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宇宙崩壊の危機? 数学的トラウマ『バイバイン』/ドラえもん名作劇場①

藤子Fノートでは、色々な切り口で藤子作品を次々とレビューしているが、どうしても「ドラえもん」だけは本数が多すぎて、紹介しきれない!(短編だけでも全部で1300本以上ある)

そんな悩みを解消するべく、誰もが「あ、聞いたことがある」というようなドラえもんの名作を、今後不定期でドンドンと紹介していくことにしたい。

題して「ドラえもん名作劇場」。その第一弾は、数学的な恐怖を子供たちに植え付けたあの名作を取り上げる。


『バイバイン』「小学三年生」1978年2月号/大全集8巻

冒頭、のび太が何やら悩んでいる。目の前の皿には栗まんじゅうが一つ。ドラえもんが声を掛けると、何やら哲学的な悩みを吐露する。

「この栗まんじゅう、食べるとうまいけど無くなるだろ。食べないと無くならないけど、うまくないだろ。食べても無くならないようにできないかなあ・・・」

どんな食べ物も、おいしく頂けば無くなるのは当然だが、そんな当たり前の事実を真面目に疑ってかかるのがのび太のいい所。・・・でもないか。

ドラえもんは「そんなことなら」と、「バイバイン」という薬を出す。ドラえもんが出す薬はロクなことにならないという法則(?)があるのだが、この薬も後に宇宙的規模のトンデモない事態を引き起こすことに。


「バイバイン」の効用は一滴食べ物にかけると、その後五分ごとに倍に増えていくというもの。一つしかない栗まんじゅうも、五分後には二つになり、そのまま五分置いておけばそれが四個となる。

のび太は四個が八個になって・・までは計算できるが、その倍は計算できずに「たくさんになる」と言っている。8×2=16が答えられないのび太に、そんな薬を貸すのはいかがなものだろうか。


ドラえもんはそんなのび太に危険を察知し、「危ないから」と言って貸すのを止めようとする。結果的にはこの判断は正しかったのだが、薬で増やした饅頭は残さず食べることを厳命して、結局貸し出してしまう。

はたして5分後、たった一個のまんじゅうはまるで細胞分裂の如く、プク・ムクムクムク・パカと二個になる。のび太はこれを見て、「増えた!感激!」と大喜び。

ドラえもんはこれを「仲良く一個ずつ食べよう」とまんじゅうに手を伸ばすのだが、のび太は「もう五分待って四個になるのを待とう」と止める。

ドラえもんは「どら焼きの方がよっぽどいいや」と言って、待たずに部屋を出て行ってしまう。この時、しっかりとのび太の行動を監視しておけば良かったのだが・・・。


四個に分裂したところで、のび太はまんじゅうを食べ始める。一個残しておけば無くならないと言って、パクパク食べていくが、いつの間にかお腹がいっぱいで食が進まなくなる。

目の前には残り四個の栗まんじゅう。ドラえもんを呼んでも近くにいないので、ママに食べてもらうことにするが、残り一個の所で手が止まってしまう。

のび太は残り一個を無理してでも食べようとするのだが、どうしても口に放り込めず、無情にも二つに分裂。

のび太はいつもの仲間、ジャイアン・スネ夫・しずちゃんを呼んでまんじゅうをひたすら食べさせるのだが、またまた一個だけ残して、みんなは満腹となってしまう。


たった一つだけなのに、0にならない限りパカパカと増殖していく栗まんじゅう。「どうしよう」と大慌てののび太をよそに、まんじゅうはドンドンと増えていく。これぞまさしく倍々ゲームである。

困り果てたのび太は、あろうことか、見なかったふりをするかの如く、まんじゅうを戸外のゴミ箱に捨ててしまう。自分の見えないところに置いても、何にも解決するわけでもないのに・・・。

このシーンは、大人になった今読み直すと、溜まっている仕事を無視している自分を思い出して、何やら後ろめたい気持ちになる。


ドラえもんが残さず食べたかと聞いてくる。「う、うん・・」とウソをつくのび太。ドラえもんは、「もし残ってたら大変なことになる所だった」と言って安堵する。ドキリとするのび太。

ここから、ドラえもんの数学的講座の始まり。いわゆる指数関数、ネズミ算の説明である。

まずドラえもんはのび太に、五分で倍になるペースだと一時間にいくつになると思うか尋ねる。のび太は八の倍を答えられない小学生なので、「さあ、百個ぐらい?」と考えが甘い。


ドラえもんは、「とんでもない!」と言って現実を説明する。

・1時間で4,096個
・2時間で16,777,216個
・それからわずか15分後に1億個を超える
・1日で地球が栗まんじゅうの底に埋まってしまう

指数関数は増え始めはゆったりペースなので、あまり想像できないが、ある一定の時間を経過すると、とてつもない上昇カーブを描くのだ。

のび太はそこで「ど、ど、どうしよう!」と最悪の事態をようやく直視し、ドラえもんに泣きつく。しかし時既に遅し。ゴミ箱からあふれ出した栗まんじゅうは、もはや数えきれないほどに増殖してしまっている。

ドラえもんは「えらいことをしてくれた!」と飛び上がり、「宇宙のかなたへ送るしかしようがない」と、栗まんじゅうをロケットで空へと飛ばすのであった。


子供の頃、本作を読んでゾッとしたものだが、どうやら同じように世の中の子供たちにインパクトを与えていたようで、今でもネット上で話題になる作品となっている。

特に理系脳の方の数学的好奇心に火を点ける作品のようで、実際に五分で倍々になっていくと、どのような事態となるのかしっかり計算している人たちがいる。

栗まんじゅうの体積を一定のモデルとして指数関数で計算するパターンが多いようだが、それによるとたった24時間で現在観測可能の宇宙が栗まんじゅうで埋まってしまう計算になると言う。

つまりドラえもんが宇宙に栗まんじゅうを送るというアイディアも、のび太が庭のゴミ箱に捨てることと、あまり変わらない愚策であったのだ。


ただ、物は考えようで、科学的見地から宇宙がまんじゅうで埋まることはないという意見もある。例えば・・・

・宇宙で増殖した栗まんじゅうは、自らの体積を支えられなくなりブラックホールとなるので、宇宙破壊までには至らない
・太陽の熱で溶けてしまう


また、そもそも宇宙に飛ばす以外に他にも手が無かったのか? と考える人たちもいる。色々とネットで読むところ、以下のようなアイディアが上がっていた。

・タイムふろしきで元の一個に戻す
・スモールライトで小さくして食べる
・四次元ポケットに詰め込む
・燃やしてしまう


また、まんじゅうを食べても、完全に消化しない限り分裂しそうなものだが、実際にはそうならない。つまりは、バイバインの効果は、一個のまんじゅうの個体が維持できていないと分裂しないものと考えられる。

であるならば、食べるまでもなく、足で踏みつぶしてグチャグチャにするなどの手段でも、もしかしたら最悪な状況には至らなかったような気もする。


・・・ま、いずれにせよ、読んだ後もずっと楽しめる、極めて「ドラえもん」らしいエピソードだと言えるだろう。



「ドラえもん」ミニ考察中です。


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