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NHKを〇っとばせ!『のび太放送協会』/TV局をはじめたよ②

前回に引き続き「TV局をはじめたよ」シリーズの第二弾。

前回の記事で「子供たちの将来なりたいもの」ランキングでユーチューバーが実質一位だった話を導入にして、実は動画サイト全盛以前は、テレビに出たい子供たちが多かったのではないかという仮説を述べた。

子供たちは「テレビに出たい、テレビ番組を作りたい」という欲求が昔からあって、今はそれがYouTubeやTikTokなどの動画サイトに流れているのではないか、という考察である。

その証左として、子供心を掴む天才だった藤子先生はTV局を作って好きな番組を放送するお話をたくさん描かれている。

その第一弾の記事が以下である


本稿では引き続き「ドラえもん」からTV局を作るお話を紹介していく。なぜ同じようなテーマの作品を書いたのか、そして本作がなぜ単行本未収録となったのかなどを解き明かしていきたい。

「ドラえもん」『のび太放送協会』(てんコミ未収録)
「小学四年生」1975年10月号/大全集5巻

前回の記事で紹介した『のび太朗 テレビ出えん』(『テレビ局をはじめたよ』)は、1974年2月に発表されており、たった1年半の間隔で同一テーマの作品を描いている。

『のび太朗 テレビ出えん』では、スネ夫的キャラクターである木鳥がテレビ出演をして、それをのび太朗が羨み、ドラミちゃんがテレビ局を作ったことから始まる物語だった。

本作ではやはりスネ夫がきっかけだが、少し入り方が違う。空き地でジャイアンがタレントになる夢を語っていると、スネ夫が「僕はテレビのディレクターになる」と言い出す。タレントになるのではなく、タレントを動かして40%の視聴率を稼ぐ番組を作りたいのだという。

この夢を聞いて、しずちゃんも「目の付け所が違うわね」と感心するのだが、それを見ていたのび太は「僕なんかテレビ局の社長になるぞ」と、風呂敷を広げる。

「タレントもディレクターも思い通りに動かして、朝から晩まで僕が見たい番組だけを放送するんだ」と雄弁に語り、のび太は満足げだが、皆は呆れて声も出せない。

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ところがこのアイディアに対して、ドラえもんは大乗り気。「今すぐ始めよう」と言って、「テレビ局セット」ー撮影用のカメラと「チャンネル割りこみスイッチ」という小さなアンテナのようなものを出す。このスイッチをテレビに付けると、カメラで撮影した映像がそのまま流れる仕組みである。

のび太はこのスイッチをしずちゃんやスネ夫やジャイアンたちに渡して、テレビにつけてとお願いして回る。インフラが整ったところで、NHK(のび太放送協会)が発足し、ドラえもんと「番組編成会議」を始める。

前作『のび太朗 テレビ出えん』ではドラミちゃんが「うんと面白い番組を放送しようね」と抱負を語っていたが、本作ではのび太が「うんと面白い放送しようぜ」と意気込む。

ちなみに前回出たアイディアは下記。
歌番組/ドラマ/落語や漫才/クイズ/ニュースや教育番組/お母さん向きに料理番組

今回はこんな感じ。
歌番組/クイズ/怪獣が出てくるもの

ところが、きちんとした番組にするには、本物の歌手(ヒデキorヒロミ)を呼ぶことが必要だし、クイズには賞金が要るし、怪獣ものもぬいぐるみやセットに費用が掛かる。つまり、何事にもお金が必要なのである。

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そこでのび太はスポンサーを探そうと思いつく。

「テレビってのはスポンサーがお金を出して番組を買うんだよ」

と、端的にテレビの仕組みを語るのび太・・。全くその通りである。


そこでのび太とドラえもんは商店街を一回りして、スポンサーを探すことにする。ところが、「メショメルテレビ」の看板を出す電気店も、桑原書店も植竹食堂も亀山レコードも、今で十分流行っているのでスポンサーに興味がないという回答。

そこで作戦を修正し、なるべく暇そうな店を探す。で、たどり着いたのが、「間津井ベーカリー」というパンとお菓子を売っているお店。

名前もさることながら、かなりヤバそうなお店で、まず入口に分かりやすく巨大な蜘蛛の巣が張られており、しかめっ面して店番をしている主人は、食品を売っている店としては禁じ手のパイプを吸っている。

スポンサーの話を持ち掛けると、「わしゃそんなことなら大好きだ、是非スポンサーにしてくれ」と快諾するのだが、お金がいると聞いて、急に萎える。このオヤジはスポンサードの意味を知らなかったようである。。

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結局500円をもらうのだが、これでは番組は作れない。そして家に帰ると、何も始まらないと言って友人たちから抗議の電話が殺到している。急いで何かを流さないと・・。

すると先ほどの間津井ベーカリーの主人がスーツに着替えて現れる。手には映写機とスクリーン。「映画をやりなさい、名画げき場だ」と、グッドなアイディアを提案してくる。

早速準備をして名画を放送することに。手元には現在の視聴率がすぐにわかるメーターも用意され、今は60%を表示している。「スポンサーとしては100%を望みたい」と夢を語る。


さて、用意された名画とはどんなものか。放映前に店長が登場して解説を始める。

「これは私が撮った1970年度八ミリ芸術大作です」

何と、この人が5年前に撮った自主映画らしい。続けて、

「男の顔だけを5時間映します。その表情が人生の喜びや悩み、悲しみ、怒りなどを現すのです。凄いですねえ。怖いですねえ」

最後の方の口調は完全に淀川長治(ヨドチョー)節そのもの。しかも5時間男の表情だけの映画とは一体・・?
(*淀川長治をご存じない方は適当にWiki下さい)

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映写がスタートするが、皆さんが思った通り、主人の顔がアップで写し出され、笑ったり悲しんだり悩んだり?怒ったりと表情を変えていく。のび太はこれを見て即座に「こんなのが5時間続くの?」と疑問を呈する。

「そう!芸術的だろう」

と満足そうな店長。

するとみるみるうちに視聴率が下がっていき、あっという間に0%に。これをみた主人は「何のために大金を出したのか。金を返してもらおう」と抗議してくる。

ていうか、0%にしたのは自分のせいだし、500円を大金と言って返せと難癖を付けてくる、完全に関わってはいけないタイプの人間なのである。そして「今のは映画がつまらなかったから」と、のび太が真っ当に反論すると、「僕の芸術をけなすのかっ」と顔を真っ赤にして怒り出す始末。

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するとそこにスネ夫が登場。「僕に任せろよ。いいアイディア持っているんだ」と何だか頼もしい。はたしてそのアイディアとは、「ビックリカメラ」。今でいう「ドッキリ」である。

早速番組制作を開始。のび太のママを尋ねてきた女性を犬人間が出迎えて、驚かせる。すると視聴率が上がり始める

次に公園のトイレに「本日休み」の張り紙をして、慌てて駆け込んでくる男性を引きかえらせる。そしてサイフを道端に落として置き、それをジャイアンが拾うと中から「よくばり」という紙が出てくる。なかなか良いアイディアなのである。


ところがコケにされたジャイアンは怒り狂ってのび太とスネ夫に殴りかかる。このガチな喧嘩シーンによって視聴率は50%まで上昇する。しかしボロボロにされたのび太は、出演料(500円)を払うからと言って何とかジャイアンの機嫌を取りなす。

家に戻り、番組はジャイアンリサイタル中継に変更を余儀なくされる。ジャイアンがいつもの調子で歌い出すと、視聴率はグングン下がっていく。そしてまたまた0%に。店長は、再び「金を返せ」とご立腹。

スポンサーの言いなりの番組だったり、コネみたいなもので出演者を決めては駄目だということが、本作を見ているとよーくわかる。

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ジャイアンの下手くそな歌で良いなら、自分たちも出させろとしずちゃんや他の友人たちが集まってくる。そこでのび太は、テレビに出たいなら「出演料100円ずついただきます」と皆に声を掛け、「そんなのあるかっ」と文句を言われるのであった。


お金を払ってテレビに出る・・。これは需要と供給を考えたらアリだろう。そこまで露骨なものはないかもしれないが、低賃金でアイドル活動してテレビに出たり、事務所や養成所にお金を払ってタレント活動したりするのと、それほど変わらない発想のような気がする。

『のび太朗 テレビ出えん』と本作では、テレビの始めるきっかけは微妙に異なっていたが、テレビ番組のジャンルだったり、スポンサーの横暴だったり、子供たちはみんなテレビに出たいと思っていたりと、中身面はよく似ている。

特にスポンサーなのに自分が出たがりのお菓子屋の主人が、2作とも出てきたが、その印象もかなり似通っている。(本作の方が強烈だが)

同じ話を2本収録しても仕方がないということで、比較検討して「ドラミちゃん」の作品を「ドラえもん」に書き直して単行本に収録したものと思われる。

なぜ似たような話を続けて書いた理由ははっきりしないが、最初に描いた作品が当時番外編の扱いだった「ドラミちゃん」だったので、これを「ドラえもん」でリメイクしたものと予想される。


さて、2回続けて「ドラえもん」のテレビ局ネタを紹介したが、この2作に大きく影響を与えた元ネタのような作品が存在している。次稿ではそうした作品を見ていく。


「ドラえもん」考察120本以上やってます。


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