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のび太は何が何でもお花見に行きたいのだ!/Fキャラお花見騒動⑤

ニッポンの春の風物詩と言えば「お花見」である。満開のソメイヨシノの木々の下で、お弁当やら飲み物を並べて、ワイワイと家族で楽しく過ごす。

花の美しさを眺める楽しさもさることながら、花見を口実に少し遠くまで出かけて、春めく陽気の下で普段食べないようなご馳走とか、ジュースを飲めるという特典もある。

藤子世界では、お花見好きの人たちが大勢いるのだが、その中でものび太君は、特にお花見に行きたくて仕方がない。ところが、なかなか親に連れて行ってもらえず、毎年悔しい気持ちになっている。

けれどのび太には、親の代わりに世話役のドラえもんがいる。のび太は定期的にお花見に行けないことを嘆くのだが、そのたびにドラえもんが何とかしてお花見を成立してあげるのだ。


少し前にのび太のお花見騒動を描いたお話を取り上げた。『かべ景色きりかえ機』という1983年春のお話である。

本稿では、このお話から3年後と、そのまた4年後の似たようなエピソードを二本一挙に紹介していく。3作品ともほぼ同じような始まり方だが、ドラえもんは毎回趣向を凝らしたお花見を用意してくれている。

3作品を読み比べて、のび太がいかにお花見好きか、ドラえもんがいかに世話焼きかをご堪能いただければと思う。


「ドラえもん」『何が何でもお花見を』(初出:お花見)』
「小学三年生」1986年4月号/大全集16巻

しずちゃんの家でいつものメンバーで集まり、お花見の話題で盛り上がっている。

しずちゃんが満開の桜の木の下で家族三人でご馳走を囲んでいる写真を見せて、先週の日曜日にお花見に行って楽しかったと言う。ジャイアンも花見に行ったらしく、親父が酔っ払ったと嬉しそう。スネ夫は桜の木のある別荘に出掛けたらしい。

桜の季節はそろそろおしまいで、明日の日曜日が最後のチャンスだと聞き、のび太は急いで家へと帰っていく。


帰宅したのび太は、アルバムを取り出してきてママに渡しながら、

「お母さん、我が家のアルバムを見てください。その中に一枚でも家族揃ってお花見してる写真がありますか!」

と、少し凝った説得を試みる。そんなのび太に対してママは、

「なにもわざわざ人混みの中に行ってお弁当食べなくても」

と、親とは思えない塩対応。パパの都合もあるしと言うので、のび太はパパの会社にまで電話して、明日の予定を確認する。すると何とゴルフの約束が入っており、「またいつか・・」と期待外れの返答なのであった。

のび太は「僕は世界一不幸な少年だ!!」と号泣。そこでドラえもんが「何とかしてやるよ」と言って、タケコプターでどこかへと出掛けていく。どのようなお花見の仕込みをしてくれるのだろうか・・・。


ここからの展開としては、ドラえもんが何か道具を使って、パパとママをお花見に連れて行かせるように仕向けてくれる流れとなるのだが、本作では何の道具を使ったか謎のままという不思議なことになっている。

まず、しずちゃんのママが「なぜか突然」やってくる。そして先週のお花見の写真をのび太のママに見せて、お花見の魅力をたっぷり話して聞かす。

パパが帰ってきて、明日のゴルフのメンバー全員の気が変わって、ゴルフの予定が無くなったという。すると花見の楽しさを吹き込まれていたママが「じゃ、たまには皆でお花見でもしない?」と提案する。

どういう道具を使ったかは謎だが、ドラえもんの作戦はどうやら成功したようである。


ところが、「明日天気になあれ」と言って眠ったところ、翌日は朝からざんざん降り。せっかくの花見のチャンスが奪われ、のび太は「みんなで僕に意地悪してるんだ!!」と騒ぎ立てる。

「どうせ僕なんか一生花見ができないんだ!!」と布団に潜りこみ、「ドラえもんなんか、もう当てにしない」と八つ当たりを飛ばしてふて寝してしまう。

ドラえもんはここで「僕は約束を守るぞ」と強い意志を固める。ここからがドラえもんの本領発揮である。

夜中になって雨が止んだので、のび太を起こして桜の公園へと連れて行く。昼間からたっぷり寝ていたので、大丈夫との読みである。

公園では昼間の大雨で花が散ってしまっているが、「でも約束は守る!」と言って、ドラえもんは「花咲か灰」を桜の枝に撒いていき、一面を満開にしてしまう。

「花咲か灰」は、『かべ景色きりかえ機』でも使用した「花咲かじいさん」の撒いた灰をモチーフにした道具である。

「花が咲けばいいってもんじゃない」とのび太は引き続き不満を述べるが、今日のドラえもんは「わかった!どうすれば気に入る。何でもどんどん言ってくれ」と気合が入りまくり。

その後、

暗くて陰気くさい → 夜昼ランプ
しずかで寂しい → 立体効果音8チャンネル(花見のにぎわい)
お弁当 → グルメテーブルかけ
やっぱり家族揃って・・・ → ゆめふうりん

次々とひみつ道具を繰り出して、のび太の要求に応えていく。ここでひみつ道具をたくさん出すので、人の気持ちを変える道具は敢えて見せなかったのかも知れない。


ドラえもんのあらゆる手段を駆使した結果、眠ったパパとママ、しずちゃんを呼び、ご馳走を囲む。近くを歩く酔っ払いにも特別出演させて、周囲を賑やかす。のび太はようやくここで大満足となるのであった。

のび太はここで感謝の言葉を述べる。

「ごめんね、わがままばっかり言って」

ドラえもんの奮闘を素直に感謝する姿は、感動的なのである。


「ドラえもん」『食べて歌ってバイオ花見』
「小学三年生」1990年5月号/大全集17巻

ところがこの4年後、ドラえもんの大奮闘で大満足したことは綺麗さっぱり忘れてしまったのび太は、またもお花見に行けないと嘆くことになる。

のび太は窓の外を眺め、

「今年もついにお花見をしなかった。こうして虚しく月日は流れて行くのだな・・・」

と呟く。窓からはどこかの家のこいのぼりが見える。本作はとっくにお花見の時期を逃した「5月号」のお話なのである。

ドラえもんは「花なんか学校の行き帰りに見ただろ」とそっけなく答えるが、「花に囲まれてご馳走なんかを食べるのが花見だよ」とのび太はいつもの反論をする。

ドラえもんは「わかったわかった」と言って、ここからまたしてもお花見を堪能したいのび太の要望を叶えていくことになる。


そこで取り出したるひみつ道具は「バイオ植木カン」。これを部屋に設置し、裏山で拾った桜の葉っぱを入れて、三分の一で縮小コピーするとクローンの桜の木が生えてくる。そしてシーズンダイヤルを春にするとパッと満開に花開く。

植木カンを何本か立てると、のび太の部屋はすっかりお花見のロケーションとなる。せっかくなのでご馳走を食べながら・・・と思うのだが、ママは留守で食べ物もジュースも残っていない。

そこでドラえもんはご馳走を用意するべく仕込みに入る。少し時間が掛かるということで、しずちゃんを呼んできて、しばしカラオケタイム

ドラえもんは音痴だということで、マイクはしずちゃんの手に。下手だから恥ずかしいと最初は言っていたが、一度マイクを握ると離さず歌い続けるしずちゃん。控えめなしずちゃんにしては、少し珍しいシーンである。

夢中で歌い過ぎて喉が渇いたとしずちゃん。そこでドラえもんが、そろそろあれを・・と言いながら、準備していたヤシの実(ミニサイズ)と、フルーツ盛り合わせ(ミニサイズ)を持ってくる。

ドラえもんは先ほど世界中からフルーツの遺伝子を集めて、バイオ植木缶でクローンを育てていたのである。他にもトウモロコシ、しずちゃんの好きなサツマイモ、マツタケなども生えてくる。

マツタケに関してはミニサイズでは物足りないということで、庭で原寸大の赤松を準備して、原寸大のマツタケをゲットする。マツタケを肴にお花見という、季節ないまぜの贅沢を堪能するのび太たちなのである。


さてこの後はジャイアンとスネ夫も合流。ジャイアンはカラオケセットがあることに気がつき、ボゲ~と熱唱してしまう。

そこにママが帰ってきたので、楽しかったお花見はここで終了。バイオ植木缶のキャンセルボタンを押し、生えていた桜の木などを消す。

するとスネ夫がこの缶を貸して欲しいと言い出す。自分の家の広い庭を使えば、通常のニ、三倍のフルーツなどが作れると考えたのである。

ところが、大きければいいと言うものではなく、スネ夫の家の庭はまるでジャングルのようになってしまうのであった。


本作では、お花見にマツタケという贅沢さが目を見張るが、加えてカラオケの時間があり、そこではしずちゃんがカラオケ好きという新たな側面を見ることができる。

ちょっぴり得した気持ちになれる作品なのである。




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