しずちゃん大ピンチ!『なぜか劇がメチャクチャに』/藤子Fの演劇しよう⑥
藤子作品の中から「お芝居」「演劇」をテーマとした作品を紹介する企画「藤子Fの演劇しよう」の第六弾。今回含めて6作品の紹介をしてきたが、本稿にてひとまずシリーズは終了としたい。
ただし、6作品以外にも実はまだまだ未紹介の「演劇」作品(モッコロくんやドラえもん等)があるのだが、それはまた別の機会に。
本作では「ドラえもん」から、演劇ど真ん中のエピソードを紹介するのだが、これが見事なまでの問題作である。
「ドラえもん」『なぜか劇がメチャクチャに』
(「オート・アクションプロンプター」と「脚本カセット」)
「小学四年生」1981年4月号/大全集11巻
クラス会の演劇コンクールで、のび太・ジャイアン・スネ夫・しずちゃんの4人で劇をやることになる。のび太は優勝したいということで、ドラえもんに何かないかとねだると、「またおかしなことにならないかな・・・」と不安に思いながらも、演劇道具一式を出す。
「オート・アクションプロンプター」「脚本カセット」「万能舞台装置」の3点セットがそれ。これを使えば、誰でも素晴らしい劇ができるという。
4人集まって、まずは演目決め。のび太以外の3人の希望はというと・・・
・ジャイアン→「スーパーマン」
・スネ夫→シェークスピアの「ハムレット」
・しずちゃん→「かぐや姫」
と、いつものように決まらない。(藤子Fあるある)
そこで公平に機械に選ばせることにする。それぞれ条件として、
スネ夫→王子様
しずちゃん→お姫様
ジャイアン→超能力者
という役柄を所望する。この条件に整うお話があるのか・・?
内容面としては、お客の頭の程度をのび太に合わせることにする。これらの条件を「オート・アクションプロンプター」にかけて検索すると、カセット「B-013」が選択される。
このカセットをセットすれば、セリフを覚えることなく、それぞれが自分の役通りに動いたりしゃべったりできる。さらに、「万能舞台装置」を繋げると、舞台の演出を勝手にしてくれる。
つまり演者たちは何も努力をせずに、劇ができあがってしまうというわけである。
では、どんな演目なのか。衣装は着せ替え光線が出してくれる。
スネ夫は王子様、ジャイアンは魔女、のび太は隣の国の王女様の姿になる。ジャイアン演じる魔女は超能力を持っているという設定らしい。
次はしずちゃんが衣装を着る番だが、しずちゃんは、この劇が「人魚姫」ではないかと推察する。
人魚姫の衣装と言えば、上半身は裸。。憤慨するしずちゃんに、「いいじゃない」の声も掛かるが、ヌードはまずいということで別の演目を探すことに。
役柄についての注文は付けずに、機械に演目を選んでもらうことにする。すると、カセットCー359に決まる。ちなみに観客の設定はのび太のままという点に留意しておいてほしい。
出てきた演目は「チビクロサンボ」。のび太・スネ夫・ジャイアンはトラ役で、しずちゃんが「サンボ」を演じることに。
さて演技スタート。
セリフも行動も機械まかせ。新しいコウモリ傘を持ってウキウキと散歩するサンボの前にジャイアントラが現われる。「お前を食べちゃうぞ」と脅してくるので、サンボはこうもりをあげて見逃してもらう。
続けていつの間にか参加しているドラえもんトラには靴をあげ、スネ夫トラにはシャツを・・。この展開に待ったをかけるしずちゃん。
「それじゃ結局裸じゃないの!!」
「人魚姫」に続いてヌードを要求されたしずちゃんは、怒って帰ると言い出すが、何とかみんなで制止し、次はしずちゃんのやりたい劇にしようと取りなす。
ところで、本作では「チビクロサンボ」を演じているのだが、現在刊行中のてんとう虫コミックスでは、このシーンはまるまるカットされている。
少々脱線するが、少し状況を整理しておこう。
本稿のベースとしているのは「大全集」に収録してある初出バージョン(1981年)である。本作は、多少の加筆修正が施して「てんとう虫コミックス28巻」に収録された(1983年)。
ところが「黒人差別をなくす会」問題が起きて、世の中から「チビクロサンボ」が消えてしまう事態が発生。その煽りを受けて、本作ではチビクロサンボのシーンをカットし、「人魚姫」のシーンを伸ばす形での別バージョンが作られた(1989年頃)。今のてん虫コミックには、そちらが収録されている。
大全集では初出版と改訂版の両方が収録されているので、もし違いを楽しみたい場合は、購入をオススメしたい。
なお、「黒人差別をなくす会」問題の藤子作品への余波としては、「ジャングル黒べえ」がお蔵入りとなる大きな影響を被っている。このあたりの経緯は以下の記事にて書いているので、是非参照いただきたい。
さて話は戻って、三つ目の演目を決めることに。しずちゃんの希望は「宝塚みたいに男役をやってみたい」というもの。するとしずちゃんは、願い通りに豪華な服を着た王様姿になる。他の4人は王様の家来役。
その肝心の演目は「はだかの王様」。ストーリーは、おしゃれな王様が二人の仕立て屋に騙されて裸で町に繰り出すというもの。これまたしずちゃんのヌードが必須のようである。
どうしていつもこうなってしまうのか。不思議に思いながら、次に選び出されたカセットはBー019、グリム童話の「星の銀貨」である。タイトルは何となく聞いたことがあるが、内容はよく思い出せない。微妙に知名度の低い作品が選ばれた。
しずちゃんは念のためにストーリーを聞く。説明書きには「星が銀貨になって降ってきて、優しい女の子が幸せになる話」となっている。しずちゃんはロマンチックな良いお話みたいとホッとする。
ドラえもんの提案で、今度は「強制ボタン」を押して、途中で劇を勝手に止められないようにしたらどうか、ということになる。
さて、開幕。
しずちゃんが星空の下で設定を説明する。両親を亡くして、独りぼっち。残っているのはパンが一つだけど、神さまが守ってくれている、と。
すると、男(ジャイアン)が空腹でうずくまっている。心優しい女の子は「神さまのお恵みがありますように」と、手持ちのパンを喜んで差し出す。次に寒くて凍えそうな男(ドラえもん)がうずくまっている。
「この服を上げます」
と上着を渡してしまう少女。嫌な予感がするしずちゃん。
続けて貧乏そうな女の人(スネ夫)が登場し、「スカートを下さいな」と、またしてもしずちゃんを脱がせる方向に話が進んでいく。ガーンとショックを受けるしずちゃん。
最後に登場してくる女性(のび太)は、嫌な予感通りに「肌着を・・」と要求する。「やめてやめて」と抗おうとするしずちゃんだが、プロンプターの力で止まらない。
機械を止めようにも、「強制ボタン」を押してしまっているので、止まらない。しずちゃんは、泣きながら最後の一枚を脱いで「神のお恵みを・・」と言いながらのび太に渡してしまう。
そこでドラえもんが、巨大ハンマーで機械をぶち壊して、大元から強制終了させる。大泣きするしずちゃん。のび太はドラえもんに「なんでそんなエッチな機械を出したんだ!!」と詰め寄ると、ドラえもんは、
「忘れないで欲しいな。あの機械は君の見たがるような劇を選んだんだぞ!」
のび太程度の頭に観客設定した結果、どうやらスケベなのび太が見たい内容という風に機械が読み取ってしまっていたというわけである。
「お前のせいで劇がめちゃめちゃだ」と4人に追い回されるのび太でお話はおしまい。確かにのび太のせいではあるのだが、のび太の性的欲求まで考慮に入れてしまうドラえもんの機械に問題があるように思えなくもない。
なお、「星の銀貨」はこの後、神さまが少女の行いを褒めたたえて、銀貨の星を降らせて、少女は裕福になる。どうせ全裸にまでさせたので、ハッピーエンドまで演じさせてあげれば良かったのになあと思ったりもする。
「人魚姫」「チビクロサンボ」「はだかの王様」「星の銀貨」と、見事に裸ものを集めたF先生に色々な意味で感心しつつ、「藤子Fの演劇しよう」はこれにて終幕としたい。
「ドラえもん」の徹底考察やっています。
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