見出し画像

エリちゃんもO次郎もパーマンも推理する!/Fワールドは迷探偵だらけ③

「パーマン」
『パーマンは推理する』「小学五・六年生」1968年1月号/大全集4巻
「新オバケQ太郎」
『Qちゃんは名探偵』「小学五年生」1972年4月号/大全集3巻
「チンプイ」
『エリちゃんのおしゃぶり名探偵』「藤子不二雄ランド」1987年3月発行/大全集2巻

「Fワールドは迷探偵だらけ」だらけと題したシリーズの3本目。だらけといいつつ、まだドラえもん・のび太・スネ夫しか紹介できていないので、今回はさらに4人を一挙登場させる。前回までの記事は以下。

これまで見てきた「ドラえもん」では、犯人が結局自分だった、というオチのパターンが多く、F先生はこの意外性のある展開が好みだったのではないかと推察した。今回取り上げる3作品は、全て趣向が変わっていて、その他のパターンを見ることができる。

まずは「パーマン」から『パーマンは推理する』(1968年1月発表)

冒頭、みつ夫のメタっぽい発言から始まるのが特徴的。お正月号ということで、新年の決意を語っているのだが、かなりユニークなのでそのまま抜粋しておきたい。

昭和43年、年の初めに感じたこと…。パーマンも今までのように力一点張りでは限界があるということだ。これからの武器は頭脳だ!知恵だ!科学的な推理力であるべきだ! 僕も今後は推理で事件を解決しよう。銭形平次のように。ホームズのように。明智小五郎のように。そのためにこのマンガが詰まらなくなってもやむを得ない

力ではなく頭脳で戦う…。確かにこれまでの「パーマン」の趣旨とは違うので、マンガがつまらなくなる可能性も否定できないが・・・。

画像1


そこに妹のガン子がパーマンを呼ぶようにやってくる。大変なことが起きたらしい。みつ夫は、シャーロック・ホームズを引き合いに、ガン子に何も言うな当ててやると言い出す。

「君は須羽ガン子だ、当たっただろう」
「当り前よ」
「君はこれという仕事をしてない。つまり無職だ」
「子供だもん」
「君は女の子だ」
「それが推理なの。わたしがやってみようか。兄さんは今朝から漫画を読んで昼寝して、つまみ食いしてしかられたでしょ」
「ウヘー ガン子は天才だ。どうしてわかったか教えてくれ」
「兄さんのすることは、毎日決まってるんだもん」

と、お笑いコンビさながらの漫才が行われる。このくだり、何度読んでも笑ってしまう。ここでも「天才」という言葉が出てくるのだが、推理が決まると、人は「天才」と感じてしまうものなのかもしれない。

画像2


パーマンは、ある大金持ちの屋敷から、時価1000万円のダイヤが盗まれたという事件で呼び出される。さすがは「パーマン」、他のF作品の探偵ものと比べて、事件の規模は大きい。事件は発生直後で、まだ犯人は近くにいる。すぐに追いかければいいのだが、名探偵モードのパーマンは、じっくりと推理でこれを解決しようとする。

浅知恵のパーマンに推理に対して、屋敷の主人はイライラし始め、犯人は黒メガネでひげだらけの大男だったから、早く捕まえに行ってくれと急き立てる。パーマンは「それを早く言って欲しかった、これだから素人は困る」とプロっぽい発言をする。

先に犯人逮捕に動いていたパー子とブービーが、屋敷の主人の言った通りの外見の男を捕まえたのだが、またも浅知恵のパーマンは、その人は犯人ではない、そんなに目立った格好では逃げないはず、とその男を逃がしてしまう。・・・が、もちろんその怪しかった男が犯人なのであった

画像3

その後、「ダイヤを売るとしたら外国だ、だから国際空港でまってればきっと来る」ということで、空港の前で張り込むことに。この間犯人は、市中の宝石店でダイヤを売ろうとするのだが、怪しまれてそれは叶わないでいた。ここでもパーマンの推理は外している。

そこに先ほどの男が現れ、偶然ダイヤを落としたため、御用となる。パーマンは、自分の推理が当たったからここに現れたのだと言うと、犯人から、たまたま自分の家が空港方面だったに過ぎなかったのだと明かされる。悉くパーマンの推理は外れていたのである。


ところで作品冒頭、ガン子は10円玉を失くしていたので、事件だと騒いでいたのだが、この犯人はコピーロボットであることが判明。パーマンは、どうせ返すのならと、10円玉をガン子のベッドの下に転がせて、自分があたかも推理をしたかように、ガン子にベッドの下を探させる。

すると、お金を見つけたガン子は、「さすがパーマン尊敬しちゃう」と大喜び。しかもそれは10円ではなく100円玉であった。パーマンは金額を間違えてベッドの下に置いてしまっていたのである。

「推理はやめたっ。パーマンはやっぱり力でいく!力で!」

と、新年の決意はすぐに終焉を迎えたのだった。

画像4


続けて「新オバケのQ太郎」から『Qちゃんは名探偵』(1972年4月発表)を見ていこう。

こちらは、冤罪ものに挑戦。
キザ夫の持つ「グルトラマン」の小さなマイクロシールという貴重品を、正ちゃんが見て興奮しているところから始まる。キザ夫が席を離れた時に正ちゃんは大きなくクシャミをしてしまって、他のコレクションのシールもろとも部屋中に散乱させてしまう。慌てて探すのだが、マイクロシールだけはみつからない。当然、疑いの目を向けられる正ちゃん

家に帰ってきた正ちゃんからそれを聞いたQ太郎は激怒。「僕が無実を晴らす」ということで、キザ夫を家に連れてきて、正ちゃんの体と部屋を気の済むまで探させることにする。嫌がる正ちゃんは素っ裸にされ、部屋中探し回られるのだが、何とそこにマイクロシールが出てきてしまう。・・・これで疑惑は確信へと変わってしまう。

画像5

正ちゃんがキザ夫のシールを盗んだと、町中の噂となっていく。ところがQ太郎は、それでも正ちゃんを庇う。

「正ちゃんがそんなことする訳ないじゃないか。日本の人口が1億として、九千九百九十九万九千九百九十九人が正ちゃんを疑ったとしても、僕だけは信じるよ」

と非常に回りくどいが、二人の固い絆を感じさせる感動的なことを言うのである。

画像6

では真犯人は誰か。Q太郎ではさっぱりわからないので、ドロンパとO次郎に知恵を借りることにする。二人は「名探偵になりたかった」「ナルラッタ」と、それぞれ明智小五郎と銭形平次に変身して、事件解決に挑むことに。

先ほど紹介した「パーマン」で、みつ夫は推理と言えばということで、ホームズと明智小五郎と銭形平次の3人をを引き合いに出していたが、F先生の中でもこの3人が探偵三巨頭であるようだ。

画像7

ぞろぞろとキザ夫の家に向かう一同。「もういいよシールはあったんだから」と言うキザ夫をよそに早速明智と銭形の推理が始まる。

まず小五郎扮するドロンパが、謎は解けたと笑い出す。真相は実に簡単だと、正ちゃんが犯人ではないとすると、真犯人は外から来たことになる。しかし部屋は密室。閉まっていても入ってこれるのはすきま風かオバケしかない、・・・ということで、犯人はQ太郎ということになる。

犯人だと指摘されたQ太郎は、

「なあんだ、そうだったのか。みんな聞いた?犯人は僕だってよ」
「とんでもないっ!」

と、「ドラえもん」で何度か出てきた一人ノリツッコミが、ここでもバシリと決まる。F先生はこの手の漫才が本当にうまい

画像8

次にO次郎扮する銭形が、もう一度起こった事件のいきさつをやり直すと言い出す。実験用のシールにはO次郎が化けることに。面倒くさいな、と言いつつしっかりと演技をするキザ夫。するとはたして、部屋に入ってきたキザ夫がシールを踏んづける。どうやらそのままそれを正ちゃんの部屋に持っていったのだと推理をする。証拠はシールの裏の赤い糸。キザ夫の靴下からほつれた糸だったのである。

結局O次郎の推理が当たり、キザ夫は正ちゃんの名誉回復に街で宣伝して回ることになるのだった。これまでで最もまともな名探偵であったような気がする。

画像9


さて最後に「チンプイ」から『エリちゃんのおしゃぶり名探偵』を見てみよう。こちらはF先生最後の探偵ものだが、これまで描いてきた探偵ものの要素を掛け合わせつつ、ヘンテコな描写もある異色作となっている。

エリがいきなりチンプイにどこかに事件がないかと聞いてくる。どうやら「少女探偵テレサ」という探偵小説に影響されてのことらしい。この本の元ネタははっきりしないが、おそらくアメリカの人気児童向けミステリ『少女探偵ナンシー』あたりではないかと推察される。

画像10

エリは早速探偵気取。どこかで聞いた推理論を語り出す。

「推理するにあたって、まず大事なのはデータを集めること。普段から身の回りの観察を怠ってはならない」

極めて真っ当な理論だが、実際には推理がうまくいかない。そこでチンプイは科法ではなく、探偵用の道具を出してくる。それが「証拠ルーペ」と「推理おしゃぶり」である。

「証拠ルーペ」は、ドラえもんの「ホームズ・セット」における手がかりレンズと全く同じ働きをする。事件の手がかりだけが見えるというルーペである。「推理おしゃぶり」は、探偵の必須アイテムであるパイプの代わり、という位置付けのもの。このおしゃぶりを加えると、手がかりが順番に並び、並んだ手がかりの頭文字を繋げると犯人がわかるという。

画像11

エリとチンプイは互いに「シャーロック・ホームズくん」「ワトソンくん」と声を掛け合って町へと繰り出す。スネ美のちょっとした事件を解決し、次なる事件、ミニカー盗難事件に乗り出す二人。

宇奈木ヌル夫のミニカーコレクションが無くなり、内木が犯人として疑われているのである。事件の構造としては『Qちゃんは名探偵』の正ちゃんの冤罪事件とほぼ一緒。実に15年ぶりのリメイクネタとなる。

内木たち4人がミニカーで遊んでいると近くで火事があり、内木を残して野次馬に行ってしまう。そしてその間に、大事なミニカーが一台紛失してしまったのである。当然のごとく、疑われるのは内木君。町の噂にまでなっている。この辺りの流れも『Qちゃんは名探偵』と同一。

画像12

エリはヌル夫の部屋に入り、ルーペで部屋中を見回ると、「アハルオネハヌ」というキーワードを見つけ出す。そしておしゃぶりを咥えて、真犯人はヌル夫と母と姉、と推理し、聞き込みの結果、ことの真相が明らかとなる。

真相は、火事に向かう途中にヌル夫がミニカーをポケットに無意識に仕舞い、ズボンをクリーニングに出すときにママがそれを取り出し、姉がそれを踏んづけて腹が立ったので窓の外に投げ捨てた、という訳なのであった。

画像13

内木の汚名はこれで挽回。しかしその代わりに、エリが今でもおしゃぶりをしている、という噂が広まってしまうのであった。

パイプの代わりにおしゃぶりという設定が、読み返してみると何だか意味不明にも思えてくる。ヘンテコな作品なのである。

画像14

ここまで3回に渡って、藤子F作品に登場する名探偵たちを見てきた。そこから分かることは、おそらくF先生はシャーロック・ホームズが相当好きだったと思われ、個人としても名探偵に憧れただろうし、作品としても探偵ものをご自分でも描いてみたかったのではないかということだ。

疑っている人物が結局犯人だった、というパターンが非常に多いことも特徴的。ミステリの醍醐味は意外性であるため、まさか自分が犯人とは…、というような驚きが、F先生の好みであったのではないかと推察される。

探偵ものではないが、事件もの、ミステリ系の作品はまだまだあるので、今後も機を見て取り上げていきたい。

この記事が参加している募集

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?