読書習慣は「読み聞かせ」から『人間ブックカバー』/ドラえもんミニ考察⑨
「ドラえもん」の短編の中からお気に入りの佳作を選んでプチ考察していくシリーズの第九弾。
活字アレルギーののび太が、いかにして読書の楽しみを知ったのか? その心変わりについて見ていこう。
『人間ブックカバー』(初出:人間ブックカバーでモーレツ読書)
「小学三年生」1982年4月号/大全集13巻
のび太、活字アレルギーと「安岡」
漫画しか読まない人がいるとして、出された宿題は活字本の読書感想文を書くこと。活字ばかりの本を持っていないのび太は、しずちゃんから「赤毛のアン」を借りてくる。
のび太は活字ばかりの本を読もうとするとどうなるのか。
①本を手に取っただけで気が重~くなる
②ページをめくっただけで頭がズキンとする
③二、三行読むと、目が回り始める
④一ページも読まないうちに眠っちゃう
と、完璧な活字アレルギーなのである。
ちなみにしずちゃんから借りた「赤毛のアン」の表紙には、モンゴメリー作と正しい名前で表記されているが、訳者は聞きなれない「安岡みえ子」という名前書かれている。
この「安岡」は知る人ぞ知る「ドラえもん」頻出のモブ名の一つで、主に「安岡医院」として幾度となく電柱の看板などで登場している。どうやらスタッフの名前だったという説が有力だ。
読書家・出木杉のオススメ本とは?
自力で活字を読めないのび太にドラえもんは「人間ブックカバー」という道具を出す。これを人間に被せると、その人が読んだ本であれば思い出して朗読してくれるというもの。身近な人間をオーディオブックにするような道具と考えれば良いだろうか。
最初のび太自身で実験するが、最近読んだ本は「怪星王ドガチャーン」という漫画。バトル漫画なので、擬態語が多くて絵がないとさっぱりわからない。
これは便利ということでしずちゃんにお願いにいくが、ピアノのレッスンもあるし本になるなんて嫌、と断固拒否。
続けて「人間図書館」出木杉君のところへお願いに行くのび太。まずは読書感想文にオススメの本がないかと尋ねると、以下の作品をピックアップしてくれる。
・「アンクルトムの小屋」
出木杉解説)昔のアメリカの奴隷制度を鋭くえぐった小説。哀れなトムの惨めな一生を描く
のび太感想)暗い話嫌い
・「星の王子さま」(テグジュペリ)
のび太感想)童話?なんか幼稚っぽい感じ・・。
・「銀河鉄道の夜」(宮沢賢治)
のび太感想)テレビで見たからいい。999(スリーナイン)だろ
難癖つけてくるのび太に疲れてくる出木杉だったが、最後に「十五少年漂流記」を推薦してくる。
しかし、小学三年生にして凄まじい読書量を誇る出木杉君。成績優秀なわけである。
出木杉を口説け!
読む本はジュール・ヴェルヌの「十五少年漂流記」に決まったが、出木杉は自分が本になると聞いて、こちらも絶対的に拒否。
しかし未来の世界に行ってみたいと言っていた事を思い出したのび太は、本になることと引き換えに、タイムマシンで未来の世界へ遊びに連れていく約束をする。
未来からやってきた設定の「ドラえもん」だが、実は未来が描かれているシーンやエピソードはそれほど多くない。本作では出木杉が未来の町を巡るシーンがたった一コマだけ描かれる。
描写としては『未来の町にただ一人』の世界観を踏襲した奥行きのあるモダンな街並みを背景にしている。案内役としてドラミちゃんが先導して歩いているのが見える。
出木杉は大興奮して、「面白かった…」と感想を述べるのであった。
「十五少年漂流記」に夢中!
約束通りに出木杉がオーディオブックとなって、「十五少年漂流記」を読み聞かせしてくれる。子供たちだけで大海に出てしまい、遭難し、無人島に到着する。次から次へと襲い掛かる災難に、のび太は熱中して聞き続ける。
聞いているとママにお使いに頼まれ、「今いいとこなのに」と不満を垂らす。シオリを挟んで中断。
帰ってきて続きを聞くが、出木杉はおしっこに行きたくなったり、声が枯れてきたりする。どうやら、オーディオブックとしての限界が来たようである。
のび太はその続きが気になって仕方がない。出木杉から本を借り受ける。
そしてその晩、遅くまで机に電気を点けて「十五少年漂流記」を読み進めていくのび太。一ページ読むと眠ってしまう、なんてこともなく、脇目も振らずに熱中している様子。
ママが「夜更かししちゃいけません」と注意しにあがってくるが、ドラえもんは「せっかく本の面白さがわかったところだから・・・」とママに説くのであった。
のび太の熱中して読書をする様子が、いかにも集中しているように描かれている。読書の楽しみを始めて知ったのび太の描写は、本好きにはたまらない一コマとなった。
ところでわが子(6歳)は、それこそ生まれてすぐから読み聞かせを続けてきて、まんまと読書が苦にならないタイプに成長した。活字本だけでなく、マンガ(主に藤子不二雄)も読んでいる。彼を見ていると、まずは耳から物語を吸収させることの重要さを肌で感じる次第である。
ドラえもん考察100本以上!!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?