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カワルくんは努力でレギュラーを勝ち取る/藤子Fのベースボール⑤

「藤子Fのベースボール」と題して、「オバケのQ太郎」、「パーマン」。初期「ドラえもん」から野球を題材にした作品をいくつか取り上げてきた。

本シリーズはこの記事で最終回としたいが、本稿ではその他の藤子F作品の中から、「野球」をテーマとしている作品をざざっと紹介して、締めくくりとしたい。


「ロケットけんちゃん」『ふしぎなミットと野球ロボット』
「小学二年生」1961年9月号

僕が調べる限りだと、藤子F作品で野球を題材とした初めての作品である。まず本作を見ていく前に、「ロケットけんちゃん」とは何ぞやという方が大多数かと思うので、もしよろしければこちらの記事をご参照下さい。

「ロケットけんちゃん」は「小学一年生」から「小学二年生」、そして「小学三年生」と学年が繰り上がって連載が進んだ作品。このうち、「小学二年生」で掲載された作品は、久米みのるが原作者である。

今回の作品『ふしぎなミットと野球ロボット』は、久米原作なので、アイディアとしては藤子先生のオリジナルではないはず。勝手な想像だが、本作をきっかけに「野球」という題材が読者の子供たちの受けがいいことをF先生が知ったのではないだろうか。

野球ロボット

「ロケットけんちゃん」は、基本的に悪のロボットとの対決を描くお話だが、本作はその意味で少々強引な展開。

けんちゃんが野球をしているが、仲間外れにされてしまったまりちゃんが、太田博士の発明品「ボールを吸いつけるミット」を貰って名キャッチャーになる。

翌日ジャイアンツの試合を観戦するのだが、ミットを使って凡打をホームランにするなどの悪戯をする。タイアップだったのか、ジャイアンツの長嶋選手が実名で登場している。

すると野球観戦していたどこかの国の王女が突如現れて、まりちゃんのミットを首飾りを交換して欲しいと申し出る。さらに、キャッチャーを模した野球ロボットも唐突に登場。王女から首飾りとミットの両方を奪って飛んで行ってしまう。

野球ロボットは、バットで空を飛んだり、ボールを投げつけてきたり、「ストライク」と言うと青い目が光り、「アウト」と言うと赤い目が光るという、少し変わったロボットであった。

と、ここまでが導入部。「野球」と「ロボットアクション」を組み合わせるという強引なアイディアだが、王女のネックレスというアイテムを登場させて、何とか取りまとめている印象である。

長嶋は子供たちのヒーローだった

この後は野球ロボットのアジトである「野球島」に潜入し、アンパイヤーロボットをうまくかわして、野球場みたいな家に近づいていく。門を開けるには野球ゲームでホームランを打たなくてはならないなど、野球に寄せたアイディアがいくつか出てくる。

ラストは敵を倒し、野球ロボットを太田博士に改良してもらって、野球のアンパイヤーにするというハッピーエンドを迎えるのであった。



「バケルくん」『カワルついに名選手に』
「小学三年生」1976年3月号

「バケルくん」は、カワルくんが宇宙人から譲り受けたバケル一家の人形の姿に変身してひと騒動を起こす物語。カワルは勉強も運動も平凡以下の男の子だが、バケルに変身すると運動神経抜群のイケてる男子となる。

バケルに変身した後ではチヤホヤされるが、カワルのままではみんなにバカにされる存在なので、その格差に悩むことになる。「パーマン」とほぼ同じ構造である。


カワルは野球好きなのだが、下手くそなので、チームメイトから疎んじられている。例えば『みんなの広場をまもれ!』(74年4月)では、カワルは絶対に負けられない試合ということで、補欠に回されてしまう。

その後バケルに変身して試合に出ることになると、いきなりプロ並みのバッティングを見せてチヤホヤされる。そこで「自分の代わりにカワルを出してくれ」とお願いすると、「あんなヘタクソはダメだ」と断られてしまう。バケルとのギャップに悔しがるカワル

バケルだと大活躍


「バケルくん」の世界のジャイアンは、ゴン太という名前のガキ大将だが、彼もジャイアン同様に自分の野球チームの監督兼主将を担っている。そして下手くそなのに野球をしたがるカワルに手を焼いており、『カワルを名選手に』(74年9月)では、カワルに野球の試合があることを内緒にしたりしている。

ところが、ゴン太はバケル一家の長女ユメ代のことが大好きで、彼女の言う事はどうしても聞いてしまう弱みがある。カワルはユメ代を利用してゴン太を操り、何とかして試合に出して貰えるに画策する。

ユメ代の姿になって、ゴン太をプールに誘い、そこで「なぜカワルに意地悪をするのか」と問うと、ゴン太は

「いじわるじゃないよ。下手くそなくせに野球マニアだから困るんだ」

と、ズバリ指摘する。

藤子キャラは野球好きだが野球下手


『ユメ代さんけっこんして』(74年12月)でも、カワルの三振やエラーでまた負けたとゴン太は激怒。カワルは「長嶋や王でも誰でもスランプがある」と言い訳して、さらに切れられる。

ちなみにこの作品ではゴン太の宝物として、ジャイアンツの選手全員のサイン入りホールを持っていることが判明する。


野球下手だが野球好きのカワル。ユメ代の力を使って試合に出してもらっても結果を残せず、ゴン太や他のチームメイトにとってのお荷物となっている。

ここまではカワルはのび太と変わらないダメ人間なのだが、運動神経抜群のバケルと一緒に猛練習することで、野球の腕前が上達していく。

事実上の最終回である『カワルついに名選手に』では、守備もバッティングもかなりうまくなっている。これで次のシーズンではレギュラーを取れるはず。ところが、猛特訓の成果を見せる前に、練習したくらいで上手くなるわけがないと言われて、シーズン開幕戦に出して貰えない


何とかして実力を見せるために一計を案じる。「ボール人形」という野球が滅茶苦茶うまいキャラクターに変身して、練習中のゴン太に野球の腕前を示してスカウトされる。

そして試合。大チャンスでゴン太は「ボール人形」を代打に送る。バッターボックスに立った時に、カワルの姿に戻る。急な事態に慌てふためくゴン太たち。しかし、そこでカワルは「ガギューン」と大ホームランを打ち込む。

「今日の試合は、カワルのおかげで勝てたよ。今度からずっと四番を打ってくれ」

とゴン太たちに褒められるカワル。練習は裏切らなかったのである。

カワルは実力でレギュラーを勝ち取る


「バケルくん」は、凡人のカワルと天才のバケルのギャップで苦しむ物語である。その格差の象徴が「野球」であった。

野球が好きだが下手なので補欠扱いされてしまうカワル。ユメ代のコネを使ってレギュラーに使ってもらうも、結果を残せずチームの足を引っ張る。最初は「誰でもスランプがある」などと言い訳していたが、試合のない冬の期間にバケルと特訓をして、名プレイヤーへと変貌を遂げる。

そして事実上の最終回で、彼の努力の成果が示されて、自力でレギュラーを獲得する。自らの努力によって、カワルはバケルとのギャップを埋めたのであった。



「バウバウ大臣」『「ミウ電気」でホームランだ」』
「小学四年生」1976年11月号

のび太やカワルのように、野球が好きだが下手なのでチームメイトが困るという展開は、藤子作品ではひとつの定番となっている。

「バウバウ大臣」でも、主人公星野大二が、そんなキャラクター。連載開始直後の『おするばんなんかいいや』(76年10月)では、星野が野球に加わろうとすると、「今日は勝ちそうなんだ。お前やらなくていい」と言われて、補欠扱いされる。

藤子キャラの定番展開


なお、この世界のジャイアンはカバ口(川口)という男で、巨神軍という野球チームを主導している。

『「ミウ電気」で大かつやく』(76年6月)では、大二がチームに加わるために入団テストを受けるが、酷いプレーの連続で不合格。そこで隠れた力を引き出してくれる「ミウ電気」を使って、試合で大活躍する。

『「ミウ電気」でホームランだ」』(76年11月)では、珍しくカバ口から野球に誘われる。この時大二はバウバウたちに、「どうしようもない下手くそ」「球拾い専門」と評されている。

本作では、なんやかんやあって大二とバウバウの二人で野球をすることになり、お馴染みミウ電気でパワーアップして、相手チームを70対0の大差で打ち破っている。なお、この麻薬のような働きを見せるミウ電気については、また別の記事で考察予定である。

「野球はふたりで」


ここでは紹介しきれなかったが、他のF作品でもちょっとしたところで野球が作品の中に登場する。(「エスパー魔美」「ベラボー」など)

いかに野球が藤子マンガにおいて重要な意味を占めるか、わかるというものである。


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