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7000字超!! 読めて幸せ! たった一日の里帰り『帰ってきたパーマン』完全解説!

本稿で徹底解説していく『帰ってきたパーマン』は、とても特殊な立ち位置の作品である。まずは、どのように特殊なのか、確認しておこう。

まず、藤子Fノートでは何度も書いているが、パーマンは1960年代の旧パーマンと、1980年代の新パーマンの二つのシリーズに大別することができる。

新シリーズは、旧シリーズの設定に大きな変更を加えており、まるで雰囲気が違う作品群となっている。

旧パーマンには『スーパー星への道』という最終回が存在するが、新パーマンでは、新しい設定を踏まえた大きな改変が施されて、全く新しい『バード星への道』という最終回に作り変えられた。

現在入手できるてんとう虫コミックスには、新設定の『バード星への道』が収録されており、『スーパー星への道』を読むためには藤子・F・不二雄大全集を入手するしかない。


今回紹介する『帰ってきたパーマン』は、旧シリーズの最終回『スーパー星への道』の続編的な作品となっているので、当然、旧パーマンの設定で描かれている。よって、てんとう虫コミックスには収録されていない幻の作品となっている。

さらに本作は、個人的な思い入れの点でも、とても重要な作品で、そのあたりの「思い」については、最後の方で語ってみたい。


なお、本作の解説を読まれる方は、ひとつ前の『スーパー星への道』の徹底考察記事を是非ともチェックしていただきたい。最終回の展開や感動を踏まえた方が、その続編である本作を100%楽しむことができるだろう。


『帰ってきたパーマン』
「週刊少年サンデー」1968年正月臨時増刊/大全集2巻

感動的なパーマンの最終回『スーパー星への道』では、須羽みつ夫ことパーマン一号が、最優秀パーマンに選出されて、スーパー星に留学することになる。

最終回に相応しい、未来を感じる前向きなラストであったが、いくつかの疑問が残る。

具体的に、スーパー星の留学生活はどのようなものなのか、どのくらいの期間留学するのか、残されたパーマン仲間や家族たちはどうなったのか。そのあたりのモヤモヤが解消されない最終回でもあった。


本作は、そんなみつ夫がたった一日(しかも二時間だけ!)里帰りをするというお話で、やや未消化な最終回の後日談が描かれる要注目の作品となっている。

「パーマン」の「週刊少年サンデー」での連載は1967年44号(11月発行)で最終回を迎えた。本作はその約一ケ月後の「正月臨時増刊」にて発表された特別篇である。

作中の時系列も連載誌の時系列に沿った形で、みつ夫が留学してから約一ケ月後のお正月が舞台となる。



本作は、屋根に座ったみつ夫のコピーロボットが、ぼんやりと空を眺めて、みつ夫のことを思うシーンから始まる。

「スーパーマンの星へ着いたみつ夫くんは、元気でやっているかな・・・」

なお、コピーと本物を見分けるポイントは、鼻の頭が黒く(テレビでは赤く)なっていることだが、実際に鼻の先が黒い人がいたらかなり目立ってしまう。第三者にコピーだと分からせる必要性はないので、是非とも改良して欲しい点である。


そんなみつ夫(コピー)の様子を見てママは、

「この頃、みつ夫さんたら、ぼんやり空を見上げることが多いのよ」

と、少なからぬ変化に気が付いているようだ。

そして、コピーが頻繁にみつ夫のことを考えていることもわかる。コピーとみつ夫とは、いざこざも多かったが、最終的には友情のようなものが芽生えていたのかも知れない。


一方のパパは、別の変化を感じ取っている。

「そういえば、パーマンがパッタリと来なくなったね。何かあったのかな?」

と、パーマンの不在を気に掛けている。みつ夫の様子が変わったこととの関連性も考えてのことかもしれない。

ママもパパも、みつ夫の様子に変化が見られ、頻繁に出入りしていたパーマンが来なくなったということを、みつ夫に直接聞いてみればいい話なのだが、そうはしない。

この親子の微妙な距離感を思うと、僕などは思春期手前の親子関係を想起してしまう。


そこにいかにも怪しげな、パーマンマスクを被った郵便屋さんが現れる。

ママが応対して封筒を受け取るのだが、宛名には「東京都~ 須羽みつ夫様」とだけ書かれている。まるでエアメールのような変わったデザインとなっている。

切手を貼り忘れているということで、1500円を請求されるのだが、その高額さにママはビックリ仰天。

「冗談じゃないわ、手紙なら15円でしょ」と指摘するのだが、「奥さんそれは航宙便(スペースメイル)ですぞ」と郵便屋は取り合わない。

ちなみに封書の切手代の変遷を調べてみると、確かに1966年から1972年までは15円である。なお、新パーマン連載時では60円に値上がりしている。

また、正確なところは分からなかったが、この当時の国際郵便は例えば北米だと1500円では届かなかったようである。


航宙便(スペースメイル)と聞いて、コピーロボットはみつ夫がスーパーマンの星から送ってきた手紙だと気がつく。ママは新手の詐欺だと思い込みお金を払う気はない。郵便屋は「払わんなら持って帰る」と怒って、本当に帰ろうとする。

そこへコピーのみつ夫が割って入り、小遣いから月賦で返すとママに約束し、1500円を払ってくれとお願いする。

大事な手紙と聞いてママはお金を払うのだが、誰からの手紙かと質問すると、コピーは「懐かしいなあ、みつ夫くんからさ」と答える。


部屋に戻り、手紙を読むコピー。「相変わらず下手な字だな」と感想を漏らすと、「相変わらず下手な字で悪かったな」と手紙が返事をして、フワリと宙に浮く。

この手紙は、ビデオレターのような仕組みが備わっているようで、スーパーマンの星にいるパーマンが映し出され、手紙の内容をしゃべり出す。


手紙の内容について、いくつかのポイントを抜粋してみよう。

①この星には全銀河系からのパーマン代表が留学している
②朝寝坊のクセだけ直らず、先生のスーパーマンに叱られている
③正月に特別休暇を貰い、1月3日の午後二時に帰宅する
④往復の時間の関係上、地球には2時間しか滞在できない
⑤この次はいつ帰れるか分からない
⑥家族とパーマン仲間に会いたいので、揃っていてくれるよう伝えて欲しい

かなりの情報量なので、一つずつ考察を加えておこう。


①この星には全銀河系からのパーマン代表が留学している
みつ夫が出発する時には世界中のパーマンの姿があったが、スーパー星では全銀河系から各星のパーマン代表が集められているという。壮大な規模でパーマン網が張り巡らされているのだ。

具体的に何を勉強しているかは不明だが、怠けられないと言っているので、互いに切磋琢磨するような内容なのだろう。


②朝寝坊のクセだけ直らず、先生のスーパーマンに叱られている
これは謙遜にも聞こえるセリフ。みつ夫は元来怠け者で、勉強も得意ではない。だからこそ、パーマン代表に選ばれることになるのだが、そんなみつ夫が、朝寝坊以外のことはきっちりと修正して、熱心に勉強をしているというのだ。

たった一ケ月でも、みつ夫の成長は著しいし、そんな成長を見据えた代表の人選だったのかもしれない。


③正月に特別休暇を貰い、1月3日の午後二時に帰宅する
江戸時代の丁稚奉公でもお正月には特別に里帰りが許されたものだった。特に最初のお正月ということで、みつ夫も配慮してもらったのだろう。到着の時間がピンポイントなので、相当正確にスーパー星から地球への飛行時間が計算されていることがわかる。

なお、手紙が届いたのが1月3日の当日。もっと早く知らせてもらいたいところだが、忙しくて手紙を出すのが遅れたのか、休暇が決まったのが直前だったのか、スペースメイルの時間が頭に入ってなかったのか、いずれかの理由だろう。


④往復の時間の関係上、地球には2時間しか滞在できない
正月休みの期間は不明だが、滞在時間の短さからすると、かなり短い日数だったと想像される。というのも、『スーパー星への道』でコピーがみつ夫に、星までは円盤でひとっ飛びだと説明しており、何日もかかるような言いぶりではなかった。

長くて地球~スーパー星の移動が一日だと考えると、お休みは3日間だけだったかもしれない。ただ、円盤では睡眠ができそうもないので、もしかしたら、移動時間は想定より長く、お休みはもう一日二日長かった可能性もある。


⑤この次はいつ帰れるか分からない
何気ないセリフだが、これはかなり重要な箇所。パーマンはこの時点で、留学期間がいつまでかわかっていないし、この後の留学スケジュールも聞かされていないようだ。

普通に考えれば留学期間は数年というところだろうが、全銀河からの留学なので、「普通の期間」が全く予測つかない。実際に、この後少なくとも10年は帰っていないとされている。(←この点は、いずれ記事にします)


⑥家族とパーマン仲間に会いたいので、揃っていてくれるよう伝えて欲しい
今回のみつ夫の願いはこれ。家族と仲間に会いたいのである。ところが、ここでややこしいのは、みつ夫の家族にとっては、コピーロボットのみつ夫がいるので、みつ夫の里帰りと言われてもただの笑い話にしかならないことだ。

だからと言ってパーマンが久しぶりに須羽家の面々と再会しても、それは特別感動的なものではない。この伝言を受け取ったコピーが、パーマンが帰って来るという理由でママやパパたちを待たせておくというのは、そもそも困難なミッションであったのだ。


みつ夫のある種の無茶ぶりに対して、コピーロボットは奮闘する。まずパーマン仲間を集めたいが、バッジを持っているわけではないので、他のパーマンたちに連絡するのは大変なこと。

そこで探し物の名人であるブービーの特性を生かして、わざと人相の悪い男に抱っこしてもらい、「人さらいだ、助けて―」と大声を出す。すると、狙い通りにすぐにパーマン2号が飛んでくる。

みつ夫が帰って来ると聞いて、2号は「キャッホー」と飛び上がって喜ぶ。ブービーにとっても、みつ夫は是非とも会いたい親友的な存在なのである。

みつ夫とブービーのコンビで色々な事件を解決していることを知っている読者としては、2号の喜ぶ姿は感動的である。


これでパーマン仲間への連絡は問題ない。次は家族を家に留めさせておくことだが、何とタイミング悪く、この日から須羽家は二泊三日のスキー旅行に出発する予定であった。

コピーは完全に忘れており、慌てて出発をずらせないか家族に相談する。しかし、スキーバスの予約が取れており、人気のツアーなのでこれを逃すと次にいつ出発できるかわからないという。

「みんな不人情だい。せっかく、みつ夫くんが帰って来るのに」

とコピーは叫ぶが、家族からすればコピーがみつ夫。ただの冗談にしか聞こえない。

当然、パーマンの秘密をばらすこともできないので、ここで万事休す。自分だけは明日合流すると言って居残ることにしたが、家族不在ではみつ夫くんもガッカリするだろうと気に病むコピーであった。


さて、パーマン仲間たちは、問題なく集まってくる。パー子も「懐かしいわあ」と言っているが、その後の新パーマンでの展開を考えると、少し素っ気ないセリフのように聞こえてしまう。

家族が出掛けるのを止められなかったと聞いて、パーマン仲間は「みつ夫が可哀そうだ」と同情を寄せる。「何とかしなくては」とパーやんも動き出すが、家族を呼び戻す手段はない。すると、何やらパー子に指示を出している。


そして、午後二時、パーマンが一人飛んでくる。円盤はどこか目立たないところにでも着陸させたようである。コピーとパーマン仲間が出迎える。

ブービーとパー坊に抱きつかれるみつ夫。ブービーは涙を零している。2号と5号を余裕そうに抱きかかえていて、みつ夫の成長を感じさせる。

みつ夫は3号の姿がないことに気がつき、「パー子くんは?」と尋ねる。新パーマンを読んだ後では、感慨深いセリフに聞こえる。


家に入り、パーマンは「久しぶりの畳はいいなあ」と言って寝転がる。スーパー星には和室はないようである。そこへパー子が連れてくる形で、パパとママとガン子が部屋の中へと入ってくる。

「お久しぶり」とガン子が喜び、パーやんたちは「僕らはちょっと遠慮しよう」と言って、家族だけを残して別室に移る。

パーやんはコピーのみつ夫に対して、みつ夫の家族はみんなのロボットをかき集めて、パパとママとガン子に鼻を押してもらったものだと明かす。

コピーは「バレないかなあ」と心配するが、鼻の黒いところは塗っておいたから大丈夫だとのこと。

ロボットを使った簡単なトリックではあるが、ここでみつ夫に嘘をついていて良かったのか、という疑念は浮かぶ。嘘がバレた時に、みつ夫が酷くショックを受ける可能もあったからである。


疑似的に親子水入らずのような状況になるみつ夫。ママがお雑煮を作り出す。ところがママが鼻をこすったことで鼻の先に塗った肌色が取れてしまい、みつ夫はコピーロボットであることに気が付いてしまう

ここで「どうもさっきから変だと思ってた」、とみつ夫が考えていることから、親子水入らず状態になったこと自体が、うまく行きすぎだと感じていたのではないかと想像される。

ガッカリするみつ夫。しかし仲間が無理してロボットを三体集めてくれたことを想像して、その落胆を見せようとはしない。あくまで騙されたままで貫き通そうとする気丈さには泣けてくる。


今度はパーマン仲間との時間を過ごそうと考えるみつ夫。ママが出してくれたお雑煮を食べながら、スーパー星のことなどを話題にする。

ここでみつ夫は、スーパー星の場所を「ケンタウロス座のアルファ星で・・」と説明している。

『スーパー星への道』では、スーパー星はケンタウロス座のプロキシマだとしているので、一見矛盾がありそうに思えるが、そうではない。前回の記事で詳しく書いているので、是非とも参照いただきたい。


みつ夫が「それにしても本当の家族はどこにいるのだろう」と内心思っているその頃、何と家族3人は大ピンチに陥っていた。

3人を乗せたスキーバスが、スリップして崖から転落してしまったのだ。辛うじて木に引っ掛かって中腹で止まったものの、いつ木が折れて真っ逆さまになってもおかしくない。


パーマンたちの部屋ではテレビが付いていて、「オバQ」が放送されている。午後3時頃だろうから、お正月昼間の特番だったのだろうか。

そこへニュース速報が流れ、バスが転落したという。今ではスマホに速報しなくても良いようなニュースも含めてバンバン流れ込んでくるが、この当時はもちろん緊急事態はテレビかラジオを通じて知るものだった。

慌てて出動するパーマンたち。パー子はみつ夫にせっかくの休みなので、家に居るよう言うが、「休みなんかいいんだ」と同行する。このあたりにパーマンの成長が見て取れる。


久々の5人での飛行シーンが妙にカッコいい。そして現場に急行すると、ちょうどそのタイミングでガン子たちを乗せたバスが、引っ掛かっていた木から落下する。

5人は間一髪バスをキャッチして、無事バスを着陸させる。感謝に沸く乗客の中から、みつ夫の家族3人がパーマン1号の存在に気がついて近づいてくる。

「ワー、懐かしい。どこへ行ってたの?」

1号のことは家族ではないが、かなり頻繁に訪れていたので、もはや他人ではなくなっていたのである。しかも自分たちを助けてくれということで、自然な流れでパーマンとの再会を喜んでいる。

パーマンは家族を見て、思わず「あっ、本物だ!!」と声に出す。それを聞いたパーやんたちは、「コピーのことを知っていたのか」と気がつく。

みつ夫が自分たちの嘘を見抜いていた上で騙され続けていたことを知るわけだが、彼らもみつ夫の人間的成長を感じたのではないだろうか。


ラストの一コマ。粋でとてもお洒落な、感動的な終わりを迎える。パーマンの姿を見る最後の場面でもある。このシーンについては、ここでは語らないので、是非とも気になる方は「大全集」を手に取ってもらいたい


さて、若干の繰り返しになってしまうが、本作は僕にとって非常に大事な一作である。

また別の記事を上げていくが、パーマン1号はスーパーマンの星に留学し、そのまま十年は帰ってこないことが知られている。そして彼の帰りを、ひたすら待ち続けている人がいることも判明する。

これらの事実は、少なくとも1990年には僕は知っていたわけだが、その頃、一度だけみつ夫が里帰りをする話(=本作)があるという噂を聞いた。

どうしても読んでみたいと願ったが、「パーマン」の単行本(複数の出版社から発売している)には、収録されていなかった。読むには、掲載誌である臨時増刊を入手する必要があったのだ。

しかし神田の古本屋街でも見つからず、オークションで高値が付いているとの情報も聞こえてきた。国会図書館に行くという手段があったのだが、その当時は知らなかった。つまり、本作をどうしても読みたかったのに、読めなかったのである。

「藤子・F・不二雄大全集」が発売となるというニュースの中で、本作もきちんと収録されると知った時は、凄まじい喜びだった。そして実際に読むことができて、感無量だったし、何か一つの人生の心残りが解消された気分だった。


本作を見届けて、これから新パーマンの記事へと進んでいく。新パーマンについて存分に語ることは、藤子Fノートを始めた当初からの大目的だった。

毎日投稿して21ヶ月目にして、ようやくこの地点まで到着したことを嬉しく思う。



「パーマン」の考察は続く。


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