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野比家と骨川家の命運が決まる日『ご先祖さまがんばれ』/野比家のご先祖様①

「ドラえもん」では、特に初期において野比家の祖先が登場するエピソードがある。江戸時代以前では3回描かれており、これをシリーズで紹介していく。題して「野比家のご先祖様」。ちなみに石器時代にものび太の先祖としか思えない少年が出てくるが、それは今回は触れない。


『ご先祖さまがんばれ』
「小学三年生」1970年6月号/大全集1巻

初期ドラではタイムマシンを使ったお話が多数描かれている。実際に「タイムマシン」がビジュアルとして登場したのは『恐竜ハンター』(1970年5月)で、その翌月(1970年6月)に本作が発表された。

ちなみに同月の「小学四年生」においてパパの少年時代を描いた『白ゆりのような女の子』も描かれている。


本作は典型的な「スネ夫自慢型」の導入で始まるが、この展開は本作が初めて。何度も書いているように、初期ドラではスネ夫がのび太と敵対するキャラクターであった。本作でもジャイアンを上回る嫌な感じを発揮している。

今回のスネ夫の自慢のタネは「ご先祖様」。二本の日本刀をのび太、ジャイアン、しずちゃんに見せびらかし、お辞儀までさせている。この刀はスネ夫の先祖が殿様から貰ったもので、骨川家の家宝となっているらしい。

スネ夫の先祖は、殿様の危ないところを救い、以来、家老を務めてきたのだという。家老といえば殿様に次ぐNo.2の地位である。トドメに「君らとは家柄が違うよ」と言い放って、のび太もジャイアンも怒り心頭なのであった。

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のび太は家に帰り、パパに自分の先祖はどんな人か聞くと、山奥で狩人をして、鳥やけものを取って細々暮らしていたのだという。今ののび太同様、パッとしない生活なのであった。

スネ夫に馬鹿にされたことをドラえもんに話すと、「負けてたまるか!!」と激昂し、タイムマシンで先祖に会いに行って殿様にしてやると息巻く。初期のドラえもんは過去を変えることに何ら躊躇がない。


タイムマシンで向かった先は、まだ身分制度が定着していない戦国時代。下剋上や豊臣秀吉のような立身出世が可能だった時代である。ちなみにタイムマシンの造形は、前回の初登場から少しだけ変化している。

山奥に降り立つと、いきなり飛んできた矢に「ブス」とドラえもんの頭が貫かれる。すると鼻を垂らしたいかにもデキの悪そうなのび太似の男が現われて大喜びする。

「ワーイ、初めて僕の矢が当たった。大ダヌキだ」

狩人で生計を立てているクセに、初めて矢が当たったと喜ぶご先祖様。これまでどうやって生計を立てていたのだろうか。ちなみにドラえもんがタヌキ呼ばわりされたのは、本作が初めてである。

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男は狩人の「のび作」だと名乗る。のび作はのび太同様近眼らしく、なぜ狩人で食っていこうと思ったのだろうか。と、そこにイノシシが突撃してきて、3人は崖へと追い立てられる。のび作は大人しい動物専門の猟師なので、イノシシに対抗できる術はない。

すると、スネ夫そっくりの男がイノシシを背後から弓を射て倒してしまう。のび太が近づくと、無礼者と怒って刀をさやから出す。スネ夫の先祖は嫌な感じのお侍なのであった。

そこへこの男の父親と思われる武士が馬に乗って登場し、「スネ丸、出陣じゃ」と呼びかける。すると「父上、拙者頑張りますよ」と、今のスネ夫からは信じられない程に勇ましく戦場に向かうのである。

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それを見ていたのび作は、「お侍はカッコいいなあ」と他人事のように感心しているが、ドラえもんたちが「自分もいくさに行って出世するのだ」と告げると、「おっかねえことは嫌いだ」と言って家に閉じこもってしまう。こちらは完全にのび太と同じく弱虫。

そこでドラえもんは一計を案じる。のび作とのび太は同じ顔なので、入れ替わって代わりに手柄を立ててやればいいと言い出す。するとのび太は「やだやだおっかねえ」と、さすがはのび作の子孫という反応を示す。


そこに今度はジャイアンと瓜二つのよろい姿の男が通りかかる。ドラえもんたちは彼のヨロイを貸してくれと頼むがすぐに拒否。この村一番の強さを自認しており、これからいくさで手柄を立てに行くのだと言う。

ところがのび太がビー玉を落として、それを宝物だと思ったジャイアン(先祖)は、あっさりビー玉とヨロイを交換してくれる。郷田家はこの頃から物欲が強かったようである。


いくさにのび太が参戦する。怖がるのび太にドラえもんは「とうめいマント」「タケコプター」「スーパー手ぶくろ」の三点セットを用意し、これで適当にやれという。ちなみに「スーパー手ぶくろ」は、本作とほぼ同時に描かれた『白ゆりのような女の子』にも登場させている。

適当にやれと言われたのび太は、「どっちの味方をすればいいの? 正しい方を助けなきゃ」と至極真っ当な質問をすると・・、ここでかの有名なドラえもんのセリフが飛び出す。

「どっちも自分が正しいと思っているよ。戦争なんてそんなもんだよ」

この達観したセリフ。見事に戦争の本質を表現している。そしてあまり注目されていないが、続けてのセリフも意義深い。

「手近の殿様を捕まえて、相手の殿様に渡せばいくさはおしまいさ」

このセリフでは、戦争を終わらせる最短の方法をサラッと語っている。戦争は長引けば長引くほど悲惨になっていくわけで、どっちも正しいと思っているような戦争ならば、早めに切り上げるのが得策という考え方である。

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「そんなもんかね」とのび太は早速3点セットを使って殿様を捕まえ、相手陣に届ける。すると相手方の殿様は「あっぱれ!!褒美は望みどおりに」と飛び上がって喜ぶ。そこにスネ丸も生け捕りされて連れてこられる。

殿様は「二人とも切り捨てい!」と部下に命じる。それに驚くのび太は、「殺すことないでしょ。可哀そうじゃない」と懇願すると、「逆らうのか、こやつも切り捨てい!!」と部下をけしかけてくる。

のび太はスーパー手ぶくろのパワーを使って木を一本抜き取ると、これをぶん回して侍たちを一網打尽にする。何気にこの戦闘シーンはカッコ良くてオススメ

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のび太は反対側の味方をしようと方針を変えて、殿様とスネ丸を救い出す。敵陣の旗印(+×÷)を見て算数の宿題を思い出したのび太は、二人を待たせて、のび作と入れ替わる。3点セットがあればのび作でも活躍できるはず。

のび太たちは「これで先祖が家老か殿様になれるはずだ」と満足して現代へと戻る。戻ってパパに「うちの先祖は殿様でしょ」と尋ねると、「さっきも言ったろ。狩人」と答える。何も変わっていないようだが・・。

「タイムテレビ」で様子を見てみると、スネ丸は「殿様を救ったのは自分だと」嘘をついて手柄を自分のものとしている。一方ののび作はドラえもんに貰った三点セットを使って、イノシシに岩をぶつけて倒している。。

「ワーイ生まれて初めて、イノシシを捕った」

と大喜び。やはりどこまでいってもパッとしないご先祖様なのである。

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さてここで本作の冒頭に戻ると、スネ夫の先祖が殿様の危ないところを救ったというのは、のび太の手柄を奪ったことによるものだということが分かる。先祖が強かったのではなく、先祖からずる賢かったのだ。

のび太の先祖は細々と狩人をしていたとのことだったが、この職業に定着させてしまったのは、のび太が渡した「タケコプター」などのひみつ道具を使ったからということも分かる。

つまり、現代に至る骨川家と野比家の命運を決めてしまったのは、奇しくものび太とドラえもんだったというオチなのであった。


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