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ピュアでおバカな「ネコ型ロボット」の2大恋愛!/藤子恋愛物語①

藤子Fキャラクターたちは、実は恋愛体質の持ち主ばかり。
恋をしては、フラれたり、成就したり、片思いのままだったりと、悲喜こもごもが繰り返されている。
そこで、恋するFキャラクターの恋愛模様を考察していく大型企画「藤子恋愛物語」シリーズを始動!
第一弾は、初期「ドラえもん」から、ドラえもん自身の恋バナをお届けします。


「ネコ型」ロボットだと言われない限り、やっぱりタヌキの造形がいちばん近そうなドラえもん。ただ、周囲からどう見られようが、本人の自覚は当然ネコである。

そういうことでドラえもんは、作中で何匹ものネコを好きになり、プレゼントを上げたり、相談に乗ってあげたり、フラれたりもする。本稿ではその中から、初期ドラにおけるドラえもんの恋愛2大エピソードを紹介したい。


『好きでたまらニャい』
「小学四年生」1971年2月号/大全集1巻

「ドラえもん」は初期の頃から恋愛に関するエピソードが非常に多い。初回からしてのび太はしずちゃんと結婚したいと顔を赤らめ、結婚相手はジャイ子だと聞いて本気で嫌がる。

その後もパパとママの恋愛や、のび太の淡い恋心を描いた『ああ、好き、好き、好き!』や、少し変化球だが『ロボ子が愛している』といった作品もある。

そんな中でロボットであるドラえもんも恋愛するエピソードも描かれるわけだが、まずは初期ドラのピュアで奥手な恋バナを見ていきたいと思う。

『好きでたまらニャい』は、連載2シーズン目の初期ドラ作品。まだドラえもんのキャラクターが頼りない側面を強調していた頃である。


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冒頭からドラえもんの様子が明らかにおかしい。ポヤーンと目の焦点が合ってないドラえもんは、「食欲がない」と言いながら無意識のうちにのび太の分のおかずも食べてしまう。

「顔でも洗え」と洗面器の水をのび太が持っていくと、「どうもありがと」と言ってのび太の顔に水をかける。そんな挙動のおかしいドラえもんを見てのび太は、

「来た時から中古ロボットだからな。そろそろ壊れるのかな?」

と率直な感想を述べる。

そして部屋に入ると、化け猫のシルエットが現れて、「ばけネコ!」と驚かされる。その正体はボール紙の耳をつけたドラえもんであった。何か悩みを抱えている様子のドラえもんに、のび太は「僕にできることならなんでもやる」と声を掛ける。

するとなんとドラえもんに、好きなネコができたというのである。それを聞いて笑いを堪えるのに必死ののび太。どうにか我慢して「相手はどう思っているのか」と聞くと、「どうせ僕なんか」と自信が持てないドラえもん。

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お相手となるネコは可愛い白猫で、屋根の上で丸くなって寝ている。「はっきり聞いてみろ」とのび太に背中を押されて、ブルブルガタガタと怪しげに近づいていくドラえもん。

なんとか接近してたどたどしいネコ語で話しかけるが、白猫の反応が鈍い。ドラえもんはそこから逃げ出してしまい、家に戻ると大きなヤスリで体を削ったりハンマーで自らの頭を殴ったりする。「落ち着け」と制止するのび太。

どうやら会話が弾まなかったようなのだが、それはどんな内容だったのか。ドラえもんは、

「あけましておめでとう。今日は中ぐらいのお天気ですね。なぜ中ぐらいかと言えば、特にいい天気でもなく、さりとて悪くもないです」

と、中途半端な天気の話をしたらしい。それに対して白猫は、

「デブはいや。風船みたいな顔は嫌い」

という目つきで見たのだという。完全にドラえもんの空想の成せる技だが、

「僕はもう、壊れてしまいたい」

と号泣するのであった。その後のドラえもんからは想像もつかないようなアホっぷりなのである。

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普段は励まされる側ののび太は、なぜか自信満々に「うまくいくようにコーチをしてやる」と申し出る。「ほんとかい!」と頼りにしてしまうドラえもん。完全に立場が逆転している。

そこでのび太は「プレゼントをするといい」と言って、台所から鰹節を一本見つけて箱に入れて綺麗にラッピングする。そしてプレゼントできっかけを作った後は、面白い話で興味を引き付けようという作戦である。

ここで会話の練習をしようということになるが、口下手のドラえもんは、また中くらいの天気の話や、公害の話題、自分がどら焼きを好きだという話などをしてくるので、さすがののび太もトホホの反応

ドラえもんは「やはり僕なんか」と言って、ダイナマイトに火をつけようとする。焦るのび太は「口より真心だ」と慰め、「自信を持て!僕は世界一だと!」と強く励ます作戦に出る。

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乗せられやすいドラえもんは、「科学文明の二十二世紀から来たんだ」と自信を取り戻して、意気揚々と再アタックに向かう。

しかし、その途中で初期ドラの敵であるスネ夫から「ウスラデブ」と悪口を言われて、また泣き出してしまう。ちなみにこの時スネ夫の手にはスケート靴を持っていることにご注目。


埒が明かないということで、のび太は見本を示すことに。しずちゃんを実験台に自己紹介の流れ、プレゼントの渡し方、お世辞の挿入、そして「君のたならどんなことでもしてあげる」という決め言葉などをドラえもんに見せる。

するとしずちゃんはのび太の決め言葉を真に受けて、「ほんと!」と喜び、誰かに電話して「留守番ができたから出掛けられるわ」などと言っている。「留守番は誰のことか」とのび太が聞くと、しずちゃんは

「もちろんあんたよ。何でもしてくれるっていったでしょ」

愛情のかけらもない言葉を投げかけ、何とスネ夫と一緒にスケートをしに出掛けて行ってしまう。ここで、のび太はフェードアウト・・。

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結局、一人で白猫の元へと向かうドラえもん。ところが今度は白猫側から「ニャーゴ(言いたいことがあればいいなさいよ)」と話しかけてくれ、「ニャゴン(お友達に?いいわよ)」とドラえもんを受け入れてくれる。

これには大喜びのドラえもん。二人(二匹?)は完全にネコ仲間となって、「フニャーゴ」と屋根の上を飛び回り、のび太が留守番をしているしずちゃんの家の屋根で高らかに合唱するのであった。

ドラえもんの初めての恋は、見事に成就を遂げたのである。

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この作品はロボットのくせに恋をするというバカバカしさ、恋の指南役を買って出るも失敗に終わるのび太、そして何より人間味あふれる恋模様のドラえもんを、終始ドタバタで描き切った傑作コメディとなっている。

ひみつ道具が一切出てこない(巨大なハンマーやヤスリやダイナマイト除く)展開としても、かなり珍しい作品なのではないかと思う。


『すてきなミイちゃん』
「小学三年生」1973年2月号/大全集3巻

さて『好きでたまらニャい』では、一目惚れした白猫と仲良くなったドラえもん。ところが、それからちょうど2年後の本作では、また別のネコを好きになってしまう

どうやら前の白猫とは友だち以上の関係に発展しなかったようだが、そもそもリアルなネコとネコ型ロボットが正式なカップルとなるのは難しかったのかもしれない。

そんな経験を踏まえたのか、次なるドラえもんの恋の相手はなんとおもちゃのネコ。まあこれならば、つり合いは取れるのかもしれないが・・。


またしても冒頭、ドラえもんは様子がおかしい。今度の相手についてのび太に語り出す。

「花にたとえればバラかボタンか・・。輝く太陽のような、きらめく星のような・・」

と大絶賛。続けて、

「一目見た途端、目がくらみ足は震え、それからというもの寝ても覚めても忘れることができない」

と語り、それで大好きなどら焼きにも手がつかない状態であるらしい。

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『好きでたまらニャい』同様、のび太が一肌脱ぐことにするが、ドラえもんに案内してもらった先にはスイッチで動くおもちゃのネコが転がっている。おもちゃの相手などできるわけがないのび太は、

「まっ、一人で適当にやんな」

と呆れて行ってしまう。こののび太の判断は、まあ仕方がない。

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さて、おもちゃとの恋をどのように成就させていくのか。ナンセンスなやりとりが、ここから数ページ続いていく。

おもちゃに対して「大好きだ」と告げるドラえもんは、自らおもちゃのスイッチを入れてピイと鳴かせると、「えっ好きだって!」と飛び上がって喜ぶ。再びスイッチを押してミイと鳴かせ「友だちになってくれる?」と一方的に解釈する。

「ばんざあい。すぐデートしよう」と言ってネコのおもちゃを持っていこうとすると、おもちゃの持ち主である子供が見つけて泣き出して、その親に取り返されてしまう。

ドラえもんは、

「僕らは愛し合っているんだよ。どうかお願いです。ミイちゃんを僕のお嫁に下さい。きっと幸せにしますから」

と親の許しと得ようと懇願するドラえもん。お願いされる方は、何を言っているのか全く理解できない。もっとも、読者である私たちも理解不能ではあるが・・・。

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そこに、おもちゃのネコを犬が咥えていってしまう誘拐事件が発生。激怒したドラえもんは「ウヌーッ」と走って追いかけて、犬からミイちゃんを取り戻して抱きかかえる。

「例え僕が壊れても、ミイちゃんを守ってみせるぞ」

と、なぜかドラえもんの恋心はいつも命がけの様相なのである。

この一部始終を見ていたおもちゃの持ち主家族は、それならばとドラえもんにあげることする。バカバカしかったが、ドラえもんの情熱は届いたのである。

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さて、ここまでドラえもんのひみつ道具は登場していない。ところがここから、未来の技術をフル活用して、ミイちゃんのロボット化を推進する。

まずミイちゃんをスイッチで動かして「甘いものは嫌いなの? かつおぶしが食べたい?よしよし」と自作自演する。「おもちゃが食べるわけない」とのび太がツッコミを入れると、いつの間にか「自動えさたべ装置」を付けていて、ミイちゃんはガリガリと鰹節をかじり出すのであった。

ドラえもんは「色々くっ付けて完全なネコ型ロボットにしよう」と思いつき、以下の装置をミイちゃんに取りつける。

・自動歩き回り装置
・自動木登り装置
・自動ひっかき装置
・自動おしゃべる装置

スイッチも外されたミイちゃんは一人で立ち上がり「ココハドコ?キミダレ?」と質問をしてくる。ドラえもんはニコニコしながら「ぼくドラえもん。君のおむこさん」と答えると、おもちゃのネコは「イヤダナア、オムコサンダナンテ」と笑い出す。。

「ボク男ダヨ」

と衝撃的な事実を告げる。なんとオス設定のおもちゃだったのである。

号泣するドラえもんに、のび太は「泣くなよ!人生には色んなことがあるもんだ」と慰める。完全なネコ型ロボットとなったミイちゃんは、外の木の上を跳ね回って自由を謳歌するのであった。

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初期のドラえもんの恋愛は、これで一勝一敗。連載が進むと多くのガールフレンドができて別のドラマも生まれていくのだが、またそれは別の機会で紹介したい。

「ドラえもん」の考察100本以上! 索引からどうぞ~


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