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のび太、嫉妬に狂って人生壊しかける『透明シールで大ピンチ』/のび・しず・出木杉の三角関係②

野比のび太。

結婚相手がジャイ子からしずちゃんに変わって、明るい未来がやってくると思いきや、目の前に突如現れた恋のライバル・出木杉。相手として分が悪く、出木杉は秀才・スポーツ万能、性格もナイスな好青年で、しずちゃんは出木杉と話がしたくて仕方がないといった様子。

前回の記事では、出木杉君の(あまり知られていない)初登場回を丹念に追った。

登場からたった一頁で、のび太・しずちゃんの間に入ってきたことが明示され、さらに頭脳・体力・容姿・性格のいずれも優れていることが明らかとなった。

このお話は、のび太にとって恋のライバルが登場する重要な回だが、同時にドラえもんとの熱い友情や、自力で将来を掴み取るんだという志も描いている。

色々な意味でのび太の転換点となる一作なのであった。


なお、能力の高い出木杉君というキャラクターは、藤子先生にとって使い勝手が抜群だったようで、この作品(『ドラえもんとドラミちゃん』)を描いた翌月には、なんと一気に4誌に出木杉を登場させている。

リストにしたものが下記。

1979年10月号
「小学二年生」『強いペットがほしい』
ジャイアンもおべっかを使うほどの大型犬を飼っていることが判明
「小学三年生」『みたままベレーで天才画家』
スネ夫をも唸らすデッサンの能力が高いことが判明
「小学四年生」『税金鳥』
近所の子の家庭教師をして顕微鏡を買おうとしていることが判明
「テレビくん」『ヘソリンガスでしあわせに』
公園でしずちゃんとデートしているカットあり

この4作品で、高級ペット=裕福、絵心抜群、努力家という要素が一気に加わり、登場から2ヵ月でさらなる完璧人間へと進化を遂げている。

さらにこの翌月(1979年11月)では、出木杉君の初期代表作とも言える『超大作特撮映画「宇宙大魔神」』が発表されている。詳しい内容は以下の記事で確認してもらいたいが、ここでは出木杉の高い創作能力とリーダーシップが開花している。もはやスーパーマン状態なのである。


初登場から3カ月間の出演ラッシュから、いったん出演ペースを落としつつ、水面下では着々としずちゃんとの関係を深めていたようで、次に紹介するお話では、のび太の嫉妬の炎がさらにヒートアップしていく。


『透視シールで大ピンチ』
「小学六年生」1980年9月号/大全集8巻

のび太がしずちゃんと下校していると出木杉が話しかけてきて、しずかにノートを渡す。しずちゃんは「こんなにたくさん書いたの」とノートを開いて喜び、出木杉も「しずかくんもうんと書いてよ」と薦めている。

当然、何それ、となるのび太だが、二人はそれには答えずに、

「ヒ、ミ、ツ・・・・ウフフ」「アハハ」

と、楽しそうに二人の世界に入ってしまう。

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のび太は帰宅するなり、

「なにがアハハだ! いやなやつ!! あんなやつは人類の敵だ」

と激昂する。これを聞いたドラえもんは、出木杉君がどうして人類の敵になるのかを尋ねると、のび太は、

「決まってるだろ!! あいつなんか頭はいいしスポーツは万能だし男らしくて親切で・・・」

ちっとも悪いところがなさそうだが、のび太は加えてひと言、

「だから嫌いなんだよ」

と、ドラえもんには理解できないことを言う。(読者にはよくわかるが)

出木杉は褒める部分しか見当たらず、それらは全てのび太の逆張りである。圧倒的に負けているわけだ。悪口が見つからないので、好き・嫌いの感情でしか貶すことができないのである。

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さて、そんなのび太は、おじさんにプレゼントを貰ったお礼の手紙を書かなくてはならない。面倒くさがりながら手紙を書き、封書に入れて投函に行こうと思った矢先に、手紙の中で自分の名前を「のび犬」と書き間違えていないか気になる。

普通、どんな子でも自分の名前は間違えないものだが、のび太は既に『ライター芝居』『ポータブル国会』と二度、のび太をのび犬と書き間違える事件を起こしている。二度あることは三度あるのだ。

封筒を破って確かめることを躊躇すると、ドラえもんは「透視台」と「透視シール」というひみつ道具を出す。透明シールを手紙や本などに貼ると、中身が読めるようになるという代物である。

そこで封書にシールを貼ると、透視台に中身が見えてくる。拙い字の手紙が映り、名前の部分では「太」の字に「犬」の点も打ってある。のび太はこれを見て、

「両方に点があるなら、まあいいだろ」

と手紙を投函しに行ってしまう。・・まあいいのだろうか??

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さて、ドラえもんの道具を悪用させたら右に出る者がいないのび太は、この道具を使って、宿題のカンニングプランを思いつく。具体的には出木杉のノートにあらかじめシールを貼っておき、出木杉が宿題を終わってからそれを丸写ししようという魂胆である。

翌日、さっそくシール貼りを実行。帰り道には、相変わらずイチャイチャしているしずちゃんと出木杉を憎々しげに見るのび太。二人の会話から、しずちゃんが例のノートを出木杉のカバンの中に入れたようである。


帰宅後、しばらしくして、出木杉のノートを透視台に映すのび太。狙い通りに宿題は終わっており、次々とこれを写していく。すると、ノートの中に、日記のようなものが写し出される。

「交換日記!!」

とのび太は思わず声を上げる。しずちゃんと出木杉がコソコソしていたのは、二人で内緒の交換日記をしていたのである。

本作を読んで、自分の小学校時代にも交換日記が流行していたことを思い出す。交換日記は、メンバーに加わってない人間にとって、あんまりいい思い出ではない。合法的な仲間外れだからだ。なので、のび太も当然気分を大きく損ねる

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出木杉としずちゃんの交換日記の一部を抜粋して見よう。是非のび太の気持ちに感情移入して読んで欲しい。(一部日付は予測)

9月12日(金)文:出木杉
しずかくん 台風が逸れてよかったですね。でも僕の作った風力計を実験しようと思ったのが当てが外れてちょっぴり残念(後略)
9月13日(土)文:しずちゃん
出木杉さん、とっても面白いことがあったのよ。パパが大あくびをした口の中へカナブンが飛び込んで大騒ぎ(後略)
9月14日(日)文:出木杉
(前略)大好きな科学博物館へ行ってきました。何度見ても飽きることがありません。しずかくんの好きなものは何ですか?
9月15日(月)文:しずちゃん
ピアノ発表会が近いのでレッスンが大変なの。今日はのび太さんが宿題を聞きに来て練習できませんでした。好きなものはお風呂です
9月16日(火)文:出木杉
練習の邪魔になるようなら、うちへよこしなさい。教えます。でも、のび太くんが自分でやるのが一番いいんだけど

と、ここまで読み進めて、のび太の怒りは爆発。

「なんだなんだ!!二人して僕のことをバカにして!!」

と、透視台の上から交換日記に落書きを書き連ねるのび太。「バカ・あほ・マヌケ・ピーマン」と、子供じみた語彙力ではあるが・・。


翌日、しずちゃんが出木杉から渡されたノートを読むと、

「まあ酷い!!こんなことする人だと思わなかったわ!!」

とノートを捨てて半泣きで走って行ってしまう。出木杉が中を確かめると、のび太の書き殴った落書きがある。透視台に字を書くと、それがノートに写ってしまうようである。

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昼休み、出木杉はしずちゃんに「神に誓って落書きは僕じゃない」と話しかける。出木杉は「すごく下手くそな特徴的な字なので、年賀状の筆跡から鑑定すれば犯人がわかる」という。この会話をこっそり聞いていたのび太は震えあがる。

もし自分の落書きとバレたらしずちゃんとの仲は本当に終わってしまう。隙をみて証拠を揉み消そうと考えるが、そのまま放課後を迎えてしまう。しずちゃんと出木杉は出木杉の家へと入っていく。のび太、大ピンチ!

ところが、出木杉がノートを開くと落書きはすべて消えている。ちなみにこのシーンに登場した年賀状で「出木杉英才」というフルネームが明らかになる。

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のび太はどうしたんだろうと思いつつ帰宅すると、ドラえもんが透視台に書かれていたのび太の落書きを消した後であった。透視台の文字を消せば、ノートからも字が消える仕掛けらしい。

ドラえもんは「二度と貸さない!」と怒るが、図らずも道具を大事にしたことで、のび太の人生が狂うことも阻止できたのであった。

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のび太は自分の価値を下げずには済んだものの、そもそも出木杉としずちゃんの間で、のび太がピアノの練習を邪魔する人と認定されている点には注目しておきたい。客観的に見て、のび太の分がどんどん悪くなっているのだ。

この三角関係を、さらに時系列に沿って次稿で見ていく。


「ドラえもん」考察多数やっております。


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