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タイムパトロールの贅沢な休日『バカンスは恐竜に乗って』/藤子Fの大恐竜博⑥

真夏の「藤子Fの大恐竜博」シリーズも本稿で第6弾。これまでのシリーズ記事は以下の通り。

どれだけF先生は、恐竜好きなのか? 特集記事としてはあと3本用意しているが、実はそれでも拾いきれないほどの「恐竜」作品が残されている。「ドラえもん」の大長編でも大テーマとして恐竜を選らんだ作品が2本あり、晩年には「恐竜ゼミナール」という子供向けのガイド本も書いたりしている。

その恐竜愛には驚かされるが、要するにF先生は子供の頃から好きだったものをそのまま好きでい続けて、それを創作の題材にしていく「六つ子の魂百までも」系の作家ということなのである。


本作は「T・Pぼん」から『バカンスは恐竜に乗って』という素敵な作品を取り上げる。

「T・Pぼん」『バカンスは恐竜に乗って』
「少年ワールド」1979年5月号/大全集1巻

「T・Pぼん」は毎回、古今東西の歴史の一場面を選んで、不慮の死を遂げた人々を救助するT・P(タイムパトロール)を主人公にしたお話。人を救うので、当然人のいる時代が舞台となるはずだが、この設定においても恐竜時代を描こうとする心意気をまずは感じ取りたい。(第一話でも無理やりフタバスズキリュウを出していた)

T・P隊員を恐竜時代に連れて行く方法として編み出したアイディアは、T・Pは一年に一度仕事を離れてタイムボートを使った休暇旅行が許可されているという設定である。有給休暇みたいなものと考えれば良いだろうか。

この休暇制度を使って、リームと凡は恐竜時代でバカンスをするというわけである。

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二人とブヨヨンが向かった先は、1億9000年前の南アフリカ。三畳紀とジュラ紀の中間とのこと。恐竜時代の区分けについては『恐竜さん日本へどうぞ』の記事で書いたものを、下記に再掲しておく。

古生代(5.7~2.5億年前) 恐竜前
中生代(2.5億~6500年前) 恐竜時代
 ・三畳紀(約2億5000万年前~約2億年前)
 ・ジュラ紀(約2億年前~約1億4500万年前)

 ・白亜紀(約1億4,500万年前~6,600万年前)
新生代(6500年前~現代) 恐竜後
*区分年は諸説あり

本作はバカンスということで、いつものような「T・Pぼん」らしいドラマは無い。

恐竜時代に着くや、海岸に見晴らしの良い空中テントを張る。皮膚呼吸できるクリームを塗って、さっそく二人は海に潜って恐竜時代を堪能する。

テーブルサンゴ、ウミユリ、アンモナイト・・。さらに深い海へと潜り、ノトサウルスを目撃する。ひれ竜類で海陸両方に住んでいた肉食性と紹介されている。

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その後テントに戻り、タイムマシンで取り寄せたご馳走を食べることに。素敵な雰囲気の中だが、ここでも熱心に恐竜トークが繰り広げられる。

ちなみにこのディナーの場面を踏まえたお話が後の「T・Pぼん」で登場する。既に考察しているので興味があればこちらへ・・。

その夜、素敵な眺めを堪能していた凡は、暗い森の中に光を見つける。火のように見えるが、人間どころか哺乳類も生まれていない時代に、火が灯せる訳がない。すぐにその光を見失ってしまう。

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翌朝、凡がテントから地上へ降りると、アロサウルスがのっそりと立っている。このアロサウルスは、昨年リームたちがこの時代に休暇旅行した際に、ブヨヨンを食べようと追い回してきた恐竜であった。

恐れ戦く凡。そこにリームがテントから降りてきて、恐竜の気を逸らす機械(?)で静かに追い払うことに成功する。


ここで本日の目的地、この時代の代表的な恐竜であるブロントサウルスを見に行くことに。乗り物は、シーロヒシスという小型の恐竜を馬のように乗りこなして移動しようというのである。

やり方としては、「ドラえもん」の桃太郎印のきびだんごのような感じ。恐竜たちの脳に電極を打ち込み神経系統を乗っ取り、こちらの意志で動かそうとする。この際、「チェックカード」で歴史の流れに影響する生物かどうかを確認することは忘れてはいけない。

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シーロヒシスに乗って、恐竜の世界を堪能する凡たち。空にはプテラノドンに似たランフォリンクス、森には見た目狂暴な草食性のイグアノドン。さらにはプロアビスが木を渡るように飛んでいる。

まさしく藤子先生が夢見たような風景なのである。

そして、巨大なブロントサウルスの群れに辿り着く。見開き2ページの大きさで描き出されていて、F先生はこれを描きたいがばかりにこの話を作ったようにも思える。

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ところが、突然遠くからビームが撃ち込まれ、ブロントサウルスを直撃して一匹倒れ込んでしまう。崖の上に人間の姿が見えるが、リーム曰く「密猟者」である。

恐竜+密猟者と言えば、「のび太の恐竜」のアイディアであるが、本作がそのきっかけとなったのだと思われる。遊びやお金のため、許可なく恐竜を狩りたてる男たち。歴史を変える恐れがあるので法律で禁じられているが、その目をかいくぐった無法者。本作の設定は、そのまま「のび太の恐竜」に流用されている。

急いでボートに戻って本部に連絡しなくてはならない。さっき乗ってきたシーロヒシスはどこかへ逃げてしまった。そこに哺乳類型のは虫類・シノグナータス(キノグナトゥス)が現れる。これに乗ろうということで「チェックカード」をかざすと、ピカと最大限の反応を見せる。

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哺乳類の先祖は、シノグナータスから進化したと見られている。今の個体はもしかしたら、人類の先祖だったのかもしれない。

すると、逃げて行ったシノグナータスが、丘の向こうでレーザー銃に撃たれてしまう。慌てて様子を見に行くと、密猟者が先ほどの個体を撃ち抜いて捕えている。このシノグナータスが死ねば、歴史が変わるどころか歴史が失われてしまう

けれど、そのような説得に全く耳を貸さない密猟者。逆に凡やリームたちを殺そうとする。そこへ、キャンプに置いてけぼりだったブヨヨンが、アロサウルスに追いかけられてくる。アロサウルスは密猟者を踏んずけて倒してしまう。絶体絶命のピンチはこれで逃れた。

撃たれたシノグナータスは幸い急所が外されていた。手当して、これで人類の歴史が無くならずに済む。

学校の友だちには自慢できないけれど、楽しい春休みのバカンスを過ごして大満足の凡であった。

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見てきたように、本作では「T・Pぼん」らしいストーリーにはならず、F先生が恐竜ワールドを描きたかったために作られたお話であった。もちろん、ここでの描写が後のF先生の代表作「のび太の恐竜」に繋がるものであることは特筆できる。

その意味で、歴史的な一本ということも言えるのではないだろうか。


「T・Pぼん」など色々な作品を考察しています。


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