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占いはやっぱりいかがわしい?『うらないステッキ』/当たるも八卦当たらぬも③

「当たるも八卦当たらぬも」と題して、藤子作品から「占い」をテーマとしたお話をピックアップ中。これまで二作品を紹介してきた。

内容は全く異なる二作品なのだが、実は通底しているメッセージは共通している。それは、占いから導き出される「運命」は、自分自身で切り開くべきものなのだ、というもの。占いではなく、自分を信じよという藤子先生の思考が強く反映されているのだ。

上の記事の中でも触れたが、「占い」は「予知」と同じ意味である。将来はどうなるかわからないし、それは自分が見つけていくもの。最初から占いや予知で決められた運命などない、という考えが藤子先生の中に、確固として存在しているのは間違いない。


本稿では、さらに「占い」のエピソードを一本紹介するが、今回はあまりメッセージ性を感じない、どちらかというとバカバカしい類いのお話となる。

ただし、町の占い師が現われ、彼の占いがある影響を与えてくる場面があって、これまで指摘してきたような藤子先生の反・占い主義みたいなものが垣間見える作品にはなっている。



「ウメ星デンカ」『うらないステッキ』
「小学四年生」1969年7月号/大全集2巻

今回占いを信じちゃっているのは中村太郎。新聞の「今日の運勢」によると、災難があるので外出するなということで、太郎はビビッて外に出たがらない。デンカとのキャッチボールを断り、ママのお使いもスルーし、みよちゃんからケーキを食べに来てという誘いも拒否してしまう。


太郎の占いの話を聞いて「大げさだなあ」と思ったデンカは、いつもの不思議なツボから「うらないステッキ」という道具を出す。このステッキはレンズが付いている仕様で、この後どう行動すればいいかを尋ねると、指示出しをしてくれるという便利グッズである。

まず手始めに外出しても良いかと聞くと、大丈夫と出る。当てになるもんかとステッキを信じない太郎に、五分後の部屋を映し出して見せる。すると部屋で爆発が起きて、太郎が丸コゲになっている。

デンカは部屋から逃げ出すが、太郎は部屋で爆発が起きるわけがないと余裕の様子。はたして五分後、ウメ星国王がタバコを咥えて部屋に入ってくる。一度吸ってみたかったところに、タバコが落ちていたので拾ったようである。

すると急にドカンとタバコが大爆発。太郎もその爆発に巻き込まれてしまう。国王が火を点けたのはタバコではなく、花火であったのだ。これで、うらないステッキが本物だということを痛感する太郎。


外で出て、右か左か進むべき方向を占うと、ステッキは左の方向を指し示す。ところが太郎は漫画を買いたいということで指示の逆方向へと歩き出す。

するとポケットから100円を落として漫画は買えず、先ほどケーキの誘いを断ったみよちゃんに出会って、「外出しているじゃないか」と文句を言われる。歩き出した方角が悪かったようである。

そこで最初にステッキが示した方向へと進んでいく。すると先ほど落とした100円玉が見つかり、家に戻ってくるとママが漫画雑誌を買ってきてくれている。これで太郎は、すっかりうらないステッキを信用して、崇めたてるのであった。


太郎はこのステッキを使って占いのアルバイトをしようと思いつく。不思議な道具を金儲けに繋げようという姿勢は、のび太とそっくりである。このアイディアには、デンカも「ウメ星再建資金ができる」と大賛成。

ということで、一回10円という国の再建にはつながりそうもない料金設定で、「宇宙占い」を開業することに。

最初は「迷信など信じない」と言い出す男の子が現れるのだが、デンカは勝手にレンズを覗き込み「三秒後に自動車事故に遭う」と占う。

で、その三秒後、その男子は、おもちゃの自動車にコケて転倒してしまう。目の前で占いが当たり、一気にお客が自分を見てくれと集まってくる。すぐに宇宙占いは、と評判になるのであった。


占いが町の評判となると、普段から街角で占いをしているという男性がクレームを付けにやって来る。何十年も占いをしており、インチキな宇宙占いに客を取られたというのである。

商売敵を嫌がるのは理解できるが、この占い師は自分の占いは「世界一当たる」と豪語してくるので、どちらが当たるのか試合をしようということになる。

その試合方法とは、誰か一人を無作為に選び、双方で占おうというもの。道端に座る濃い顔の浮浪者を見つけて、勝手に占うことにするのだが、占いと聞いて男は逃げ出す。この男性は「嫌なことを言われると必要以上に気にする質なんだ」という。


デンカの超能力で浮浪者の動きを止めて、まずは占い師が男の顔を覗き込む。すると「気の毒じゃ」と一言。が詳しく内容を聞くと、火難水難剣難の相だと言う。剣難という言葉は珍しいが、刀やナイフや刃物の災難だということで、かなり物騒な占い結果と言えるだろう。

これを聞いた浮浪者の男。「だから俺嫌だと言ったんだよォ」と泣き出し、もうこの世が嫌になったと言って、首を吊ろうとする。ここまでくると、占い程度でも罪深いものである。


デンカが自殺を止め、代わりにうらないステッキを覗き込むと、「今日中に総理大臣になれる」と、とんでもないことを言い出す。太郎でさえ「いくら何でもデタラメ」と思うのだが、レンズに映ったのだから仕方がない。

乞食にどちらが当たったか明日教えてもらうことにする。さすがに突拍子もないデンカの占いなので、占い師は「こっちの勝ちに決まっている」と自信を持つ。・・・が、自分の方の占いが外れてしまうのも、信用を失うことになる。

そこで占い師は「当ててやればいいのだ」と言って、自作自演を思いつく。災難を予言して、その通りに自分たちが災難を引き起こす。・・・オウム真理教がやっていた手口である。


占い師はタバコに火を点けて、浮浪者の被っている帽子に投げ込む。火難の相を自ら振りかけようと言うのだ。

するとこの男性、占い師の姿を見て「あれから気になって飯も食えない」と苦情を言ってくる。「さっきの占いが嘘だと言って欲しい」と、帽子を取って頭を下げる。

するとタバコの火が占い師の背中に入り、「火難」が発生。さらに、ボチャンとドブに飛び込み「水難」。そして犬に噛まれて、字が違うが「犬難」にも遭う。あっと言う間に、自分が占った災難が全て自身に降りかかってきたのであった。


で、乞食の男性はというと、「こんな顔を探していた」というテレビのプロデューサーに声を掛けられる。そしてそのままテレビ出演を果たす。「そっくりアワー」というモノマネ(?)番組で総理大臣に扮装し、見事今週の第一位を獲得するのであった。

本作連載時の1969年の首相は、佐藤栄作。読み返してみると、顔の濃い男性は、確かに佐藤栄作に最初からそっくりに描かれているのであった。


さて、全体的に他愛のない占いのお話なのであるが、細かくみると、案外ショッキングな描写も入り込んでいる。町の占い師がいい加減な占いをすることで、その男性が気に病んで死のうとしてみたりするし、占い師が自分の占いを当てるためにあくどい行動に出たりする。

そのシーンからは「占い」のいかがわしさや、占いを気にしても仕方がないと言った作者の考えが滲み出ているような気がするのだが、皆さまいかがだろうか?



「ウメ星デンカ」の紹介もあります。


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