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エリのパパも運転即事故タイプ。「チンプイ」『パパ、念願の運転免許』/運転は難しい②

何を隠そう僕は運転ができない。加えて、機械にも弱く、運動神経も鈍い。そういうことで、藤子作品に時々出てくる「運転できないパパ」のエピソードを読むと、心がキリキリと痛むのである。

しかも運転が下手な登場人物たちの苦悩が、ありありと描かれており、これはひょっとして作者も同じ気持ちなのでは・・・なんて思ったりもする。そして、運転できない僕も、同じく感情移入してしまう。


前稿ではのび太のパパを主人公とした、いつまで経っても運転免許が取れないお話を二本ご紹介した。のび太のパパは、免許試験は落ちるものの、実際の運転は上手だったりする。

しかし、どうも本番に弱いらしく、特に脇に教官が座っていたりすると力が発揮できないようである。あと、この時代ではオートマチック車がメジャーではなく、全てのドライバーがマニュアル車を運転しなくてはならなかった。その点も少し考慮してあげたい気持ちがする。


さて続けて本稿では、似たように運転免許試験に落ち続けていたパパの話をご紹介したい。作品はこれまでの藤子作品のパロディ的要素満載の「チンプイ」である。


「チンプイ」『パパ、念願の運転免許』
藤子不二雄ランド「ドラえもん」42巻 1990年2月16日刊行

冒頭、チンプイ世界のスネ夫こと、スネ美がエリに自慢するところから始まる。今回の自慢ネタはズバリ新車高級車セルシオを購入し、ドライブに行ってきたという。

トヨタのセルシオは、本作発表の前年1989年に発売された高級車で、当時の価格で800万。海外ではレクサスの最上級車として発売され、国内外問わず一般大衆には手の届かない車であった。


自慢を聞かされ、「ドライブなんてどこが面白いのよ」と呟くエリ。ところがそれは本意ではなく、

「時間とガソリンを無駄遣いして・・・ドライブなんか・・・行きたあい!!」

と叫ぶのであった。

エリ曰く、パパが免許証を持っていないので、家族ドライブなどしたことないという。エリのパパは何年もの間、何べんもチャレンジしながら、いつも実地試験で落ちているのだ。


落ち込むエリに、後ろからパパが嬉しそうに話しかけてくる。

「大ニュース!! 僕はついにやったぞ!!」

と言って、ジャーンと手にするのは何と自動車の運転免許証。長きに渡った挑戦がついに実を結んだのである。

エリとパパは手を取り合って大喜び。しかも、近くパパの友だちが中古車を譲ってくることになっており、これでエリとパパ念願のドライブ・マイ・カーが実現する。


ところが、パパが免許を取ったと聞いて、ママは不安そうな表情を浮かべる。「まさか取れるわけないと安心していた」と言うのである。これを聞いてムッとするパパ。何年もかかったのは、逆にそれだけたっぷり練習したことになると言う。

そこでママは、パパは広い野原で自転車の練習してたった一本生えている木にぶつかるタイプだと指摘。その上で、

「お酒もけっこう、麻雀もパチンコもいいから運転だけは止めて!!」

と言って、全力で運転を制止するママなのであった。

免許を取る取らないは関係なく、妻としては夫に運転して欲しくないということなのだが、これは前稿で紹介した「ドラえもん」『ミニカー教習所』でのママの思いと一緒である。

運転して欲しくないのは、意地悪からではなく、夫のおっちょこちょいによる事故を警戒してのこと。けれど指摘された夫は、バカにされたような気分になる。よって、ここで言い争いが夫婦喧嘩へと発展してしまう。


話は平行線のまま。パパは断固やり抜くと意固地になり、車が届き次第試運転に出かけるという。エリはドライブしたい派なので、もろ手を挙げて賛同する。

ところがこの話を聞きつけた、ワンダユウじいさんは「天下の一大事じゃ」とひっくり返る。「あの公爵様の運転でドライブに出掛けては一家で事故に遭ってしまう」と危惧するのである。


ということで、ここからワンダユウが動いて、パパが運転しないように画策していく。作戦は以下。

作戦①パパを車嫌いにさせる

科法「架空情報」を使って、テレビをつければ自動車事故のニュースを流れるようにする。この効果は抜群で、パパは「家族を乗せて事故でも起こしたら・・・」と弱気になる。

ところが、どうしてもドライブに出かけたいエリが、慎重に運転すれば大丈夫と説得し、パパに再決意させる。周囲に影響を受けやすいタイプなのだ。


作戦②中古車を壊す

友だちが届けてくれた車を科法「ポンコツ」でバラバラにしてしまう。これで当分実質的に運転をすることはできなくなる。

ところが、マール星の通貨で蓄財しているエリが、車(セルシオ)を購入すると言い出す。しかしチンプイが先回りして、エリの財産管理をしている財務長官に、「宇宙的大恐慌」のために破産したと嘘をつかせて事なきを得る。


ガックリと力を落とす、エリとパパ。ママはパパに「ドライブしたければ私が免許を取る」などと慰めにもならないことを言って、なおさら落ち込ませてしまう。

そんな二人の様子を見ていたチンプイは、あまりにも可哀そうだと考えて、庭に運転練習場を作ってあげることにする。まるで『ミニカー教習所』のドラえもんと同じ発想である。

ドラえもんはのび太と手作りで運転コースを作って、「ガリバートンネル」でパパを小さくさせていた。チンプイは科法「間引き分子による縮小コピー」という技で、町の建造物や車の分子を千個につき一個の割で抜き、練習場を作り上げてしまう。

そしてパパを小さくするのではなく、同じ科法を使って千分の一のパパを作り、十分に練習させてから元のパパに合体させることで、技術も身につくのだという。


パパはしっかりやれと、千分の一の自分を応援する。・・・が、試運転に乗り出したパパの車は、すぐさま電柱に衝突して大破してしまう。この惨状を見て、当分本当の町へ出るのは無理だと悟る、エリとパパなのであった。


ということで、エリのパパについても、ママの見立て通り、運転即事故るタイプなのであった。

「ドラえもん」においても、のび太のママがパパに対して運転免許を取ることを心配していた。本作で描かれるエリの両親の関係と全く一緒である。


藤子先生が自動車免許を持っていたかは不明だが、運転をしているような話は全く聞かない。もしかしたら、奥様や娘たちから、運転だけは止めておけと忠告でもされていたのだろうか・・・。


「チンプイ」も考察してます。


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