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幼年向け第一話は、トンデモ設定ばかり?『ドラえもんがやってきた』他/ドラえもん初回特集①

「大みそかだよ!ドラえもん祭り」・・・からの、「お正月だよ!ドラえもん祭り」。

この夢のような特番の流れは、藤子不二雄アニメ全盛期である80年代に、運良く幼少期を迎えていた僕の、至福の思い出である。

今年も「ドラえもん」の1時間SPは放送していたが、大みそかと言えば、最大3時間の藤子アニメ特番が放送され、HDDに録画するなどという便利な時代でも無かったので、それは目を凝らして、ブラウン管に釘付けになったものである。


藤子Fノートは3回目の大みそかとお正月を迎えるのだが、今回は原点回帰的試みとして、集中的に「ドラえもん」の記事をアップさせることにしたい。特集テーマは、ズバリ「ドラえもんの初回」である。


ご存じの方も多いと思うが、「ドラえもん」は小学館の学年別学習誌6誌で一斉に連載のスタートを切った。全て1970年のお正月号(1月号)からである。

現在てんとう虫コミックス第1巻に収録されている第一話『未来の国からはるばると』は、「小学四年生」掲載作品の改訂版だが、この他にも5本の第一話が存在する。

別バーションの第一話ということで、これまでアニメ化されたり、「ドラえもんプラス」などにも収録されなかった。

その性質上、日の目を見ない幻の作品となっていたが、2019年11月にてんとう虫コミックス「第0巻」として単行本に収録され、ついに多くの読者の目に触れることとなった。


今回はいつもの底本「大全集」と共に、この「第0巻」も参照しつつ、記事を書き進めていくことにしたい。第一弾は、まず簡単なところから、「よいこ」「幼稚園」2作品を一挙に見ていく。


『ドラえもんあげる』(初出は無題)
「よいこ」1970年1月号/大全集18巻

まず掲載誌の「よいこ」について。

「よいこ」は、幼稚園入学前の未就学児童に向けた雑誌で2~3歳あたりが対象年齢となる。よって、物語の筋ではなく、見た目の面白さやかわいさが作品にとって大事な要素だった。

藤子F先生は1963年1月からの「よいこ」で「スーパーじろう」という作品を連載していたこともある。その後「オバQ」「パーマン」「ウメ星デンカ」と連載を継続させていた。

「よいこ」では、1~5ページの超短編を掲載させていたため、その後てんとう虫コミックスには一本も収録されていない。一部ぴっかぴかコミックで読めたが、僕も大全集が出るまではほとんど読むことができなかった。

単行本未収録の幼年向け「ドラえもん」については、一度どこかで本格的に記事にしておかねばならないだろう。


本作は全4ページ、カラー作品である。

冒頭、一コマ目でいきなりのび太の机の引き出しから、ドラえもんとセワシ君が「明けましておめでとう」と言いながら飛び出してくる。ドラえもんの第一話は全て1月号なので、お正月がテーマに盛り込まれている点に着目いただきたい。

セワシ君は何の事情も説明せずに「お年玉にドラえもんをあげる」と言い出す。ドラえもんはセワシ君よりも小柄で、頭より体の方が若干大きめである。

対するのび太は「要らないよ、そんな変なの」と拒絶。余談ながら既にのび太はメガネをかけており、入学前はメガネをかけていなかったという後の設定と反している点を指摘しておきたい。


のび太は「引き出しから出てくるなんて気持ち悪いや」と拒絶の理由を語り、「友だちになろうよ」と言うドラえもんから遠ざかろうとする。そこへのび太のママが、年賀状だろうか、葉書をポストに入れてきてねとお願いしてくる。

外は寒くて嫌だなと躊躇していると、仲良くするチャンスだとばかりにドラえもんがポストを抱えてやってくる。そして、入れたら元へ戻してくるといって、ポストを背負って出掛けていく。

「役に立つだろう」とセワシ。この時ドラえもんは、ひみつ道具ではなく、自力でのび太の役に立とうとしている。便利な道具があるだろうに・・と思ってしまう。

続けて雨が降り出し、パパに傘を持っていかなくちゃ、ということになるのだが、ここでもドラえもんは「僕がいく」と手を挙げて、雨の中傘も持たずに外へと飛び出して行く。

全くひみつ道具を使おうとしない点や、外に飛び出して行ったドラえもんが思いっきり4本足で本物の猫のように走り出している点などに、かなりの違和感を覚える。

そしてオチ。ドラえもんが雨の中、びしょ濡れのパパを背負って帰宅し、「お父さんを連れてきたから傘を上げて」とどや顔する。初期ドラは、まだ現代社会に不慣れなのか、大ボケをかますことが多いわけだが、本作でもむしろのび太の足を引っ張る存在感を示している。


本作ではひみつ道具が一切登場しなかったが、翌月の「よいこ」第2話でも、ドラえもんのシッポを引っ張ると姿が消えるという機能のみが登場する回となっている。まだひみつ道具=ドラえもんという構図を明らかにしていない貴重な作品群である。


『ドラえもんがやってきた』(初出は無題)
「幼稚園」1970年1月号/大全集18巻

続けて「幼稚園」の初回を見ていく。こちらも4ページの作品で、対象年齢は4~5歳といったところ。

「幼稚園」もページ数の少ない作品ばかりで、てんとう虫コミックスには本作の0巻収録以外は、一切採用されていない。かなり貴重な作品群で、「よいこ」「幼稚園」掲載作品が一挙まとめられている大全集18巻だけでも、手元に置いておくことをオススメしたい。

なお、「幼稚園」も「よいこ」も連載期間が「小学一年生」~「小学六年生」と比べてかなり短かった。これは、ひみつ道具を使って起承転結の作品を組み立てるには、不向きなページ数だったからではないかと想像している。

藤子先生が、単行本に一切収録しようとしなかった点からも、全く別種の「ドラえもん」という認識だったのではないだろうか。


本作も一コマ目にいきなり机の引き出しからドラえもんとセワシが登場、「こんにちは、このドラえもんをあげる」と急展開。のび太はここでも「引き出しから出てくるなんて気味が悪い」という理由で拒絶し、逃げるように外へ。

空き地に行くと、スネ夫とジャイアンがたこ揚げをしている。最初にセワシ君の「明けましておめでとう」という挨拶はなかったが、たこの存在によって物語がお正月であることがわかる。

のび太は大きな「龍」と書かれた凧を見て、「僕にもちょっと持たせて」とスネ夫に頼む。スネ夫はいかにも意地悪そうな表情だが、あっさりと「のび太くんにできるかな」と言って貸してくれる。この時、隣に佇むジャイアンからは、穏やかな空気が流れている。

凧を借りたのび太だったが、すぐに糸を切ってしまい、凧は近所の家の庭へと飛び込んでしまう。取りに行くが凧はボロボロ。謝っても、スネ夫とジャイアンは「元通りにして返せ」と怒って許してくれない。やはりスネ夫は意地悪であった。


そこへドラえもんが参上。「元通りにしよう」と言って、名もなきライト(復元ライト?)を凧に当てると、あっと言う間に直ってしまう。初めてひみつ道具が登場したシーンである。

この時ドラえもんのポケットが消えていることから、ポケットを変形させるとひみつ道具になるという設定だったのだろうか? やや謎である。

さらにドラえもんが作ったというお手製の「ロケットのたこ」を出し、セワシ含めて3人で空を飛ぶ。「友だちになろうね、ドラえもん」と、本作ではさっそく二人の友情関係が成立するラストを迎えるのであった。


本作はカラー作品となっていて、ドラえもんの手足が肌色であるのと、シッポの先が青くなっている部分が、初期設定を強く感じさせるところである。


さて、本稿では「よいこ」と「幼稚園」のドラえもん第一話を検証した。それぞれ幼年向けということで、タイムマシン設定も一切描かず、突然登場するドラえもんとのび太の交流に焦点を当てた構成となっていた。

これが学年が上がっていくとどうなるのか。続きは次稿にて。。


「ドラえもん」検証考察を行っています。


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