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恐怖のドラや菌『へやいっぱいの大ドラ焼き』/ドラえもんミニ考察⑯
未来の世界は倫理面が緩くなったとみえて、今の世の中では考えられない物騒なひみつ道具が数多く流通している。
「人間製造機」や、時間を操る一連の道具、「地球破壊爆弾」などなど。使い方を間違えれば、あっという間に世界中は大混乱に陥り、滅亡だってしかねない。
本稿で取り上げる作品でも、絶対的に許容しがたい未来の機械が登場する。そして、世界の危機一歩手前まで追い込まれる事態となるのであった。
『へやいっぱいの大ドラやき』(初出:細菌を利用してドラやきを作ろう)
「小学六年生」1979年1月号/大全集6巻
雑誌掲載時のタイトル(細菌を利用してドラやきを作ろう)が全てを表しているが、今回扱うものは「細菌」。非常にお手軽に科学実験が行えるが、その結果どうなっても知らんという大変取扱注意な機械なのである。
冒頭では、のび太がママにジュースを取り上げられる。ママの叱りっぷりから、のび太は喉が渇いたら、すぐにジュースに手を出してしまう子らしい。ママには飲みたかったら水を飲めと注意され、それに対してのび太は
「ただの水なんて飲みたくないよ。金魚じゃあるまいし」
とふて腐るのであった。
ちなみに僕の会社の先輩に、ただの水は飲みたくないと言っている人がいる。気がつくと桃の天然水的な薄味の飲み物を飲んでおり、糖尿になるのでは・・と心配になる。・・余談です、すみません。
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部屋に戻ると、ドラえもんが割と大掛かりな機械を操作している。何をしているのか聞かれて、何でもないとしらばっくれるが、とっておきのどら焼きをちらつかされて、白状してしまう。
ドラえもんがいじっていた機械は「イキアタリバッタリサイキンメーカー」という、新種の細菌を作り出す実験装置であった。市井の人々が細菌を行き当たりばったりに作れてしまうという、倫理のタガを外れた道具である。
ドラえもんは、最初のび太に、
「これは取り扱いを誤ると非常に危険なんだ。人類を滅亡させ・・・」
と大変物騒な紹介をして貸すのを断るのだが、どら焼きを目の前に突き出されて、
「ま、気をつけりゃいいか」
と涎を流して、使うことを許諾してしまう。相変わらず、ドラえもんは大好きなどら焼きと大嫌いなネズミが関わると、正常な判断ができなくなってしまう。
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ここで、科学漫画の側面を持つ「ドラえもん」ならではの、細菌についての説明が入る。
・人間は細菌のお世話になっている
・植物から酒・味噌・醤油を作る
・タンパク質を合成して人造肉にする
・抗生物質を作って病気を治す
さらに、新種の細菌の作り方も、軽く紹介される。
「今ある菌の染色体の中のDNAを改造し、その遺伝情報を・・」
と、ここでのび太に話を遮られる。この手のウンチクが少しでも加わることで、ドラえもんがただの荒唐無稽なお話でないと、読者に理解されるのである。
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ドラえもんはこの機械で、水からどら焼きを合成する菌を開発しているのだという。ところが行き当たりばったりだから、なかなか思い通りにいかないという。便利なのか、不便なのかよくわからない。
しばらく操作すると、「チーン」と鳴って新種の細菌ができ上がったようだ。いきなりマスクをつけて、「イキアタリバッタリサイキンメーカー」の中からペトリ皿を取り出す。慎重なのは、有毒な菌かもしれないからだという。・・・そんな危険な実験を子供部屋でやっていいのだろうか??
皿には水分が入っている。どんな菌なのかテストをすることに。水や紙、鉄やビニールを入れても反応しない。するとのび太がクシャミをして菌を飛び散らかしてしまうのだが、菌に触れたどら焼きが消えてしまう。
どうやらこの菌は、どら焼きから空気を作り出すものだったようだ。・・・これはドラえもんでなくても、利用価値ゼロと思われる菌である。しかし、最後の最後で、この菌によって、世界は救われることになるのだが。
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ドラえもんはこれまでに388種の菌を作ってきたらしいが、そのどれも役に立たなかったと振り返る。どうやら、のび太を学校に送った後は、時々この機械で細菌作りに勤しんでいたようである。
ドラえもんが行ってしまい、のび太が後を引き継ぐ。8種ほど作ってみるが、目ぼしいものはない様子。しかし、その中の一つの皿で木の葉が溶けて水みたいになっているものがある。舐めてみると甘い。
そこでたくさんの葉っぱを庭で拾い、大きな入れ物に入れて菌を加えてかき混ぜる。すると発酵していい香りが漂ってくる。飲んでみると、思わず「うまい」と声が出るほどに美味しいジュースができている。のび太は、当初の目的だったジュースを作る細菌を見事に初日から作り上げることに成功したのだった。
このジュースはしずちゃんやスネ夫、ジャイアン、安雄に大うけ。のび太は「ノビジュース」と名付けて、コーラみたいに世界中に売り出そうと野望を抱く。
喜びながら、部屋へと帰ってくると、先ほど作った細菌のなかで、一つの皿から何かが膨らみつつある。なんと、どら焼きが現われ、どんどんと大きくなっていく。のび太は「ドラえもんが喜ぶぞ」と喜ぶ。
ドラえもんは、細菌を当てにせず、ありったけのお小遣いでどら焼きを袋いっぱいに買いこんで帰ってくる。膨らんでいるどら焼きを見て、
「ドラや菌!!」
と、衝撃を受けた模様。
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何とこのドラや菌、空気を取り込んで無限にどら焼きが大きくなって、ついには地球を押しつぶすという恐ろしい菌なのだという。
空気が無くなるのが先か、地球が押しつぶされるのが先か。いずれにせよ、人類滅亡を引き起こすトンデモない細菌が、一人の少年の部屋から生み出されてしまったのである・・。やはり外道な機械である。
瞬く間にどら焼きは膨れ上がる。のび太とドラえもんは部屋から脱出するが、どら焼きは今にも部屋を壊しそうだ。・・・すると、シューという空気音と共に、膨らんだ部屋が元に戻る。
巨大に膨らんだドラや菌は、さっきドラえもんが作り出した「どら焼きを空気にする」菌に触れて、空気となっていたのである。全くの役立たずと思われた菌が、人類滅亡のピンチを回避してくれた瞬間である。
これで万歳と思いきや、ドラえもんが小遣いをはたいて買い込んだどら焼きもまた、ドラや菌の巻き添えとなって、空気になってしまったのであった。
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ときに、「どら焼き」という製品が細菌で作り出されたり、逆に空気になったりするのは、どういう仕組みなのだろうか。大判焼きではダメだったのだろうか。あんこはつぶ餡なのか、こし餡なのか・・。
色々と謎は深まるが、少なくとも行き当たりばったりに、細菌などは作っては駄目だと言う事だけはわかるお話なのである。
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