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オバケも幽霊が怖い?『ゆうれい村』/しかしユーレイはいない②

超常現象をネタにした作品を数多く発表している藤子F先生。不思議なことが大好きな先生は、作中では超常現象は実際に起こるという世界観で描かれていることが多い。

ところが、「幽霊」や「霊魂」といったものについては、懐疑的であったからか、その他の超常現象ネタとは逆に、「いるかも」→「やっぱいない」と展開する話が主たるパターンとなっている。

下の記事では、そのあたりを書いているので、是非こちらも。


さて、「しかしユーレイはいない」シリーズ第二弾は、天下一品のギャグマンガ「オバQ」の『ゆうれい村』を見ていきたい。

本作は正直たいした幽霊ネタではないのだが、オバケを主人公にしながら「ゆうれい」の話を書くという点が興味深かったので取り上げてみた。

「オバケのQ太郎」『ゆうれい村』
「月刊別冊少年サンデー」1965年6月号/大全集2巻

「オバケのQ太郎」は、「週刊少年サンデー」で連載を初めて、その後学習誌にも拡大していった大ヒット作だが、その人気の余波でサンデーの別冊や臨時増刊などでも、積極的にオバQを発表していた。そうした媒体では、週刊連載よりも少しだけ分量の多い<特別編>が描かれていた。本作はそうした一本である。

特別編にありがちだが、いきなりQ太郎と正一がどこかへ旅する所から始まる。出発の馴れ初めをカットして、いきなり本題から入ろうという構成を取っている。

以前の記事で紹介した『戦争はおわったのに』も、<特別編>であったが、やはりいきなり南の島に二人で向かうことから始まっていた。


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Q太郎と正ちゃんの二人は山奥にハイキング?に行くが、持ってきた缶詰は、缶切りを持ってこなかったので開けられず、持ってきた水筒には水をいれるのを忘れて中は空っぽ。喉も乾いて、腹も減って、早く二人は帰り道を見つけて、町へと降りることにする。

道を探していると、Q太郎は山奥に向かう前に、地域の住民から、「この山では夜になると幽霊が笛を吹く」と聞いたことを思い出す。その時は笑い飛ばしていたが、思い出してゾクッと身震いしてしまう。

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するとどこからか、笛の音が聞こえてくる。音の出先を追うと、地面の下で吹いているようだ。これはオバケの仕業に違いない。Q太郎は、

「で、で、で、出たあ~。オバケ!」

と驚き、その場から逃げだす。その様子を見ていた正ちゃんは、オバケは自分じゃないか、と冷静に突っ込む。


考えてみれば不思議な話で、超常現象そのものであるオバケが、自分以外のの超常現象に対してビビるというねじれが起きている。

これは、超常現象を日常化させるというコンセプトの「オバQ」が、その目的を達成していることを意味する。連載が進むにつれてQ太郎の存在はすっかり日常化しており、新たなオバケ(=非日常)に対して、まるで人間のように驚いてしまうのである。


正ちゃんは「きれいな川を見つけた」と言って、Q太郎を連れて行く。ところが、その川の水が血の色へと変化する。地下からの笛の音と、血に染まる川、どうやらこの山では何かが起きているのは間違いない。

怖くて仕方ない正ちゃんだったが、急に開き直って、「ゆうれいを捕まえてやる」と川の上流に進んでいく。上流では崖の割れ目から水が流れ出ている。そこで、割れ目から洞窟に入りこんで、さらに水源を追っていく。

すると笛の音が聞こえてきて、さらに奥に進むと開けた先に、人気のいない村が現れる。Qちゃんは「怖いよ、帰ろう」と、完全に自分がオバケであることを忘れている反応をする。

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「矢でも鉄砲でも持ってこい」と正ちゃんは息巻くが、すると本物の矢が飛んでくる。時代劇の格好をした人々が大勢現われて、正ちゃんたちは捕まってしまう。

そして、平山盛(たいらのやまもり)公という人物の前に引っ立てられる正ちゃんたち。「源氏の回し者か?」と頓珍漢なことを質問される。何やら会話が噛み合わないまま、正ちゃんたちのあらぬ疑いは晴れたようである。

山盛の部屋へと連れて行かれる二人。外の世界の話を聞きたいのだと言う。逆に何者なのかと問うと、山盛は以下のように答える。

・平山盛は、平清盛の子孫
・先祖は、源氏との戦いに敗れてこの山の中まで逃げてきた
・長い年月、源氏の目を逃れてきたが、いつかは天下を取り戻すつもり
・平家の旗を赤く染めているので、その汁で川が赤くなった

山奥の幽霊の正体は、平家の落ち武者の子孫たちで、血に染まった川の色は、平家の赤旗の着色料なのであった。

やはり幽霊はいない、というのが本作のポイントであるが、その正体が平家の落ち武者という点がかなりユニークである。実は次稿で紹介する話が、またも平家絡みとなっているので、藤子先生の中で幽霊というと、落ち武者のイメージがあるのかもしれない。

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さて、幽霊のネタバラシがされてしまうと、その後の展開はいつものドタバタコメディと化す。

源氏を倒したい平家の熱意に反して、すっかり源氏は姿を消し、今の首相は佐藤栄作だと伝えると、「そんな訳がない」と信じない。床屋のおっさんが源二という名前だと言うと、そいつが仇だと言い出して、攻め込むつもりである。

Qちゃん正ちゃんは平家の村を抜け出し、Qちゃんは一足先に帰って、床屋の源二を逃がすことにする。正ちゃんは隠れていたのだが、速攻で見つかってしまい、道案内として連れて行かれる。

Qちゃんは町に戻り、床屋の源二に平家が攻めてくると説明するが、理解してもらえない(当たり前)。その後、山を降りてきた平家軍が床屋に討ち入りして、警察を巻き込んだ大騒ぎとなるが、テレビで気を引き、電気で感電させて全員を気絶させる。

その後、何日か経って、平家の人々はデモの先頭で赤旗を振っていました、という凄いオチで終了。

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本作は他愛の無い話ではあるが、幽霊がいるかも→やはりいない、という幽霊ネタ王道パターンの作品である。幽霊の正体が、これまた都市伝説の平家の落ち武者の子孫という展開が、藤子Fらしいと言えるだろう。

さて、次稿でも、「しかしユーレイはいない」を続ける。


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