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「キテレツ大百科」記念すべき第一話『ワガハイはコロ助ナリ』完全解説!

『ワガハイはコロ助ナリ』
「こどもの光」1974年4月号/大全集1巻

「キテレツ大百科」は、TVアニメがゴールデンタイムで8年以上も放送され、主題歌の「はじめてのチュウ」が名曲だったりして、一般的な知名度も高い。けれど、原作をきちんと読んでいる人は意外と少ないのではないだろうか。

「キテレツ大百科」は、「こどもの光」という月刊誌で全40回連載された。あまり知られていない雑誌だが、これはJA(農協)グループの家の光協会が発行する会員誌で、一般には販売されていない。ただ、藤子先生はこの雑誌との関係が深く、本作の二年前(71年・72年)に「ドビンソン漂流記」を連載している。この時の編集長、村谷直道氏との繋がりで、「キテレツ」も連載となったのだろう。

ちなみに「こどもの光」では、1965~68年に安孫子氏との合作で「名犬タンタン」も連載されている。「キテレツ」の後も、短編が二本描かれている。藤子先生と縁の深い雑誌だ。


「キテレツ大百科」の連載が始まったのは、1974年の4月。藤子F奇跡の年と僕が呼んでいる、F作品が大量に発表された年である。アイディアとしては、キテレツが作る発明品を巡る騒動を描くお話で、「てぶくろてっちゃん」や「ドラえもん」の系譜にある作品である。

本稿では、第一回目の『ワガハイはコロ助ナリ』を詳細に見ていきながら、キテレツ大百科とは、どういう作品なのかを解読していきたい。

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三か月苦心してきたという大型ロボットが完成したところから物語は始まる。部屋中は紙やネジなどが散らばっており、机の上には設計図が広げられている。ロボットは少年よりも大きく、胴体は木でできているようだ。少年が胸のスイッチを押すと、いよいよ動き出すのだが、暴走して、少年の頭を殴り出す。動力を伝える装置がまずかったと、ボコボコにされる少年。

「しかし僕はくじけないぞ。エジソンだって失敗を重ねてあの大発明をしたんだから」

と、設計からやり直そうと立ち上がる少年。そこに「英ちゃん」と部屋の外から声が掛かる。声を掛けたのは母親で、英ちゃんに買い物をお願いしてきたのである。英一(英ちゃん)は研究中で忙しいと断るが、「また!くだらない工作に夢中になって」と逆に叱られる。

英一「くだらないとはなんですか。今にきっと僕の発明が世界人類のために役立つ時が・・・」
ママ「世界人類もいいけど、今すぐママのために役立ってくれてもいいんじゃない?」

と、うまく言いくるめられる英一。渋々買い物へと向かう。

ここまで約2ページだが、英ちゃんと呼ばれる少年は、常日頃から発明に精を出しているが、それほど成果が上がっておらず、母親からはいつものくだらない工作だと非難される。親には発明家魂がまったく理解されていないのである。ただ、暴走したとはいえ、自分より大きい木製のロボットを作ってしまうあたり、工作能力はかなりの高さであることが伺える。

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買い物中、ロボットの改良案を考えながら歩く英一。気付くと野球をやっている真ん中に入り込んでボールで頭をぶつけられて伸びてしまう。「キテレツのバカ、またボンヤリ考え事して歩いてたな」と言われており、夢中になると周りが見えなくなるタイプであることが知れ渡っているようだ。そして、キテレツと呼ばれていることがわかる。

大丈夫かと問われて、「平気慣れてる」とキテレツ。心配してくれてる女の子(みよちゃん)に、空想して歩くのは止めるように注意され、だからキテレツなんてあだ名が付くのだと諭される。しかしキテレツは、この名前に誇りを持っているという。その理由は、遠い先祖にキテレツ斎という大発明家がいて、尊敬しているからである。

キテレツは、ご先祖様は世界で最初に飛行機を作った人だからだと強調すると、その話は何度も聞いたというみよちゃん。「そんな大発明の記録も作品も残っていないはおかしい」と指摘される。

ここまでで4ページ。主人公の少年は熱中すると前後不覚となるタイプで、周囲にはキテレツと呼ばれている。しかし、先祖に大発明家のキテレツ斎という人がいるので、そのあだ名を気に入っている。

キテレツというのは「奇天烈」と書くが、一般的に「奇妙、奇天烈」と合わせて使われるのが普通だ。奇妙の上位語で、より奇妙、というような意味合いとなる。大発明家・キテレツ斎とは何者なのだろうか

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その夜パパにキテレツ斎について聞くと、発明ばかりする変わり者で、1859(安政六)年に、飛行機を作って一里半(約6キロ)飛んだのだという。これは、リリエンダールのグライダーより33年早かった

「凄いなあ」と喜ぶキテレツ。しかしキテレツ斎は、怪しげな術を使い世を騒がせた罪で代官所に捕まったのだという。発明品やその記録は残らず焼き捨てられて、死ぬまで座敷牢に幽閉され、おかしくなってしまったのだという。

ここまで6ページ。キテレツ斎は空を飛び世間を騒がせた罪でお縄となったというが、江戸時代にモデルとなった人物がいる。それが、浮田幸吉(1757-1847?)という表具師である。記録では1785年に安芸の国でグライダーを作って空を飛んだとされ、代官から咎められて、その後駿府の国に移り住んだという。これが事実だとすると、リリエンダールよりも早いし、その師匠筋にあたるジョージ・ケイリーの飛行実験(1849年)よりもずっと早い。

浮田は晩年の消息が不明で、駿府で長寿を全うした説と、駿府でも飛行して捕まり、そのまま獄死したとも言われている。まさしくキテレツ斎と同じ最期である。浮田をモデルとした小説もいくつかあるが、飯嶋和一の『始祖鳥記』などは、飛び回ることで閉塞した時代に解放感と勇気を吹き込む傑作である。是非ご興味ある方は読んで欲しい。

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パパは田舎の蔵の中から見つけていたというキテレツ斎が書き残したという発明の書「奇天烈大百科」全四巻と、神通鏡というメガネを出してくる。キテレツは大喜びで受け取るが、なんと全て白紙。神通鏡も、何の変哲の無いメガネであった。

がっかりして眠りにつくキテレツ。寝床で不遇な人生を歩んだキテレツ斎に思いを馳せて、自分はキテレツ斎の後を継ぐのだと決意する。明日から形見の神通鏡を掛けて暮らす、そう決意して白紙の大百科を開くと、なんと白紙だった奇天烈大百科には、多くの発明の図面がびっしりと埋め尽くされているのだった。「大発見!!」と飛び上がって喜ぶキテレツ。

序文を読むと、

「わが一生をかけた発明発見の全てをここに書き残す。ただしこれを読む者秘伝を他人に漏らすなかれ…」

これはつまり、キテレツ斎の発明の設計図は秘密ということだ。キテレツ斎は世の中を騒がせた罪で捕まったという。つまり、大いなる発明は世の中に知らしめると、ロクなことにならない、というキテレツ斎の自らを振り返っての警告である。これは、「エスパー魔美」の超能力を使って魔女狩りに遭ったご先祖様を踏まえて、エスパーであることを秘密にする、という物語構造と全く同じである。能ある鷹は爪を隠さねばならないのである。

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キテレツは、奇天烈大百科の「からくり人間製法」というロボットの作り方に着目。さっそく間に合わせの部品を集めて制作を始める。大百科の出てくる用語は江戸時代のものなので、解読するのも一苦労。辞典片手に、エレキ⇒電気、あかがね⇒銅線、と読み解いていく。このへんのガッツが、のび太とは違うところ。

ママの度重なる注意を受けながらも、ついに念願のロボットが完成する。これがコロ助である。この時はまだ名前が付いておらず、第三話でコロ助という名称が明らかとなる。

コロ助は江戸時代に設計された武士をイメージしたロボットで、ちょん髷のようなものが頭についており、しゃべりの末尾に「ナリ」を付けるのが特徴的。スイッチも押さずに動き始め、すぐに部屋の掃除をするなどとても良く気が利く。しかし気が利きすぎて、発明の邪魔となるママを物置の中に片付けて(閉じ込めて)しまうのであった。

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コロ助はその後キテレツの助手として、また友だちとして大活躍していく。徐々に喜怒哀楽もはっきり見せるようになるなど、どんどん可愛くなっていくロボットなのである。TVアニメではコロ助中心のエピソードもかなり多く描かれていた。

ちなみに藤子・F・不二雄大全集では、「キテレツ大百科」の連載直前の号での次号予告イラストも収録されているが、ここでのコロ助は、ちょん髷もなく江戸の雰囲気がほとんどない。キテレツも眼鏡を掛けておらず、この時点でまだ神通鏡のアイディアが浮かんでいないようだ。「ドラえもん」や「パーマン」も次号予告段階ではキャラクター設定が確立していなかったが、本作もギリギリまでアイディアを練り上げていった様子が見て取れる。

「キテレツ大百科」で登場する発明の数々は、「ドラえもん」のひみつ道具と効用・効果が同じようなものも多い。しかし、江戸時代に発明されたという独自の設定が、「ドラえもん」には無い形状だったり、ネーミングであったりする。そうしたユニークな発明の数々を、また別の記事でご紹介したい。

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