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ジャイアンの報われない恋・2選/藤子恋愛物語⑩

藤子Fキャラクターたちは、恋愛体質の持ち主ばかり。
恋をしては、フラれたり、成就したり、片思いのままだったりと、悲喜こもごもが繰り返されている。
そこで、恋するFキャラの恋模様を考察していく大型企画「藤子恋愛物語」シリーズを始動させた。
節目となる第10弾は、ご存じ「ドラえもん」世界のガキ大将、ジャイアンこと郷田武の恋愛話を取り上げる。腕力でのび太たちは言う事を聞いても、好きな人にはそんなものは通じない・・。

大人気シリーズ企画「藤子恋愛物語」の第10弾では、ジャイアンの真剣な恋のエピソードを、一気に2本ご紹介。驚くほどに奥手な、恋に不器用なジャイアンの姿を見ることができる!


『グンニャリジャイアン』
「てれびくん」1981年7月号/大全集19巻

それまでほとんど好きだ嫌いだといった恋の話題をしてこなかったジャイアンが、突如名前も知らない女の子のことを好きになる。

好かれようとする表現方法がわからないので、「ニーッ ニタリ ニタリ」とニヤけるのみ。恋の相手となる女の子は、薄気味悪い大男の歪んだ笑顔を見て、散歩していた子犬を抱えてそそくさと逃げ出してしまう。

女の子を追いかけていくが、家の中に逃げ込まれてしまって、「また逃げられた」とジャイアンはため息を吐く。また、ということは何度か追い回しているのだろう。女の子からすれば、はた迷惑極まりない。


と、そんなことがあったので、ジャイアンは空き地で脱力してグンニャリ。のび太とスネ夫が珍しいと言って近づき、相談に乗るよと声を掛けると、「心の友よ!!」と抱きついてくる。

そこで、最近この辺で犬の散歩をしている女の子と友だちになりたいと、恋の悩みを打ち明ける。

「声をかけようと思うけど・・・、俺ってほら・・・内気だろ・・」

唐突な告白に、笑いを堪えきれないのび太とスネ夫。

まずはスネ夫のアイディア。のび太が女の子を苛めて、ジャイアンが通りかかってのび太をメタメタにするというもの。のび太は「古い!」とたしなめ、「優しさこそ男の魅力」と優しい笑顔を勧めるのだが、強烈に不気味な作り笑顔しか作れない。

ジャイアンは、「3時間以内にあの子と友だちにしろ、成功したら心の友、失敗したらただでは済まねえ」と、これ以上ない無茶ぶりをしてくる。


この手の無理ゲーに堂々と挑むのがスネ夫。人形を使って女の子を空き地まで誘い出し、土管の後ろ側にジャイアンを隠した上で、この町一番の素敵な友だちを紹介したいと切り出す。

スネ夫に先を越されてはならないと、「ウラオモテックス」という嘘がつけなくなるひみつ道具を使って、スネ夫のおべっかを封じる。

「見かけは怖そうだけど・・・実は本当に怖いんだ・・。あれ? 頭が悪い癖に、馬鹿力が強くて・・、わがままで意地汚くて」

と、これ以上ないほどの悪口で貶す。

当然大激怒でスネ夫を追いかけ回すジャイアン。まだスネ夫は悪口の相手がジャイアンだと言っていないので、ギリギリセーフだったと思うが、ジャイアンが土管の影から飛び出したので、女の子に乱暴する姿を見られてしまったのは痛手である。

ちなみに「ウラオモテックス」は約5年ぶり2回目の登場である。前回もスネ夫のお世辞を封じるために使用された。


続けてのび太(ドラえもんの道具)の出番。「キューピッドの矢」という、矢を当てれば好きになってくれるというあまりにチートなひみつ道具で、女の子の心を掴もうという作戦である。

「キューピッドの矢」は、こちらも二度目だが『ああ、好き、好き、好き!』以来、実に11年ぶりの登場である。この時は弓矢が上手く当てられず、ドタバタ騒ぎが巻き起こったのだが、本作でも同様の展開となってしまう。


ジャイアンに弓矢を持たせて、ドラえもんたちは「生物コントローラー」を使ってペットの犬を外に誘い出して、またしても空き地へと女の子を連れてくる。

女の子を目の前にして慌てたのか、ジャイアンは全ての弓矢をあさっての方向へ飛ばしてしまい、一本がドラえもんに命中。トチ狂ったようにジャイアンにすがり付くドラえもん。弓矢の効果は抜群だが、誤って射抜いた時のリスクが大きすぎるアイテムだ。

その様子を見ていたスネ夫は、この弓を当てればジャイアンが好きになると勘違いして、女の子に後ろから矢を刺してしまう。スネ夫を好きになってしまった女の子は、ジャイアンの前でいちゃついて、またも大激怒。


さて、女の子はその直後、姿を消してしまう。事情通のしずちゃんによると、女の子は親戚の家に遊びに来ていただけで、大阪の実家に帰ってしまったという。(スネ夫を好きなまま?)

そうした事情を知らないジャイアンはグンニャリし続けて、スネ夫はジャイアンからコソコソと逃げ回る。ある種平和な日々が続いたのだという・・。


ジャイアンが好きになった女の子は、少し自分より年下で、どちらかというとかなり低学年に見える。そして犬を飼っている。また、初めて見た女の子に一目ぼれしてしまう特徴がある。この特質は、そのまま次の作品に引き継がれていく。


『恋するジャイアン』(初出:ホクロ型スピーカーで告白)
「小学六年生」1990年11月号/大全集16巻

『グンニャリジャイアン』から実に9年後。再び恋するジャイアンの姿を見ることができる。

ジャイアンはまたも唐突に見ず知らずの女の子に一目惚れしてしまう。そして恋の相談相手は、スネ夫とのび太。なんやかんやで本当にこの二人とは心の友なのかもしれない。

先に事情を聞いたスネ夫がのび太を空き地へ呼び出す。土管に座って背を向けているジャイアンから、一枚の紙がヒラヒラと舞う。そこには「スネ夫おまえからはなせ」と汚い字。

スネ夫は半笑いで話始めるが、そこにまた紙がヒラと落ちてきて、「わらうな!!」と書かれている。スネ夫はのび太の耳元で、ジャイアンに好きな女の子ができたと説明し、のび太は思わず笑ってしまう。このあたり、前作とよく似た展開だ。

ジャイアンはその女の子と友だちになりたいのだが、自信がないのだという。ここから、のび太とスネ夫はジャイアンがいることを忘れたかのような悪口大会へ。

「うん、その(ジャイアンの)気持ちわかる」
「だろう?下手に近づいたら逃げ出すかも知れない。何しろあの顔だもんね」
「そうそう、見るからに頭が悪そうで、本当に悪いんだもんね」

相手がジャイアンではなかったとしても、殴られる言い草である。(実際に殴られる)

そこでまたしても、スネ夫とのび太でジャイアンの友だち作戦を実行することに。なお、好きになった子というのは、公園で偶然写真に写っていた可憐な風貌の女の子である。写真の子に一目ぼれしてしまったのだ。

ドラえもんは「万能プリンター」で一枚の写真画像を解析し、女の子がダックスフンドのような犬を散歩させていることを突き止める。ちなみに「万能プリンター」は、本作の二カ月前に初登場したばかりの機械である。

散歩ルートが公園を通ると予測し、そこでばったり会う作戦を立てる。問題は、出会った後、極度の口下手のジャイアンが、うまく会話できるかどうか・・。

そこでドラえもんは「ホクロ型スピーカー」と「マイク」のセットを出す。ホクロをジャイアンが付けて、飼い犬のムクを散歩させて公園で女の子と出くわし、おべんちゃらが上手なスネ夫が名セリフを言うという作戦である。


ところがまず、ムクの散歩を普段はジャイ子に任せっきりだったので、急にジャイアンが散歩に誘ってくるので、ムクの方が驚き、雪が降らないか訝しがる。

ムクは飼い主にして粗暴で、やたらにおしっこをするわ、ゴミを漁るわとやりたい放題。そうこうしているうちに、スネ夫が一休みに入ってしまい、タイミング悪くその間にお目当てのダックスフントを連れた女の子と出会ってしまう。


マイクを持つのはのび太。こちらもジャイアンに負けず劣らずの口下手だ。まず「アー、ただいまマイクのテスト中」とマイクのテストをしてしまう。それでも何とか犬が好きだという話題を出して、女の子の気を引くことに成功。

女の子はムクの名前を聞いてくるのだが、のび太はなぜかムクではなくベンジーと名乗るのだが、これは偶然女の子の犬も同じ名前であった。同じ名前は何か嫌だと言われたので、慌ててのび太は

「じゃあこうしよう。僕のが大ベンジー。君のが小ベンジー・・」

大便・小便を連想させ、女の子は「何だか汚いなあ」と、表情を曇らせる。するとそこで暴力的なムクが、ベンジーちゃんに喧嘩を仕掛けて、ズタボロにしてしまう。当然、気を悪くした女の子は、そこを去って行ってしまう。

ジャイアンの二度目の淡い恋は、まさかのペットのムクの暴力沙汰で一巻の終わりとなってしまったのである。


ところで、ジャイアンの妹ジャイ子も兄譲りの奥手で、やはり好きな男の子に話しかけることができない。本作の一年半前の『泣くなジャイ子』では、茂手君という男の子に対して、「身代わりマイク」という今回とよく似た道具で、やはり遠隔から代わりに告白をしてもらっている。

この時もマイクを握ったのび太は、第一声で「ただいまマイクのテスト中」と始めてしまっている。本作は、その繰り返しギャグとなっているのである。


「ドラえもん」の考察たくさんやっています。


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