空飛ぶって素敵『パーマンと東京一周空の旅』/「新パーマン」の幕開け③
パーマンの歴史、みつ夫とパー子の関係などなど、これまで繰り返し記事にしてきたので、何の話か訳わからんという方は、下記の記事をまずご参照ください。
・・・という訳で、「新パーマン」の幕開けと題して、1983年4月から再連載が始まった、その第一話を徹底紹介していく記事の第三弾。今回は「小学三年生」と「小学四年生」の二誌で同時掲載された作品を見ていく。
前回、前々回の記事で紹介した「新パーマン」第一話は、『パーマンはいそがしい』と『箱毛山の山賊』だったが、この二本ともパーマン活動が大変だというアプローチで描かれている。
ヒーローが主人公のお話なので、当然事件を解決するという展開も盛り込まれているのだが、普段は小学生であるみつ夫がヒーローであるパーマンとのギャップに悩むという、単純な勧善懲悪の物語として始まっていない点が特徴的である。
本作においても、素顔とヒーローの二つの顔を持つことによるギャップという要素は入り込んでいるのだが、他の二作と比べると単純に空を飛べるっていいなあという、子供っぽい感想が浮かぶお話となっている。
冒頭、みつ夫がコピーロボットに相談するところから始まる。コピーは自分のコピーなので、二人になっても相談ごとが解決するとは思えないが、既にコピーはみつ夫と別人格の友だち(パートナー)のような間柄になっている。
いきなり余談だが、アメコミ映画全盛の昨今、あらゆるタイプのヒーローが登場しているが、「パーマン」のようにコピーロボットの仕組みを導入している作品は見当たらない。
コピーロボットが意味するところは、ヒーロー活動している間の日常生活を補う存在が必要ということだ。特にパーマンの中身は小学生なので、日中は学校があってこれをサボることは不可能である。夜だって子供はしっかりと眠らなくてはならない。
そうした時に自分ソックリのロボットがいることで、代わりに授業に出てもらったりして、自分の時間を有効活用できる。コピーロボットは、ヒーロー活動にとって非常に重要な「時間」をカバーしてくれる存在なのである。
コピーロボットの発明こそが、藤子型ヒーローマンガである「パーマン」最大の功績であったように僕は考えている。
さて話を戻して、みつ夫がコピーに相談した内容は、ガールフレンドのみっちゃんの誕生日会を忘れていて、プレゼントをどうしようかというもの。
好きな子の誕生日をうっかり忘れて当日を迎える話は、「ドラえもん」の『しずちゃん心の秘密』や「キテレツ大百科」の『ネパール・オパール』があり、藤子作品としては定番の流れである。
そしてさらに定番通り、みつ夫の貯金は現在0円。今すぐにアイディアだけでみっちゃんを喜ばせるものを用意しなくてはならない。とんでもない難問である。二人で喧々諤々していると、みつ夫が、みっちゃんがパーマンに憧れていることを利用することを思いつき、何かを手作りする。
プレゼントを用意できたので、みっちゃんの誕生会に向かう。コピーも行きたがるが、二人のみつ夫が登場するわけにはいかないので、コピーはロボットに戻されるのだが、この時コピーを蔑ろにしたことで、後ほど意趣返しをされてしまうことになる。
みっちゃんの誕生会。サブはぞうのぬいぐるみ、カバ夫は手作りの巣箱をプレゼントする。みつ夫は手ぶらかと思いきや、ポケットから取り出したるは・・・
と書かれた、肩叩き券みたいなアイディアグッズであった。
パーマン大好きなみっちゃんは、これに大喜び。家に戻ったみつ夫にすぐに連絡を入れて、さっそく切符を使うという。パンパカパーンと張り切ってみっちゃんを迎えに行くパーマン。コピーは、ヤレヤレといった感じで見送る。
みっちゃんを背負って、東京一周の旅にスタート。みっちゃんにギュッとされてデレデレするパーマン。飛行中は、みっちゃんは凄いスピードだと歓声を上げ、新幹線に負ける119キロだと答えるパーマン。さらに力が6600倍になって小型の船を持ち上げられることも語られる。自然な流れでの設定説明である。
空を飛びながらのパーマンとみっちゃんの会話は興味深いポイントがあるので抜粋してみる。
この会話では、外の人から見て、みつ夫とパーマンは別人だという点を強調している。それに対して、パーマンの立場で一生懸命にみつ夫のバリューを高めようとしている。
みつ夫の命題は、パーマンの時の自分と素の自分とのギャップをどのように埋めるのか、という点であることが描かれているのである。
さて、暇しているコピーロボット。外を出歩るくと、カバ夫とサブから自分たちもパーマンと空を飛びたいと文句を言われる。そこで留守番ばかりさせられていたコピーは、これまでの意趣返しということで、カバ夫たちにも無料周遊券を作ってあげる。
みっちゃんとの楽しいひと時を終えて、戻ってきたパーマンに、さっそくカバ夫とサブが切符を見せる。コピーのヤツ・・と思うパーマン。
みっちゃんの時と違って、単なる乗り物扱いのパーマンは、盛り上がるカバ夫たちをよそに全然面白くない。すると、そこへブービーからの事件の連絡が入る。
パーマンの仕事なら仕方がないとカバ夫たちを納得させて、二人を高い塔に置いて事件へと向かう。この時、地面に下ろしてあげれば良かったのだが・・・まあ急いでいたのだろう。
パーマンはブービーとパー子と合流。今回の任務は、銀行ギャングが車で逃走している後を追って捕まえること。
パーマンのスピードは119キロなので、車の猛スピードには追い付けない。パーマンタッチをして倍速にすればあっという間だろうが、本作では敢えてその設定は使われない。(使うとあっという間に事件解決してしまう)
結局、パーマンたちは東名高速を名古屋まで追跡して、犯人を逮捕する。ヘトヘトになって家に戻ってくるパーマン。コピーロボットも、「ぐっすり休むといいよ」と優しく出迎えてくれる。
これで一件落着と思いきや、カバ夫とサブは高い高い塔の上に残されたまま。「誰か助けてえ!!」と泣け叫ぶしかないのであった。
本作最大の見どころは、みっちゃんを乗せて東京中を周回するシーンである。眼下に広がる東京湾や東京タワーや高層ビルを眺めながら、楽しく会話をしながら飛行する。こういうことしたい、と少年たちに思わせる名場面であると思う。
さて、「新パーマン」の幕開けとなる3作品をたっぷりと検証してきたが、今後も折を見て別の作品も見ていくことにしたい。お楽しみに・・。
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