのである! だから国民は王様に尽くさねばならぬ」

と、どんどんと増長していく。木佐が見つけた木の実を大臣にするからと言って横取りしたり、反抗する正一・ハカセ・木佐に対して、ゴジラを警視総監に任命すると言って蹴散らせて、勲章をあげたりする。

王様が偉いというだけでは、国民はついて来ない。また大臣やら勲章という肩書だけで支配しようとする。Qちゃんのバカバカしい王様ごっこであるが、なかなか考えさせてくれるのである。

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正一・ハカセ・木佐の3人は、クーデターを計画。Q太郎とゴジラがいる洞窟の前で火を起こして煙を穴へと流し込み、二人を燻り出す。Q太郎を犬の真似して失神させて、ゴジラも一対三で倒してしまう。

クーデターはあっさり成功となるが、この後は3人とも次の王様を名乗り出し内輪もめの喧嘩へと発展する。それを傍目から見ているQ太郎とゴジラ・・。

喧嘩はバカバカしいと3人が気付いた頃、ちょうどP子が戻ってくる。

「そろそろ帰った方がいいんじゃない?」

と、王国ごっこがうまくいかなくなる状況が、P子には全てまるっとお見通しなのであった。

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日もすっかり暮れて、再びいかだで帰るみんな。

「こんなに遅く帰って叱られるぞ。王様の責任だぞ」
「もう、王様はやめたよっ」

と、王国ごっこにこりごりのQ太郎であった。


本作から(無理やりに)学びを得るのであれば、まず完全なる自由という国はあり得ないということである。不自由から逃げ出して新天地にたどり着いたとしても、そこでは衣食住という必要なものを自分たちで得なくてはならない。かえって不自由さが増すことかも知れない。

また仲間(国民)の役割分担と団結が必要ということだ。大工仕事がうまい人、食べ物を取れる人、皆が満足できる法律を作れる人、得意不得意があって、互いに助け合っていかねばならない。

ただ王様だというだけで偉そうにしていることは許されない。実際の政治に置き換えれば、為政者は国民に対して何かをしなくてはならない。偉そうにふんぞり返ってばかりでは、クーデターが起きてしまう。また、一部の者を重用しても結果は同じである。


14ページのギャグ短編ではあるが、少年少女向けとしては、自由とは何かを自然と考えさせる好編といえよう。そしてF先生はこのテーマをさらに深掘りした作品を後に発表している。

それが「ドラえもん」の『のび太の地底国』である。こちらについては、次稿で詳しく紹介したい。


「オバケのQ太郎」の考察・紹介たくさんやっています。


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