見出し画像

幻の赤ちゃんパーマン5号誕生!/考察パーマン⑩前半

あなたは知っているだろうか?
赤ちゃんのパーマンがいたことを。

通称パー坊。パーマン5号である。

「パーマン」は1967年に連載が始まった「旧」と、80年代にリバイバルされた「新」の二つのバージョンがあって、微妙に設定が異なっている。これについては、またいずれ検証するが、最も大きな相違点は、パーマンが5人から4人になったという大幅な設定の変更である。

僕は80年代にパーマンを知った「新」世代なので、当時読んでいた「てんとう虫コミックス」では、パーマン5号の存在は既に消されていた。リバイバルされたアニメでも、5号は登場していなかったのである。

ところが初めての全集となる「藤子不二雄ランド」で、パーマン5号が復活する。実は「てんとう虫コミックス」でも、赤ちゃんパーマンの姿が数コマ残されており、なんとなくその存在は知っていた。しかしその全貌は不明だったので、5号登場のエピソードが読めるのはとても嬉しかった。

が、何だろう? 待ちに待って読んだはずなのに、あまりワクワクしなかった。拍子抜けという感覚に近いのである。

5人目のパーマンが赤ちゃんというアイディアは面白い。けれど、お話として読んだ時に、赤ちゃんパーマンの存在は、「パーマン」の魅力であるチーム力を損ねている感じがするのである。

これは、なぜパーマン5号が消されてしまったのか? という問いの答えであると思われる。端的に言えば、赤ちゃんパーマンの存在は、足手まといなのである。パーマン仲間にしても、藤子F先生にしても、だ。

パー坊がどのように足手まといなのかについては、次回の記事でたっぷり検証する予定だが、本稿ではまず、パーマン5号誕生のエピソードをしっかりと見ておきたい。

画像5

『パーマン5号誕生』
「週刊少年サンデー」1967年夏季臨時増刊/大全集2巻

掲載誌は少年サンデーの夏の増刊号で、何か特別なことを書こうと考えたのだろう。それが、5人目のパーマン登場、というお話であった。この時点で「パーマン」は連載開始から8カ月経っている。

ただ、僕はこの5人目のパーマンを出すことは、わりと急に決めた可能性があると思っている。

理由としては、本作執筆の直前「小学三年生」8月号の『おれをパーマン5号にしろ』で、カバ夫からパーマン仲間に入りたいと熱烈ラブコールを受けるお話を描いている点が挙げられる。先に5号登場の話が具体的にあるのに、カバ夫が5号になる、という話を描くだろうか?

また、5号の登場が4号からだいぶ間隔が空いている点も不自然だ。早めに仲間を多く作っておいた方が、ストーリーにも厚みが出そうなものである。その点から、少なくとも連載当初からのアイディアではないことがわかる。

そして最大の理由は、パー坊の扱いが一発屋・出オチに近いということだ。つまり設定を練り込んだ感じを受けないのである。

ただF先生も、5号を出すとしたらどのようなキャラクターにするか、頭をひねっていたものと思われる。一応、5人目が赤ちゃんというのは、バランスは取れている。サルのパーマンである2号とも対になりそうな感じもする。実際、本作では、サル語と赤ちゃん語を使って、ブービーと1対1で会話をしていたりする。

またサルのパーマンでも、みつ夫の相棒としての役割をしっかり果たしている。もしかしたら、パー坊もキャラ的に化けるかもしれない・・。

画像1

さて、パーマン5号はどのように選ばれたのだろうか。発端はみつ夫が汗を拭うためにパーマンマスクを取ってしまい、その瞬間を赤ちゃんに見られたことである。

最初はパーマンも顔を見られた相手が赤ちゃんということで安心していたのだが、みつ夫になってその赤ちゃんの前に顔を見せると、「パーパー」と指差してきたり、パーマンのアニメの主題歌を歌ったりする。つまり、全ての事情をすっかり理解しているお利口さんなのである。

ただ利口な赤ちゃんであるならば、説得すれば秘密を守ってくれるかもしれない。パーマンが赤ちゃんとそのママの後を追うと、みつ夫の家へと入っていく。たまたまみつ夫のママと同級生だった山田さんとその息子のコーちゃんだったのである。(ちまみに本名は山田浩一)

画像2

みつ夫は、「さっそく子守をさせて」と言って部屋に連れていき、コーちゃんと二人きりになる。そこで「僕がパーマンであることは内緒にしてくれ」と直球でお願いするのだが、アバアバ言っていてどこまで分かってくれたか、よくわからない。

しかしコーちゃんはやはり利口もので、みつ夫の机からお菓子を引っ張り出して、これが貰えないと分かると、ガン子にパーマンの正体をばらそうとする。駆け引きができてしまう子なのだ。

その後もコーちゃんはやりたい放題。みつ夫をさらに脅して道路でお馬さんをやらせたり、みつ夫のズボンからパーマンマスクとマントを取ったりする。なぜか言葉が通じるブービーの説得も聞かない。パー子に対してはマスクを取って顔を見ようとする

ちなみにこの時、パー子のマスクは半分くらい脱がされてしまうが、分かる人が見れば一発で星野スミレとわかる風貌だ。この話の前後の発表作品からスミレちゃんの出番が増えており、この時点でパー子の正体=スミレは確定していたであろう。ただ、直接的なパー子の正体がわかるシーンは描かないまま、旧「パーマン」は最終回を迎えてしまう。

画像3

コーちゃん説得作戦も失敗に終わり、さらには偶然パーマン5号を作ろうとやって来たスーパーマンにも、バレてしまう。

同じような展開が『パーマン全員集合!!』にもあったが、本作でもそれを踏まえて、スーパーマンは「また秘密をもらしたな」「もう今度は勘弁ならん」と、みつ夫が情報漏洩の常習犯であるかのように叱りつけてくる。

パーやんがパー子に呼ばれてやってくるのだが、「またややこしいことになったようやね」と、こちらも常習犯扱いである。

パーやんが考え出したアイディアは、コーちゃんに対してパーマンチェックをするということだった。パーマンの資格に年齢制限はない。半信半疑でチェックすると、コーちゃんはパーマンの資格ありという驚きの結果。コーちゃんをパーマン5号にすることで、みつ夫の秘密は漏れずに済む。

マスクとマントが欲しかったコーちゃんは、パー坊となって大喜び。「キャッキャッ」と飛び回り、パー子に抱きつく。すると、なんとそこでお漏らしし、パー子の服はオシッコで台無しとなる。パー坊はさらにブービーのバナナを取って逃げ回る。そんな様子を見たパーやんは、

「それにしてもえらいもんが仲間に入りよった」

と、ちょっと他人事。自分が進言してパーマン5号にしたというのに・・・。

画像4

パーマン5号は、パーマン連載の中ではデビューが遅かったことや、通常のお話にはあまり出てこないことから、その後も影が薄いパーマンとして存在していくことになる。

ただ、脇としてはあまり登場しなかったパー坊だが、メインを張ったお話があと3本存在している。これについては次回以降見ていく。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?