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「アンキパン」は、なぜ暗記ができるのか?/ドラえもんミニ考察⑧

少し前にLINEを使ったアンケートで、一番欲しいドラえもんのひみつ道具ランキングを発表している記事を読んだ。「どこでもドア」「タイムマシーン」「もしもボックス」とベスト3は納得いくものだったが、4位に「人生やりなおし機」が入り、5位は「アンキパン」という意外なランキングだった。

僕が最も注目したのは「アンキパン」の上位入りと、その知名度である。性年代別で見ると、十代二十代の男女が挙げている。やはり学生時代は覚えることが多いので、藁をもすがるという気持ちなのだろうか。

ちなみに30代以降はベスト5に入っておらず、暗記は諦めたのかも知れない。

また他のランキングで気になったのは50代女性の5位「お医者さんカバン」と、30代男性5位に「とうめいマント」である。。


さて、本稿ではミニ考察として若者が欲しくて仕方がない「アンキパン」について考えてみよう。

『テストにアンキパン』
「小学三年生」1972年5月号/大全集3巻

まずはストーリーを軽く追ってみる。

冒頭のび太が、部屋中をドタバタと駆けずり回っている。「困った困った。どうしよう」と慌てるのび太の手にはやかんとまくら。ドラえもんが困っている理由を尋ねると、明日国語と算数のテストがいっぺんにあると。やかんとまくらは、テストと関係ないけど慌てている証拠ということらしい。

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ドラえもんはそんなのび太を無視するが、泣いて懇願されると「せん風機」で学校を吹き飛ばす、「動物ライト」で先生をゴリラにする、という投げやりな提案をする。

「真面目に考えてくれ」と怒るのび太にドラえもんは、「ふだん勉強しないのがいけないんだっ」と極めて正論を吐くのだった。「今度だけ助けてくれ」とさらに懇願され、ドラえもんは「アンキパン」を出す。

「アンキパン」はしっかりと耳がついた食パンで、見る限り5枚切りくらいの厚さがある。このパンを覚えたいノートのページにくっつけると文字が写り、これを食べることで書いてあったことを暗記してしまう。

これを使って算数と国語の教科書などをどんどん暗記していくのび太。ところが肝心のページが破れて抜けている。ちり紙がなくて大事なノートで鼻をかんでしまったのだという。何をやっているんだ、のび太!

そこでアンキパンを大量に貰って、しずちゃんの家へと向かう。ノートを借りようという算段である。

のび太はしずちゃんの部屋に上がり込み「覚えることなら自信があるんだ」と話すと、しずちゃんの容赦ない返し。

「クラスで一番の忘れんぼのあんたが? ホホホ」

初期ドラではしずちゃんはのび太に対して辛辣なのである。

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馬鹿にされたのび太は「やってみせる」と言って、電話帳の最初の方のページをムシャムシャと覚えていく。
・阿井上男(あいうえあ)さん→123の4567
・柿久家子(かきくけこ)さん→999の…

という具合である。

「テストで100点取るなんて訳ないね」と調子にのったのび太は、後先考えずにしずちゃんのママが出してくれた草もちをパクパクと食べてしまう。なので、いざしずちゃんのノートを暗記しようとすると、満腹で食が進まない。

腹を空かせて暗記するため、ノートを借りて帰宅するのび太。ところがこの日は母の日で、パパが張り切ってご馳走をたっぷりと手作りしていたのだ。ゲープと言いながら無理やりご飯も食べて、いよいよアンキパンが入る余地はない

何も覚えてこなかったのび太に、ドラえもんは突如スパルタ化。全く食べる気も起きないところに、無理やりパンを5枚重ねて水で流し込む。窒息寸前ののび太に、

「なにがなんでも全部食べさせる」

と鬼の形相なのであった。

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翌朝。のび太が1時間もトイレに入りっ放しとなっている。食べ過ぎてお腹を壊してしまったのだ。これにより、覚えたことをすっかり出してしまったこととなって、また一ページ目から食べ直し(覚え直し)となる。「勉強はつらいなあ」とせっせとアンキパンを食べ続けるのび太であった。


さて、ストーリーをおさらいしたところで、アンキパンという非効率な道具に思いを巡らせてみたい。

自分は食パン5枚切りくらいに見えるが、小学館発行の「ドラえもん公式調査ファイル てんコミ探偵団2」によると6枚切りとほぼ同じ厚さだと考察している。いずれにせよ、たった一頁を覚えるのに食パン一枚を食べなくてはならないのはキツすぎる。

これをのび太はどれだけ食べなくてはならなかったのか

テスト範囲がどれくらいかはわからないが、母の日の翌日のテストなので、「4月のおさらいテスト」といったところだろうか。本作は「小学三年生」の掲載話なので、算数と国語の二科目の教科書は15ページずつくらいだろうか。他にもワークブック(ノート?)を暗記しようとしていたので、最大で10ページずつくらいと見当をつけたい。

なのでざっと二科目で50ページも覚えればほぼ全てを網羅できるだろう。仮に6枚切りのパンだとすると、8斤ほどとなる。一斤が大体1000キロカロリーと言われているので、全部食べると8000キリカロリー

のび太は小3の5月だとまだ8歳。一日の摂取カロリーの目安は1600キロカロリーくらいとされているので、大体5日分のカロリー摂取をしなくてはならない。とんでもない量である。

こう考えると、アンキパンをテスト対策の暗記に使うには、健康被害のリスクが高すぎる

「てんコミ探偵団」でも、もっとパンを薄く改良できないのか、と問いかけられているが、全くその通り。ただ半分の薄さとなっても、おそらくのび太は食べ切れなかっただろう。


さらに「アンキパン」の注目ポイントとして、トイレに行ってしまうと暗記の効果が無くなってしまうのかどうかという点がある。今回のび太はお腹を壊してしまって、覚えたことを「出してしまった」とされる。なので、しっかり消化していれば暗記は定着したのかも知れない。

すると、毎日その日に習ったことをアンキパンで覚えていけば、あまり無理せずに暗記が定着できた可能性がある。


また、なぜ未来の技術をしてでもアンキパンが分厚いのかと疑問が浮かぶが、暗記を定着させるためには「あの厚さが必要である」と考えるのが筋だろう。あの厚さをしっかり噛んで消化するプロセスが必須だったのかもしれないし、あのボリュームのカロリーが必要だったのかもしれない。

いずれにせよ、アンキパンがあっても一夜漬けは非常に危険だということがわかる。のび太は「勉強はつらい」と嘆いていたが、やはり毎日の勉強習慣が大事なのである。


さて、本日は藤子F先生のお誕生日。ご存命ならば88歳(米寿)でした。早くにお亡くなりになってしまいましたが、先生の作品はいまだ愛され続けています。そして、さらなる発展を祈念して、自分も記事を書いていきたいと思います。


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